memory:25 ストラズィールⅡ、貫く者ガングニール

 大格納へ衝撃が走る。それは二つ目となる、霊装機神ストラズィールと搭乗者を繋ぐアクセスユニット〈ヒヒイロカネ〉が輝いたから。貫く想いで声を上げた、愛に飢えた少女沙織の指輪が……ガングニールと呼称されたそれと呼応したから。


 その旨はすぐに憂う当主炎羅へと伝えられ、すでに乗り込んだモニター越しに当主へ返答する少女がそこにいた。


『分かっていると思うけど、伝えておくよ?沙織君。君はシュミレート上の戦いは現状戦闘に耐えうる物ではない。が……機体が呼応したのならば、あるいはガングニールと名付けた仲間が、君を手助けしてくれるのだろう。』


「はい。」


『だから君は、その生まれた想いを貫く事に集中するんだ。今キミが抱いた想いは、これから君が人生を歩む中で、なくてはならない心の支えとなってくれる。いいかい? 』


「はい、分かりました! その……本当にありがとうございます、炎羅えんらさんっ! 」


 無いものねだりが続く状況のまたとない機会。しかしまたしても子供達を、準備の整わぬ状況で送り出す今へ、憂う当主も複雑な面持ちを浮かべていた。

 それでも出撃を許可したのは、先日己の命すら断たんとした少女が、他人のために立ち上がった故に。それに呼応した二つ目の奇跡までもが咆哮を上げた故にである。


 首肯する憂う当主に続く様に、頑固整備長一鉄からの注釈が飛ぶ。


『沙織嬢ちゃん、その機体の飛行ユニットだがな! 行く行くは全機体へ搭載するモンだが、そいつに限っては試作型、正直じゃじゃ馬もいい所だ! けどな――』

『機体に嬢ちゃんが選ばれたってんなら、恐らくはそのとんでも性能が決め手になる! 使い熟して見せなっ! 』


『さっきの沙織ちゃんが発した呼称に合わせて、選択武装は突撃・薙ぎ・払いが可能なオクスタンランスと、固定近接重機関砲を二門準備したよ〜〜。後で専門的な事は参骸さんがい一佐に聞くといいけど、強襲突撃に特化させたから〜〜。』


一鉄いってつさんに青雲せいうんさんもありがとうございます! 分からないなりに、まず慣れて行こうかと思いますので! ではっ! 」


 愛に飢えた少女を推す声は、少女の心へ熱く染み渡る。誰にも見られないと絶望していた頃が嘘の様に。


 そしてリフティング・カタパルトへと機体が運ばれる最中――

 穿つ少女音鳴の時同様の機体反応が、少女の双眸へ写り込んだ。


「……これ、何? 文字? 言葉――」


――我は貫く兵器か? ――


「え? 日本語に変わった。そう、だね。強襲ナントカって、青雲さんが言ってたっけ。」


――我は滅びを齎す者か? ――


「……そんな風に言われてるの? 悲しいよね。あなたはそんな事、望んでないんでしょ? 」


 穿つ少女が成した対話の如く、愛に飢えた少女もその魂無き機体と心を通わせ合う。それは遂に、二つ目の霊的覚醒を呼ぶ事となった。


――あなたは我を正しく扱えるか? ――


「正しく、か。まだ私は戦いの事なんてよく分からない。分からないけどこれだけは言える。今私は後悔だけはしたくない。この胸に初めて生まれた想いを貫いて、大切な友達を助けに行きたい! 」


 少女の声で静かに爆ぜる、機体の霊的高まり。爆発的なその力は、


 双眸が霊光に満たされた機体は――想いを貫く者ガングニールが、愛に飢えた少女を包み込む。


――では共に行こう。親愛なる友を救い、想いを貫き通す戦いへ――


「うん、行こう! 大切な友達をこの手で取り戻すために! 」


 開放されたカタパルトハッチから差し込む陽光は、朝焼けの方向から神々しき機体を照らし出す。あらたなる霊機……貫く想い秘めた少女を乗せた悪鬼を討滅する戦騎。



 ストラズィールⅡ ガングニールの出陣である。



 †††



 異形の強襲小悪魔型ガーゴイルに取り付かれた穿つ戦機ゲイヴォルグは、なすがままであった。

 機体を絡め取る謎の光は、気が付くと幾重の筋状の半物質化した縛鎖となり、機体の動きを封じていたからだ。


「は、離せ!この異形共! ゲイヴォルグは、こんな海上とかでは戦えないんですよ!? このっ! 」


 穿つ少女も必死に藻掻くが、思う様に機体を操作出来ない。縛鎖が発する謎の阻害作用を持つ電磁波長が、同時に各機体可動部の電気系伝達機構を麻痺させていた。

 それはコックピット内へ、警告となって現れていたのだ。


「(本気なの、こいつら!? このままいけば海上どころか海中へ沈められて、それこそ万事休すの状況じゃないですか! せめて近接から、重機関砲で攻撃できれば――)」


 奇しくもアニメ・ゲーム知識からモニターで明滅する警告の意味を悟る少女は、徐々に迫る危機的状況へただならなぬ悪寒を覚えていた。機体が現状では充分な飛行を行えず、よくて数分程度のホバリングが関の山である事実。ましてやそれが、狙撃調整を受けた個体となれば、海中へと投げ出された時点で敗北は必至である。


 周囲に舞う異形は、巨鳥施設アメノトリフネより飛び立った対空兵装の放つ対魔弾フツノミタマが一掃していくも、肝心の自機方向へ放たれる弾幕はない。が、彼女は何故支援がとどこおるかも理解していた。


「(ここで対魔弾がこの異形を撃てば、きっとゲイヴォルグにも少なからずダメージがある。すでにトリフネから大きく運ばれた今、そこでホバリング状態になったとて、狙撃機体では囲まれて袋叩き。)」

「(足場のないこんな所で前みたいな奮戦は厳しいし。ここまで来て、私は穿つ想いを断たれる……の? )」


 機関に属する者を信じた穿つ少女。だからこそ、今支援が出来ない事実を悟っている。

 それでも彼女は信じていた。機関から必ず助けの咆哮が飛ぶその瞬間を。


 やがてその信じ続けた心が、光明に満たされる事となったのだ。


音鳴ななる君! 機体を強引にでも方向転換出来るかい!? ! 致命的な妨害をなしている敵一体をその射線へと押し出し、破壊後共に残る敵対存在討滅に移るんだ! 』


炎羅えんらさん!? でも、援軍って――」


『ナルナルーーーーーーーーーっっ!! 』


 響いたのは、信を置くと決めた憂う当主の頼もしき声。そこにまぶされた言葉へ疑問を投げる刹那、さらに響く雄叫びが穿つ少女の耳を貫いた。

 まさかとの予感と共に機体モニターを視認した穿つ少女は、雄々しきその存在出現でまなじりさえ濡らす。響く声の正体は――


「沙織さん! 機体に搭乗出来たんですかっ!? 」


『それは後で! それより一体でもいいから、私の貫く射線上へっ!! 』


 穿つ少女の双眸へ映り込むは、その背に高速飛行ユニットを配した同型機。紛うことなき霊装機神ストラズィールの姿である。さらに構えるは体躯を越える長さを持つ大槍。中世時代の騎士が馬上で扱う、突撃に特化した騎兵槍オクスタンランス。射線上との意味が何であるかを、少女も即座に思考した。


「そんな……そんな凄い機体が沙織さんの! じゃあ、この窮地を凌ぐため力を貸してくれますか!? 」


『当たり前! ナルナルがいなければ、私は今頃命を断っていた! だから今度は、私がナルナルを助ける! 助けるんだーーーーーっっ!! 』


 湛えた熱い雫を拭い、穿つ少女が強引に機体を旋回させる。ホバリング用に調整されたスラスター全てを全開にして。


「討たれちゃって下さい、この……異形の騎兵がっっ! 」


 激しい旋回で振り回された強襲小悪魔型ガーゴイルの一体が、取り付く腕を引き剥がされるや無防備なまま宙へと投げ出された。それは貫く戦騎ガングニールの射線上――


 貫きの少女沙織が強襲突撃して来る直線上である。


「うわああああああああっっ!! 貫けーーーーーーーーっっ!!! 」


 目標補足と同時に背部スラスターユニットが爆光を撒く。燃焼型のそれではない光塵が、神代の技術に連なる物と思わせる高機動ユニット。しかしそこからさらなる加速を見た貫く戦騎ガングニールが、突撃態勢で構えた騎兵槍先を起点にし、


 衝撃波が海洋へ大波を呼び、光塵が軌跡を描いた刹那。無防備な異形が、激突からの串刺しによって爆散大破する。


 異形は……貫きの少女が駆る機体の速度を追いきれず、



 そして驚愕の後、気を取り直した穿つ少女と貫きの少女は首肯を交わし、異形掃討戦へと移って行く。

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