memory:24 生まれたのは貫く想い

 数日を挟んだ巨鳥機関アメノトリフネでは、子供達がVRシュミレートを通しての訓練をこなし、バックアップたる大人達が機関施設の防衛力を高めて行く。


 そんな中、それらとは別件となる子供達に向けた今後の対応も、同時進行していた。


「……えっ? この機関内で勉強しろって事ですか?それ。」


「つか、先生の国家資格も持ってたんだ御矢子みやこさん。」


『ふ〜〜ん、それは凄いですね。じゃ、お二人共頑張って――』


「「あんたも一緒だよ(汗)。」」


 憂う当主炎羅からの無茶振りも、何やら思う所のあった真面目分家御矢子が機関施設階層中腹に位置する総合居住区画――その一画にある小ミーティングルームへ、子供達を集合させていた。であるが。


「ええ、その通りよ。当主 炎羅えんらより私がその任をたまりました。ええ、賜りましたとも。ああ……教員免許を取得して幾星霜。こんな日がこようとは夢にも――」


「え〜〜と(汗)。御矢子みやこさん? よだれが……。」


「はっ!?失礼、なんてはしたない! 淑女とあろうものがお恥ずかしい所を。まあ今後、機関内での生活に於いては勉学も熟して頂く事と相成りました。皆さんよろしいですか? 」


「「『ええぇ〜〜(汗)。』」」


 子供達を集めて語る真面目分家は、敬愛する草薙家当主の言葉と言うだけではない、並々ならぬ心情を以ってその依頼を快く受諾していた。それはもう、、彼女の秘めた一面が子供達の面前に晒される事となる。


 子供達としても、少なからず機関での戦いに身を委ねる状況であれば、勉学からは程遠くなる算段が働いていた。引き篭もって勉学から遙か遠くにいた穿つ少女は兎も角として。


 それが憂う当主の、、吹き飛んでの今であった。


「では私が改めて、あなた方に対する教鞭を取らせて頂きますので。訓練や会議などの合間で少しずつ、可能な限りの勉強……今のあなた方が最も必要な高等学校相当の授業を展開して行きます。では――」


 気分も改めた真面目分家が、各種データファイリングを各人へと手渡された端末へ転送し告げる。子供側としては、まさかの避けて通れるはずであった日常が舞い戻って来た様な、何とも言えない感覚に襲われていた。


 そんな盛大に嘆息する彼らへ向け、最初に真面目分家が取った授業方針は――


「まずはその端末にある五教科内容を、各自一定間隔で予習復習して行って下さい。それぞれ科目の進んだ程度の差に、得意不得意もあるでしょう。そこで発生している差分を三人で話し合い、補いあって下さい。」

「分かる所とそうでない所を協議し、どうしても助けが必要な場合は私へ声をかける事。そこへ私が、必要なポイントだけをアドバイスして行きます。」


 旧い世代の詰め込み式スタイルではない、個人の主体性を伸ばす形の、海外式の方針が選ばれた。


 すると、想定していた授業スタイルから大きく異なる展開に、呆気に取られた三人は程なく顔を見合わせ苦笑した。三人共が、自分達のいる場所が俗世の認識から大きく越える世界であった事実に、思い至ってしまった故に。


 そしてその日を堺に、子供達が戦いのない世界に戻った時の、将来を戦い抜く勉学と言う力会得もまた――



 訓練の一環として組み込まれる事となったのだ。



 †††



 敵対勢力たる魔の機械生命を討伐する訓練に加え、勉学面に於いての訓練も追加された矢先。


 子供達の日常が確かに、機関との邂逅を経て大きく変化し始めた最中。三度の襲撃が機関施設へと降りかかる事となる。


 だがその襲撃に際し、残りの戦騎稼働は間に合うか否かの瀬戸際であった。


音鳴ななるさん、敵機体を確認したですの! 敵さんはやはり先に確認された小悪魔型グレムリンタイプ強襲小悪魔型ガーゴイルタイプが総数約30体ほど確認されましたですの! 』


「こちらでも視認しました。ではアオイさん、だいぶ奴らの動きにも慣れて来た所……その上、三人でこなしたVRシュミレートの感覚も活きてます。落として行きますよ?私的――」


 しかし飲み込みの速さと順応性の高さが幸いし、穿つ戦騎ゲイヴォルグの単騎であろうと穿つ少女音鳴は尻込みする事なく戦場に立つ事が叶っていた。


 ところがその慣れ始めた所を狙い定めた様な、想定外の戦術を魔生命達が行使して来たのだ。


『おい、引き篭もり! 複数の強襲型が同時に来てやがりますよ!? 相手取れるでやがりますよね!? 』


「ふぇ!? 同時強……って、なになになに!?うそ、機体が持っていかれ――」


 それは狙撃のため敵を狙いすましていた穿つ戦騎ゲイヴォルグが、複数の強襲小悪魔型ガーゴイルタイプに囲まれた際に異変として現れた。今までと明らかに異なる敵勢力の行動にも、シュミレート経験から即座に近接武装で反応出来るまでに成長した穿つ少女であったが――


 そこよりまさかの窮地が襲いかかる事となった。


 取り付く複数の強襲小悪魔型ガーゴイルタイプ穿つ戦騎ゲイヴォルグを捕縛するや、武装を封じる様に機体を絡め取り持ち上げて行く。そして40mにも迫る機体が謎の光に包まれるや、戦騎と共に魔生命群が海洋目掛けて飛行し始めたのだ。


「なんだあれ!? ナルナルとゲイヴォルグを、どうするつもりだよっ! 」


「分かんないよ! けどそのまま海に運ぶなんて事は――」


 襲撃は子供達が大格納庫での機体調整にと訪れていた最中。見抜く少年奨炎愛に飢えた少女沙織は、機体格納ハンガー傍の調整用モニター群前で、異常事態を目撃していた。さらに思わず口にした少女の言葉が……奇しくも最悪の解となって実現されてしまった。


「まずい……! 青雲せいうんさん、対空兵装を展開出来ますか!? 」


『準備は出来てるんだけどね〜〜! しかしこのまま銃座と防衛ドローン機の斉射を放てば、ゲイヴォルグにまでダメージが及ぶ覚悟が必要だね〜〜! そこをもし狙われれば――』


「……分かりました。ここに来てまた、機関の防衛設備遅れが影響し初めましたか。」


 憂う当主炎羅に変わり司令室に上がる聡明な令嬢麻流も歯噛みする。無いものねだりな現状も、機関員の尽力で確実に、守りの力は整い初めている。だがしかし……敵の侵攻の速度は遅けれど、時が経つにつれただの生物的な襲来とは異なる変化が見え始めていた。



 理知が宿る者でなければ取る事の出来ない、戦術の片鱗が見え初めていたのだ。



†††



 海洋へとゲイヴォルグが運ばれる。そんなまさかを弾き出してしまった私は、直後それが現実の物となるなんて予想だにしていませんでした。


 同時に、機械が未だ分からない私でも理解に足る現実を想像してしまったのです。


「一鉄さん、このストラズィールって海中でも戦えるんですか!? 」


「……ああ、そりゃ宇宙空間でも戦えるのが、この機動兵装に持たされた古代技術の恩恵だ。だがな、よく考えて見ろ……音鳴ななる嬢ちゃんの機体は狙撃調整した個体だ。加えて――」


「そうだね〜〜。これはまずいね〜〜。こんなに早く、海中戦闘の事態が訪れるとは。なにせ人員不足に加えてデータ不足が拍車をかけてる今、それに合わせた調整さえも間に合ってはいないんだよ〜〜。」


「……そんな悠長な事言ってられねぇって! 何か方法は――」


 焦燥のまま問うも、歯噛みする一鉄さんに青雲せいうんさん。事態が逼迫してる事ぐらいは私でも想像出来ました。

 そしてそれが導く最悪の事態さえも……。


「――嫌だ。もう、大事な人との繋がりを失うのは嫌だっ! ナルナルは私を、友だちって言ってくれたんだよ!? そんなナルナルがいなくなったら、私は――」


 ――守りたい――


 炎羅えんらさんが言ってたんだ。生命の窮地に立たされた時こそ、人はウチに秘めた器の真価が発揮されるって。それを体現する様に、音鳴ななるは私が自ら命を断ってしまわない様、炎羅えんらさんの駆けつける時間を稼ぎ出してくれた。


 その私を救ってくれた彼女を、今度は私が救いたい……救って見せる。たった一つの信念が脳裏を掠めた時、自身でも聞いたことのない名を口にしていたのです。


…………。」


 その言葉に反応したのは、一鉄さんや青雲せいうんさんに奨炎しょうえん君だけではありませんでした。それは、御矢子みやこさんに授業すると集められた時手渡されていた、あの子も持つヒヒイロカネの指輪が鈍い光を放ち初めたのです。


「おい沙織……指輪が! 」


「これは〜〜もしかして〜〜!? 」


 奨炎しょうえん君と青雲せいうんさんが反応した私の指輪の輝き。そのまま二人がストラズィールの方へと視線を移せば、ハンガーで固定された二機のウチ一機が、指輪に呼応した様に機体へ走るいくつもの煌めきを湛えていたのです。


 背部へ、


 目にした奇跡へ首肯した一鉄さんと青雲せいうんさん。直後私へ向き直った彼から、それは放たれたのです。


「今唯一手段があるとするならば〜〜、その指輪に反応した個体へ君が……沙織ちゃんが搭乗して音鳴ななるちゃんを助ける方法だね〜〜。」

「君さえ決断するなら、後は炎羅えんら君にボクから伝えておくよ〜〜。どうだい? 」


 シュミレートでもドンケツだった私しか、今音鳴ななるを救える者はいない。その選択肢に否定の余地など存在していなかったのです。


「……乘ります。乗らせて下さい! あの機体に――頭に浮かんだ名前……天空を舞うガングニールに搭乗して、ナルナルを助けに行きますっ!! 」


 そして――



 メカの事なんて何も分からないはずの私は、音鳴ななるを救うために……自らが呼称した戦騎、ガングニールへと駆けたのです。

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