memory:28 少年を支え続けた者は……
「……そう、ですか。先週までは見かけた言う事ですね? 」
「はい……。それ以降はさっぱり見かけません。ここ数日は、店内監視カメラにもそれらしき少年は映っていませんでした。お力になれず申し訳ありません。」
「いえ!? こちらこそ無理なお願いを、大変感謝しています。では――」
その男性は、案ずる身内が足を運ぶであろうあらゆる公共施設を当たり、
「あいつ、ほんとにどこへ行ったんだ。これもお袋が、あいつを道具みたいに扱ったせいだ。あんな事言われたら誰だって傷付くだろう。これだから、カネでしか物事考えられない世代は嫌なんだ。」
歯噛みし、本来慈しむべき親にさえ悪態を付く
その兄はここ数日、弟が立ち寄ると思われる場所を何度も当たり、本人がいる事を願い徘徊していた。そう……守護宗家が見抜く少年をスカウトせんとした際、親御からはその旨の確認も得られていた。が、その事は兄に伏せられていたのだ。
詰まる所、親御にとっての見抜く少年はただ人気と儲けを稼ぐための傀儡であり、その自覚のある母親が身勝手に事を了承した結果であったのだ。
夕闇が包む宗家特区。それでも兄は弟を探す手を緩めない。
大切な家族であるがゆえに。彼の心の痛みを傍で感じながらも、何の手助けも出来なかった故に。
いつしかその足は、見抜く少年が頻繁に出入りしていた漫画喫茶へと辿り着く。そこでようやく真摯な兄へ光明が指したのだ。
「ああ、
店へ出入りしていた見抜く少年声に掛け続けた店主は、少年がそこへ訪れていた経緯を語る。その点には安堵を覚えた真摯な兄であったが、来てたの下りで再び険しく眉根を寄せた。
「来てた、って事は……最近は来てないって事ですよね。あいつがどこへ行ったか、分かりませんか!? どんな情報でも構わないんで! 」
「……君が彼の身内で、その彼を案じていると言うならば教えるも
「身分を証明出来るモノの、提示を要求させて貰うよ?
当然とも言える店主の言葉にも素直に応じる真摯な兄。それだけでも、彼がどれほど弟の安否を気にして止まないかは明白であった。店主の提示は、むしろそれを見るためのものでもあったのだ。
言葉に従い提示された身分証明証を確認した店主は語る。そこへ見抜く少年の兄が、訪れる事を察していたかの様に。否――
その可能性はすでに草薙宗家から示唆され、対応を任されていたのだ。
「君の弟、
「守護宗家の所有する場所へ? なんでそんな所へ……。すいません!そこへ行く件、お願いしてもよろしいでしょうか! 」
程なくそこへ臨時に向かうための手はずが、漫画喫茶店主の計らいによって叶う真摯な兄。時を置いて
「はい、そんな感じでしたねぇ。まあ後の事は、宗家様にお任せしますので。」
『心得ました。ご協力に感謝します。』
諸々の事情を社会派分家とやり取りする漫画喫茶店主。
それは
†††
トリフネでは、対魔討滅機関としての準備がようやく整いつつある。
そこでオレは、現在仮運用であった状態から正式な機関として国に認可させるための処置に入る。いつまでもアリスからの借り物機関のままでいれば、オレの寝首をかかんとする奴らの思うツボ。
それが、身内から出たサビと言う時点で嘆息しか浮かばないのだが。
「――と言う事で、今後君達を主力に据えた機関名とし、このアメノトリフネ擁する我らを日本国 対魔討滅防衛機関〈アメノハバキリ〉としての運用を開始する旨を伝えておく。」
「何ぶん無名の機関では、国内外で迂闊に活動も出来ない情勢だ。宗家が運用しているからと、口上ばかりで形のない組織では怪しまれる故の対応。そのつもりでいてほしい。」
それら説明のため、
そんな思考で子供達を見渡すオレは、手元にあった二着の衣服を彼らへ手渡しさらに続ける。
「なお、
「そこは日本のお固い連中を黙らせる対策だ。悪く思わないでくれ。」
『うひゃっ!? やべーですこれ! 機関の隊員制服とか、正義の味方的な統一感パないっ!やばみるぅーーっ! 』
「あー、大丈夫じゃないですか?
「ヤバみるって……初めて聞いたわよ(汗)。」
当然未だリモート授業な
ともあれ制服の譲渡は
が――
それこそが受け入れ進捗の進まぬ理由でもあった。
「今
データに記される新たな受け入れ予定の子供達。事が上手く運ばないのは、記された点が先の
「
「
残る三人の内二人は、札付き中の札付きだ。だが宗家全体で彼らを調査した結果、救いがある……否――救わなくてはならない子供達との見解で一致している。だからこそ、如何に彼らを正しき道へ戻しつつ、対魔討滅への協力を要請できるかが勝負の鍵だった。
と、そこへ思案中であった調査担当の、宗家が誇る輩よりの通信だ。輩との呼称は即ち、それほどまでに扱いが難しい御仁という事でもあった。
『おう、
「
『なんじゃあ!? 我がホームの瀬戸内圏をバカにしとるんか!? このしゃべりは生まれつきじゃ、許せや! 』
瀬戸内圏とは言うけれど、その周辺に属するあらゆる方言が交じる彼は
故に、族の札を付けて街を練り歩く半グレ寸前の子供を任せるには、打って付けとも言える。
『まあ長話の余裕は無いけぇのぅ。ワレから依頼のあったガキ……調査しとるんじゃが、色々な所からヤバい方面で手を出されとるのぅ。探りを入れて全部当たるけぇ、少し時間をくれや。』
「ああ、調査段階で想定はしていた。だがあまり時間をかければ、手遅れになる。彼に目を付けている半グレは世間でも問題視されるほど、卑劣な悪行を重ねているからな。」
『そっちは任せとけや。裏が取れ次第徹底的に潰してやるけぇ、一般市民の安心は保証つきじゃ。』
「……くれぐれもやりすぎるなよ? 相手は異形の化け物共ではない人間だ。彼らには然るべき法の元で裁かれる義務がある。」
『その義務に人権を、おのれらで放棄しとるのが半グレじゃろ? 殺されても文句など言えんけぇ。まあ、ワレを追い詰める様な真似はせん。じゃあの。』
しかし元々が、人類を脅かす異形の霊災専門家。人間相手ならば百人いようが皆殺しに出来る恐るべき手練れの彼。冗談か本気か分からない時が間々あるから、恐ろしい事この上ない。
会話だけでも緊張する彼との通信。それと入れ替わる様に響いたのは、
「どうした
それは想定していた事。
少なくとも彼の兄君は、弟を大切な家族として労っているとの報告を確認していたから。
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