memory:30 光と闇の邂逅
「何してんだよ、兄貴っ! 」
俺の視界を奪った事態は、酷く心を揺さぶった。機関側で、俺の事を労りつつ受け入れてくれた家族と……家庭でいつも俺へ降りかかる火の粉を払ってくれていた家族がぶつかり合う惨状。
兄貴が
「
「
それを目にし、とっさに口にしたのは俺を受け入れてくれた
「兄貴、頼むからやめてくれ!
「……
居ても立っても居られず
それこそ兄貴が殴り飛ばす
「大丈夫だ、君は案ずる事はない。子供達に全て託さなければならない中、我ら大人が出来る事などたかが知れている。であれば、その理解を得るため体を張る程度は造作もないさ。」
「つか、
胸が痛く、そして熱くなる。あのババァがこれほどの事をしてくれただろうか。
兄貴は俺のために拳を振るった。
それを
ならば俺はこの人達に、自身の決意で応えなければならない。ババァとかに抱く憎悪なんて霞に消えるほどの、確たる決意を以って。
――
確か片隅にあったゲーム知識のそれは、別名フラガラッハとか呼ばれてたはずだ。と――
事ここに及んで、事態を急変させる通信が機関内を走り抜ける。それこそ俺達が強い感情に揺さぶられる度、それを餌にして食らい付く獣の様に。あの異形共が現れたんだ。
「……アオイさんですか? そう……分かりました。
「すまない、
「願わくば彼の……弟君の決意を、
「避難って……。一体どういう事か――」
「今はそんなの言ってる時じゃねぇんだ、兄貴! 俺がシェルターへ案内するから、何も言わずに着いて来てくれ! 」
響く通信で、緊張感が違う方向へと走る中、
「
そんな今まで通りの対魔討滅のミッション。それを一変させる出来事が――
突如として現れた黒きアンノウンにより、急転直下を呼び込んだんだ。
†††
「カタパルトへゲイヴォルグ、ガングニール……固定完了ですの! 」
「今度は二人共、せめてダメージを負わない方向で頼むでやがりますよ!? 」
『それは向こうの出方によりますね。けど――』
『そうね! 私達だって、そう易々とやられるつもりはないっポイ! 』
意気揚々と二機の機神内で咆哮を上げた二人の戦乙女は、未だ半人前ながらも気概だけは一人前。頼もしき仲間が出来た今、手を取り合い敵対生命を穿たんと息巻いた。
その事態へ急転直下を齎す状況が、双子の睨め付けるモニターへ写り込んだのだ。
「敵は性懲りもなく、
「そうでやがります! 滞空兵装を順次展開……シールド装備〈
「どうした、何があった! 二人はもう、カタパルトで地上に出ているが!? 」
「……なんでやがりますか、これ? アンノウン……謎のアンノウンが、今しがた確認した敵を殲滅して行くでやがります! 」
「なっ……どういう事だ!? 」
重金属扉を越えて駆け付けた
「……! これは、黒い霊装機神!? いや……背部の黒翼形状の飛行ユニットからすれば、差し詰め堕天使か!? 」
憂う当主率いる三神守護宗家は、現在世界規模で守りを固める任を定期的に請け負っている。その中で、欧州は英国近海に居を構える対魔防衛組織に、彼の弟である裏当主
だが光はヴァチカンに所属するそれに対し、眼前で舞うは黒翼と黒に、オレンジがかる色味を塗す御姿。それこそ地獄の淵から躍り出た、悪魔めいた様相を呈していた。
そして事態はさらにあらぬ方へと進み行く。その黒き堕天のアンノウンより、通信が送られて来たのだ。
『ヴェソニア、アルザゴール、シザ・ビュラ。ザクサレーヴェン、ヒアルディアレ――』
「通信ですの! あのアンノウンが、こちらへ通信して来てるですの! 」
「けどこれは、なんでやがります!? 見たこともない周波数に、聞いたこともない言語で! 」
すると双子の声に続きモニターへ映し出されるは、人の姿をした若者。白銀髪の
そのアンノウンを駆る若者も、機関側の状況を察したとばかりに嘆息し、地球に現存する言語へと変換して名乗りをあげる。そこへ、落胆と呆れを混ぜ込んで。
『我が名はシザ・ビュラ。太陽系は
「セフィロト……だって!? それは宗家の文献に存在する、異界の伝承世界の話と! それに、その様な世界は太陽系のどこにも――」
『呆けているのか?
異界に相当する知られざる地、
司令室でのやり取りを、格納庫で聞き及んだ宗家に属する
そこでただ一人、冷静に事に当たるは
事態を重く見た堅物一佐は、雲上の者達へ得体の知れぬ者への対応を任せ、
「整備長、すぐに残るSZ出撃の準備を! それと、今兵装庫でロールアウト待ちのアレも、同時に展開準備をお願いするであります! 」
「あぁっ!?何言ってやがる! 今あの正体不明な輩が、敵さんを片付けたばっかじゃねぇか! 一体何を相手にするってんだ! 」
「その輩が敵に回る可能性を考慮してのものであります! であれば、
堅物一佐の鬼気迫る声で、整備長も事態を悟り首肯した。そしてすぐさま、三機目の霊機出撃準備に移るが……その時点では機体になんら変化は訪れていなかった。
直後――
堅物一佐の予感を決定付ける宣言が、遥か異界より訪れた堕天の貴公子から放たれたのだ。
『残念ながら光に属するお前達人類が、あの程度の
『天楼より来たりし魔の眷属は、進化を怠り、脆弱化したお前達をのさばらせる訳には行かぬ。よって、このシザが駆る風の堕天騎将〈エリゴール・デモンズ〉で、討ち滅ぼしてくれよう!! 』
光と闇は、邂逅と共に戦いの火蓋を切って落としたのだ。
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