memory:21 交わりは、新たな絆へと

 異形の魔生命襲来を乗り越えた巨鳥機関アメノトリフネ。だが事はそう単純ではなかった。


 すでに日も落ちた施設全体では、今まで以上に激しい敵の襲来が爪痕を残しており……それらの修繕作業を終えるための突貫工事へ整備チームが総出で乗り出していた。


「よう、青雲せいうんさんよ。たった二戦でこのザマだ。その度に整備チームが狩り出されちゃあ、機体準備もねぇだろうよ。」


「あ〜〜そこは勘弁願いたい所だね〜〜。今こちらでも目処を付けるため動いているんだけどね〜〜。中々各幕僚長が首を縦に振らないんだよ〜〜。この地球の危機だというのにね〜〜。」


 そんな様子へしかめっ面で苦情を呈するは頑固な整備長一鉄。状況を察するも、宗家を介した依頼にも動かぬ自衛隊に頭を悩ませるはやんわりチーフ晴雲。傍で成り行きを聞き及ぶ堅物自衛官乱人も、己では手の出せぬ古巣事情ゆえ苦笑で首を横に振っていた。


 整備長の言葉もしかりであり――

 そもそも日本国家が擁する自衛隊は、災害救助面での出動ありき。防衛のためのスクランブルはあれど、積極的な武力介入は法的にも考慮されていない。加えて――自衛隊運用にはまず政府主導の元防衛省を交えての閣議開催が必要であり、三神守護宗家がいくら嘆願を送ろうとも、政府が首を縦に振らなければ暖簾に腕押しの実情が存在している。


 堅物自衛官でさえも、自ら志願したゆえの特別な処置による出向となっていたのだ。


 突貫工事の様子を煌々と照らす照明は、周囲に一切の明かりが存在しない太平洋で唯一の光源。そこへ曇天の漆黒をぬう様に彼方から飛来するは、宗家所有輸送機の点滅照明群。

 憂う当主炎羅の、少女側の事態を収束させての帰還であった。


 するとその到来を待ち侘びた見抜く少年奨炎穿つ少女音鳴が、輸送機の着陸を待たずに滑走路へと走り寄っていた。否――姿


「ああ〜〜炎羅えんら沙織さおりちゃんのお出向かえが、通信を待たずに飛んで――おや〜〜?奨炎しょうえん君一人かい? 」


「いるよ、晴雲せいうんさん。ほれ。」


 なんと出迎えとして飛び出した少年の手にある携帯タブレットへ、まさかの穿つ少女の姿が映し出されていた。ブレぬ引き篭もり少女のまさかのリモートお出迎えである。


 呆気に取られるやんわりチーフに頑固な整備長、そして堅物自衛官は一瞬の間の後失笑を漏らした。堅物自衛官どころか、笑う事がないと思われていた整備長さえも。


 それを着陸寸前の輸送機望遠カメラ映像で見やった憂う当主。変わらずの皆が笑顔で出迎える今を噛み締める様に、愛に飢えた少女沙織へと向き直った。


「どうやら皆も無事。アメノトリフネは何とか持ち堪えてくれた様だね。沙織君を招いたら機関が……なんて事もなく安心したよ。」


炎羅えんらさんそれ、全然笑えないですから。でも――」


 縁起でもないと憂う当主の言葉へ答える少女も、少し前とは明らかに変化した面持ちでカメラ映像を見つめる。タブレット越しに出迎えると言う、穿つ少女のとんでも行動にさえも幸福を感じる様に。



 そして……時間はすでに深夜に差し掛かろうと言う所で、想定外の少年少女受け入れパーティーが催される事となってしまうのであった。



†††



 三人の子供達を迎えた我が機関。アメノトリフネと言う巨大施設を有する地球防衛の先が、ようやく見え始めた所だ。


 そんな中――

 沙織君を新たに迎えたタイミングで、音鳴ななる君に奨炎しょうえん君にもちょうどいいと、晴雲せいうん発案の歓迎会を急遽開く事ととなった。すでに日付も変わる時間だと言うのに、だ。


晴雲せいうんさん、何もこんな時間に歓迎会なんて開かなくても……。」


「ああ〜〜そうは言ってもねぇ、ミヤミヤ〜〜。こんな戦いの最中だ。今後いつこの手の催しが出来るとも限らないしね〜〜。それに、まだ彼らに紹介していない機関員もいるだろう? その紹介も踏まえたパーティーだよ〜〜。」


「全く……あなたは能天気なのかキレ者なのかが――って、私はではありませんっ! 」


「もう、御矢子みやこさんはいちいちに構いすぎですの。お皿はこちらでよろしいですの? 」


「の、能天気さんとはまさかボクの事かい〜〜(汗)。」


 トリフネ内では現在乗り気の者もそうでない者も、やはり新たな家族となる子供達を歓迎せんと、施設内で一際巨大なホールをパーティー会場へと仕立てて行く。

 実際、機関がまだ移譲を受けたばかりの頃からこの催し開催は容認しており……オレとほぼ同時期に施設配属を賜った晴雲せいうんが主な指揮を取る。彼は無類の催し好きが宗家でも知られるだった。


炎羅えんらさん、これはマジっすか? もう十二時回ってますよ? 」


『うん、これはビックリ仰天だね。あ……私はもう始めてますので。』


「俺はナルナルの、あくまでリモートの発想にビックリだよ(汗)。ブレねぇな。」


ではなく。』


 そんな空気に一番引いているのは奨炎しょうえん君だが、この歓迎会さえもリモートでやるつもりの音鳴ななる君は、すでに。新しい家族達もまた、実に個性的で顔がほころぶ所だ。


 と、テーブルへ食事を運ぶウチの面々を呆ける様に見やるは沙織君。心の方は問題ないとはいえ、現状一番気を使うべき彼女へと声を掛けたのだが――


「な・ん・で、皆歓迎してくれてるのにあの子は、ここにいないのかしらねっ! 」


 何やらピキリ!と引き攣った笑顔で声を上げるや、一応先日の案内で覚えていたのであろう格納庫へ向けて駆け出した。


「ふぉっ!? おい、沙織っ!無理だって! ナルナルが動くはずないだろっ!? 」


 奨炎しょうえん君の静止も虚しく吹きすさぶ風だけが舞う中、その一部始終を見やった機関員らも思わず笑顔を零していた。



 騒がしくせわしない、新たな家族との団欒を想像して。



 †††



 異形の魔生命への善戦を見せる地球の防衛機関。未だその名を確かに持たぬ彼らが、一時の安らぎを得る中――


 人類が持つ科学技術とは異なる体型の技術にて、蒼き星の現状を見極める影が、神秘の衛星 軌道上 L・Pラグランジュ・ポイント2に存在する微小惑星アステロイド群に潜んでいた。


「彼の地は確かいにしえの時代から現在まで稼働を続ける、神代の技術による守りがあるはずだが。こうも労せず攻め入るのは、どういう事だ? 」


『……こちらで確認したよ、シザ。確かにいにしえの守りであるアメノミハシラ……ロスト・エイジ・テクノロジーであるマス・ドライブ・サーキットはほぼ全て稼働状態にある。』


「ほぼ? まさかその地球の守りであるそこに、抜け穴が生じていると? 」


『そのようだね。物自体は存在しているけれど、恐らくは過去に膨大なエネルギーを発生させたであろういくつかの個体が、正常稼働も叶わないエネルギー枯渇状態にあると思われる。』


 母艦と思しき艦艇はそれこそ殿そのまま宇宙を行く姿さながら。そこへ二柱の巨大な影が寄り添っていた。


 一柱は赤と黒の交じる有機体を思わせる装甲と、憤怒宿す魔神の如き頭部を頂く有翼の巨人。もう一柱は深き緑と黒の体躯も、重厚にして崇高な重戦士の出で立ち。

 しかし共に、各部装甲へ魔導的な幾何学模様の文字を刻む姿は、下等ではなく高貴。


 言うなればそこに、


「永らく巨兵の大戦から遠のいていた光に属する者では、いずれ足が出るだろう。ならば頃合い……紫雷しらい様や紫水しすい様のお手を、わずらわせる訳にはいかない。」


『シザ……君の急く気持ちは分かっているつもりだよ。けれどまだボクのラルジュは出られない。地球の光の加護が予想以上に強いゆえ、魔量子マガ・クオンタム機関の調整が――』


「今は俺とエリゴールだけで充分だ、ロズウェル。だが地球の使徒が取るに足らぬと確認された場合は、この俺がいにしえの盟約に従い奴らを止める。手を出すなよ? 」


『ふぅ……言っても聞かないだろう?君は。サポートはする。だから君こそ、? 』


 その二柱の高貴なる出で立ちが、異界の技術通信でのやり取りに終始する。それこそ年齢から来るなりで言えば、かの巨鳥施設アメノトリフネに迎え入れられた少年少女と同等か。だが口にする言葉には、年齢の高など遥かに凌駕する超越的な何かを匂わせる。


 と、その異界通信を終えた一柱が、背に生やす有機的且つ機械的な一対の大翼を羽ばたかせる。その姿はまるで天より墜ちし神の使徒を思わせた。


「では俺が、これより地球から湧き出る負の霊脈調査へと向かう。状況によってはこの堕天の霊機〈エリゴール・デモンズ〉で、愚かなる野良魔族生命体デヴィル・イレギュレーダの討伐に当たろう。」


 堕天の霊機エリゴール・デモンズと呼称された巨人が、双眸へ赤煉の光を灯すや気炎を纏う。



 ほどなくそれは、黒緑の重戦士ラルジュを置き去る様にその微小惑星群デブリを後にした。

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