memory:31 期待寄せる者と応える者
突如として舞い降りた有人のアンノウン。それは風の堕天騎将 エリゴール・デモンズと呼称された。
『魔の討滅を
「……わきゃっ!? て言うか、あたしはまだ乘り初めたばかりだしっ!? こんなの――」
『サオリーナ、攻撃避けないと! そのままじゃ……わわわっ、こっち来んな! 』
意思が宿るかも怪しい異形の魔生命……
荒々しさの中にも磨き上げられた技が光る、黒翼の
「え、
「何言ってやがりますか、アオイ! あの魔界の
「そう言う事ではないですの! ちょっとおねーちゃんは、黙ってて下さいですの! 」
動揺が大きくなる
司令室を駆け巡る戦慄の中ただ一人、
「(あの少年は、セフィロトにある一世界の元首に仕えると言った。そして自らを魔貴族と呼称した点を鑑みれば、少なくとも彼は魔界の一世界が送り込んだ、戦術機関に長ける騎士相当。)」
「(であるならば、確かに今の
方や、平凡な一般社会から選ばれた普通の学生。方や、地球文化で言う王国に準ずる場所から訪れた、戦いに特化した高貴なるモノ。さらにその存在が、機動兵装での立ち回りに秀でた、戦術組織の騎士的な立ち位置との推察が素早くなされる。
そう……戦力である少年少女が日常しか経験がなかろうと、非日常での修羅場を潜り抜けた者が指揮を取るのが
三神守護宗家は草薙家表門当主、
そんな危機的状況を避難シェルター内で目撃した
「ナルナル、沙織……くそっ! 何なんだあいつはっ! 」
初めて出会った友人と呼べる者達の危機へ、少年は焦燥を
だが……そんな焦燥の弟を見やる者がそこにいた。見抜く少年の兄 蒼太である。彼もまた、眼前で今まで目にした事のない現実と向き合っていたのだ。
自分が大切に思っていた兄弟が……実の親の不徳へ牙を剥き出しにして来た弟が、誰かのために心を痛めている現実と。
そしてそこへ転機が訪れる。
その存在の言葉に、想いに胸打たれた弟が立ち上がろうとしている。誰かのために……力無き者のためにと。
それを思考した真摯な兄は双眸を閉じ、決意した。次いでその決意は、弟へ向けた言葉となって放たれたのだ。
「……
「あに……き。なんでそんな事を聞くんだ。」
「いいから答えろ。戦う力はあるんだな? 」
「あるよ。あるけど、それに俺が選ばれたかはまだ、正直微妙――」
兄の急な心変わりが放った言葉へ、戸惑いながら応じる見抜く少年。そこで少年は、ようやく気付く事となる。
己が制服ウチポケットで鈍く光る、戦う力に選ばれた証の輝きに。
†††
思えば二人から、機体覚醒に至った経緯を聞いていた俺は、遅まきながらに気付いたんだ。自分が与えられた、霊機覚醒の要因となる証が呼んでいる事に。
「俺の……俺がストラズィールに搭乗するための鍵が、光ってる!? 」
事情を知らぬ兄は困惑していたが、俺が発したストラズィールの名こそが与えられた力とすぐ察した様に表情を改める。直後 避難シェルターへ響く通信は、
『
「光ってる! 俺の指輪も光ってるよ、
興奮気味に応えた俺はモニターを睨め付ける。今俺が、二人の危機に駆け付ける準備が整ったから。すると――
そんな俺の背を押す様な声が、すぐそばから掛けられたんだ。
「……行って来い、
「……っ、兄貴!? けど兄貴は――」
「俺もバカじゃない。お前が何に対して必死になっているかぐらいは、分かるつもりだ。言っただろ?お前に戦う力は与えられているのか、と。」
俺を今まで支えてくれた、すぐ傍にあって……大きすぎて分からなかった兄の存在が、燃える心に火を灯す。兄がこれから何を言わんとするかを、今では抵抗もなくなった対人知性の能力で理解してしまったんだ。
「今までお前に対し、酷い扱いをして来たお袋……。けれどそれを止められなかったのは、俺自身の弱さだ。あんな親でも、大学に行く金やなにやら、人生を生きるための最低限の
今まで俺を支えながらも、それ以上に踏み込めなかった兄貴。その後悔が口を突いて漏れ出した。そう……間違いなく兄貴は今まで、俺を支え続けてくれていたんだ。
そんな後悔を寄せた眉根へ刻み、そっと俺の肩を叩く兄貴。けれど視線に宿るは、頼もしき
そこから俺の、新たなる飛翔へ繋がる言葉が紡がれたんだ。
「お前はもう、子供じゃなかったんだな。家族ではなく、社会に属した者から世間を教わり立ち上がった。大切なモノも手に入れ、帰るべき場所も手に入れた。俺はまだ守護宗家と言う存在をよく知らないし、信じるに足らない。足らないけれど――」
「俺は、今のお前を信じる事にする。だから行って来い、
兄貴の想いが俺を打つ。今までなんで気付かなかったんだろう。この人は俺が想う以上に、こんなにも俺の事を案じてくれていた。
そう思考するや、もう溢れる雫を止められなくなっていた。
「ごめん、兄貴。せっかく兄貴がこんなにまで……。なのに、みっともなく泣いちまって――」
「何を恥ずべき事があるんだ? 誰かに感謝し流す涙を、
そこまでを聞き届けた俺は覚悟を決める。こうしている間にも、二人が窮地に追い込まれている。けど――
人の言動から相手を見定める事の叶う俺ならば、必ず二人を助けられるはずだ。
涙を拭い、シェルターの扉を開け放つ。兄貴を見れば「想う通りにやれ。」との笑顔ももらった。それを尻目に、格納庫へと駆け出す俺は口にする。
すでに脳裏で決定付けられた、俺と共に戦うパートナーの名を復唱する様に。
「
そして……俺は格納庫で今かと待ち侘びていた
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