memory:26 心の闇を超えた、光への一歩

 異形の魔生命たる小悪魔型グレムリンタイプ強襲小悪魔型ガーゴイルタイプが右往左往する。突如として彼方より舞い飛んだのは、巨鳥施設アメノトリフネから強襲した飛行ユニットを備えし戦騎。

 その一撃が爆轟と共に舞うや、一体の異形が撃ち貫かれたから。


 鮮烈にして凛々しきその出で立ちは、狙撃用調整された穿つ戦騎ゲイヴォルグとは異なる近接戦闘武装を構える。体躯の倍に及ぶ騎兵槍オクスタンランス……その突撃が異形を一撃の元に討滅したのだ。


『沙織さん、私の機体はホバリング程度しか出来ません。が、近くの小島に降りれば足場を得られ、攻撃体勢を立て直せます。』


「りょーかいだよ、ナルナル! 私とガングニールが時間を稼ぐから、小島へ降りて長射程狙撃、だっけ!? それをよろしくっぽい! 」


『ガングニール……それが沙織さんが付けたその子の名前。てか、、よく知ってましたね(汗)。』


「分かんないけど、頭に何故か浮かんで来たんだよ! それより……来るよ!? 」


 機関も待ち望んだ二機目の霊装機神ストラズィールは堂々たる姿。長距離狙撃しか無かった彼らの戦術へ、一つの広がりさえ齎した。


『沙織さん、聞こえますか!? 現在敵の増援などは確認されていません! ですので、このまま二機のストラズィールの力持ちて、残る敵の討滅を敢行します! そして、二人で無事に戻って来なさい! 』


「はい、麻流あさるさん! これよりゲイヴォルグとガングニールで、敵を片付けちゃいます! 」


 臨時指揮を執る聡明な令嬢麻流の号令を受け、覚束おぼつかないながらも戦術の形を展開する子供達。対する異形の機械生命らは、驚愕の事態へまるで意思がある如く怯んだ姿を見せた。

 その隙を逃すまいと貫く戦騎ガングニールが気炎を履き、光塵を撒くや天空を疾駆する。頑固整備長一鉄をしてじゃじゃ馬と言わしめるそれは、騎兵槍オクスタンランス以外の武装に装甲を加味しても、総重量が軽量に当たる事が功を奏し――機動性能へ一日の長を齎した。


 それは新たな戦騎の追加を意味していた。


「まずは一体! んでもって、もう一体っポイ! 」


 小島へとホバリングで向かう穿つ戦騎ゲイヴォルグを視界に入れながら、突撃からの槍の一撃を。さらに我に返った様な体で近接して来る異形を、二門の固定式重機関砲より放たれる、対魔討滅弾丸フツノミタマで風穴を空けていく。

 そして稼ぎ出された時間で小島到達を見た穿つ戦騎ゲイヴォルグは、振り返りざまに機体を静かに目的地へと着陸させた。巨大なる機体の大質量によるダメージを無人の小島へ与えない様にと。


「私が沙織さんの背後を取らせません! 撃ち抜いちゃいます、私的にっ! 」


 直後狙撃体勢へ移る穿つ戦騎ゲイヴォルグがマズルフラッシュを煌めかせれば、貫く戦騎ガングニール背後へと回り込んだ小悪魔型グレムリンタイプが次々屠られて行く。

 さらに見れば、巨鳥施設アメノトリフネ防衛から幾分数を回された対空兵装も応戦を開始し――



 そこから時間を置かずに、三度襲った危機を乗り越える子供達の、笑い合う笑顔が声を響かせていた。



 †††



 巨大な人型兵器の操縦に、敵対存在討伐と言う未体験の経験は、私にとって全てが真新しく感じたものです。


 音鳴ななるもそうですが、古今東西こんな経験をする女子高生なんてそうはいないでしょう。そこへ己の生き死にがかかるなら尚更です。そして私は――


 その戦いに勝利し、助けたい友人も助ける事が出来たのです。


「はぁ〜〜ナルナルが怖がる理由が分かった。あの敵、近くで見ると想像以上に怖いし。」


『私も一時はどうなる事かと思いましたが、その……感謝してます、沙織さん。』


 機体を固定したカタパルトが下降して行く中、ゲイヴォルグから音鳴ななるの通信が響くのですが……中々にド直球で感謝された手前、こっちまで恥ずかしくなって来たり。


 ですがそんなお互いが言葉を交わすのを躊躇ためらう合間を、見計らった様な怒号が飛んだのです。


『沙織嬢ちゃんよう! 行って来いたぁ言ったがな、ここまで機体を傷付けていいなんざ、一言も言ってねぇぞ!? カタパルトが定位置に固定され次第、さっさと機体から下りて、その目で状況を確認に来なっ! 』


「うひゃっ!はい〜〜! 」


『ぷぷっ……沙織さんも一鉄いってつさんの洗礼、浴びてますねぇ。』


音鳴ななる嬢ちゃんもだっ! そっちは、機体調整が待ってんだろうがっ!急げっ! 』


『……うう。とばっちりだ……。』


 何か仲良く頑固な整備長のお冠に晒され、気が付けば苦笑を向け合う私達。命のやり取りは確かに怖いけれど、彼女といればなんとかなりそうな気がして来ました。


『なんつーか。俺、置いてけぼりだな〜〜。』


「『ご、ごめん。』」


 っと、唯一の男子の存在を忘れてましたね。


 兎にも角にも無事帰還を果たした私達は、すぐさま格納庫のデータ集積モニター前へ参集です。


 そこでデータとにらめっこしている一鉄いってつさんに青雲せいうんさん。さらに格納庫まで来ていた炎羅えんらさん含め、始まる事となったのです。


音鳴ななる嬢ちゃんの狙撃を活かすも殺すも、沙織嬢ちゃんの行動次第だ。しかしこれじゃ、いつ落とされてもおかしくはねぇ。」


「えっ……私、そんなにダメっポイ? 」


「そうだねぇ〜〜。まだこれは機体に慣れてない点と、機体の攻撃特性ゆえの問題なんだけど〜〜。沙織ちゃんは突撃に特化し過ぎて、回避がおろそかになってる感じだね〜〜。」


「ですよね。猪突猛進……沙織さんはもう少し避けながら敵を穿たないと、カウンター食らって自爆しかねません。」


「も〜〜! 三人して納得してないで、私に分かる様に説明して〜〜! 」


 私自身、機械を初めこういう戦いとかはよく分からないため、正直皆の言葉はチンプンカンプンだったのですが……助け船は炎羅えんらさんの噛み砕いた解釈だったのです。


「沙織君の機体は強襲突撃特性……分かり易く例えるなら、ハンドルの利かない自転車なんかを想像してみると良い。曲がれなければ障害物へ一直線。避けられなければ危ないだろう?つまりは常に、回避を念頭に置いた攻撃が必要となる訳だ。」

「敵の状況を見極め、生まれた隙へ向けて一気に突撃する。が、そこで狙われる事も考慮しフェイントなどを交えなければ、敵から思わぬ反撃を受けて致命打となる。これならば理解に足るかい? 」


「え……炎羅えんらさんそれ、めっちゃ分かり易い! つまりはそう言う事なんだね!? 」


「沙織さんに合わせた噛み砕き方が、稚拙ちせつ極まってる……(汗)。厳密には同じではないですよ?沙織さん。あくまで近しい例えですから。まあ、的は得ているとは思いますが。」


 せっかく炎羅えんらさんが一般市民向けに分かり易くしてくれてるのに、隣で音鳴ななるはむくれた様にチクチク言葉で刺して来ます。それが案外可愛かったりするのですが。


 そんな私を見やる一鉄いってつさんに青雲せいうんさん。さっきはダメ出しの応酬だったのが打って変わり、気が付けば称賛の嵐を口にしていたのです。


「確かに機体の傷は生々しい。が、沙織嬢ちゃん……嬢ちゃんは少なくともこいつで友人を救ったのは間違いないぜ? 」


「そうだね〜〜。何の傷もなしに勝利する方が、帰って自信過剰におちいり易いとも言うし〜〜。けれど、先日までただの高校生だったにしては、及第点とも言えるね〜〜。」


 一転しての褒め殺しに、今度は耳を赤くして視線を泳がせ……音鳴ななるの半目なしたり顔にまた視線が泳ぐ。


 けどそれは、私が新たに得た人生。死に逃げそうになった所を救われてから、生きる覚悟を決めた私への最初のご褒美なのです。やいのやいのとやり取りする三人を尻目に、視線の先には奨炎しょうえん君が。まだ搭乗出来る機体がない彼は、ちょっと複雑な顔で私を見ていました。


 だから彼へ「すぐにあなたも出番が来るよ。」と言う意味で苦笑を返し、頭上30mを超えるそれを見上げます。


 貫く者の名を得た、私のパートナー。巨大な槍を自在に振り回す、。そのイケメン兵器さんへ向け、自然に言葉が溢れていたのです。


「まだ始まったばかり。だから一緒に頑張って行こうね?ガングニール。滅びを齎す者とか言う不名誉を、私達でひっくり返しちゃおう。」


 言葉と共に溢れた笑顔。それをとても優しい笑顔で見やる炎羅えんらさんに――



 気付かないまま、戦いのその後を過ごしている私がいたのです。

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