memory:17 刻まれる新たな時間
再度の異形の魔襲来から日を僅かに遡り――
引き篭もりを強行する
『あ……機関内にお菓子ってあるんですか? 欲しいですね。』
「自分で貰いに行けばいいだろ? 」
『えっ!? 貰って来てくれるんですか!? 』
「言ってねぇしっ! はぁ……ちょっと待ってろ。」
しかしどうも穿つ少女からすれば、少年は体の良い使いっぱしりであるらしく、彼も仲介を買って出た手前嫌と言えない状況が発生していた。
「何かすでに、彼女専属の配達員扱いになっていないか? 」
「それはパシリって言うんですよ、
通路で彼を発見した
見抜く少年も手を焼く穿つ少女はまさしく筋金入りの引き籠もり。
彼女が愛機となった
そこで見抜く少年が案を絞り、機体に籠もっても可能な案件は全てリアルタイム映像通信による、リモート参加を提示したのだ。
結果――
「会議とかをリモートでやる点はいいとして……流石に体力トレーニングは出てこないとどうしようもないぜ?ナルナル。と、お菓子はここに置いとくぞ。」
『体力トレーニングなんて無理に決まってるでしょう? 私が一体どれだけの日々引き籠もってたかは、最初の日に
「へいへい、高評価どうも。ついでに、いいねとレビューでも付けといてくれや。そしたら奨炎小物配送は、ちょっと気合入れて運ぶかもだぜ?」
『ぷぷっ……。それ、どこのSNSサービスに上げたらいいんですか? 』
見抜く少年が完全な配送業者状態で、機体コックピット前へ引き籠もり姫よりご要望のあったお菓子……チップス数袋に細い系チョコ菓子へ、気を利かせての甘い炭酸ドリンクを置く。そこへ投げられる外部通信へ苦笑の冗談を飛ばせば、意外にあどけない笑いが響き――
少し照れを浮かべた見抜く少年が自分の覚えた感覚へ嘆息しつつ、ハンガー階段を降りて行った。
通信越し、壁越しではあるその会話の一つ一つは、二人の心が近づく距離そのもの。
そんな彼らを遠巻きに見やる整備チームは、すでに家族を迎えた野次馬
「てめぇら、遊んでねぇでさっさと機体整備にかかりやがれぃ! まだ
整備チームをまとめる班長、
それは社会から異端と、不適合とレッテルを貼られた少年少女の新しい人生。新たなる世界を得た子供達は、少しづつ……少しづつではあるも人間性を取り戻していく。
だが――彼らの新たな人生は、戦いの最前線に置かれたガラスの様に
†††
宗家SPである
第一分家とは、守護宗家に並ぶ権力を持つ御家であると言えた。
妹である
「
「問題ない。
一見普通のサラリーマンと見紛う彼は、紛れもなく草薙に仕えし第一分家。宗家管轄医療機関とも意思疎通は速やかだった。だが――
「……? 当主から? はい、こちら
いくつもの歯車が狂いながら、時が刻まれて行く。憂う当主からの通信は、異形の魔生命第二波襲来の凶報であった。そしてその歯車はさらに、予期せぬ事態を引き寄せてしまったのだ。
「なんだ、どうした! ……なっ!?301の患者が姿を消しただと!? そこは宗家の監視下にある病室だぞ! 一体どういう事だ! 」
憂う当主の通信は即ち、輸送機離陸前に異形の群れが押し寄せた事で、当主が本土へ足を運ぶのが困難になった事を意味していた。そこに来て医療機関院長へ飛んだ火急の事態で、
「待つんだ……301号室――
社会派分家の脳裏に最悪の結末が
その鬼気迫るやり取りは、繋がったままの携帯端末越しに憂う当主へも伝わる事となる。
『……
「皆まで言わずともそのつもりです。こちらはすぐに、宗家の特殊部隊を出し捜索に当たりますゆえ、当主は敵対勢力討滅にご尽力下さい。」
事態は逼迫していた。社会派分家と機関院長は首肯しあうと、医療機関側からも捜索の手を出す算段で動き……程なく駐車場区画へ特殊装甲を備えた車両が数台停車した。
「
「了解した! 今動ける者で構わない……
社会派分家の号令が、捜索に赴く宗家特殊部隊へ響き渡る。馳せ参じた者たちが車両へ乗り込み、タイヤスキールと共に駐車場を次々後にする中……社会派分家も己の任務車両へと飛び乗った。
宗家でも、速度を必要とする特殊任務に対応した車両は全てスポーツ系マシンで統一される。そこには守護宗家の表社会面で活躍する
社会派分家が、定番となる斜めかち上げドアを
唸るエンジンが咆哮を上げるや、銀嶺のボディとワイドトレッドが齎す圧倒的なトラクションで、大地を掻き毟るようにタイヤホイールを回転させ白煙を上げた。
「
一抹の不安をかき消す様に、社会派分家が愛機の暴力的なまでの速度で疾風と化す。その一方――
『
『すぐにこちらでも、データ解析に移りますの! ですから
双子の通信を耳に入れながら、愛機と共にカタパルトで戦場へと上がる
「了解です、お二人さん。何とか私だけでも敵へ対応してみますよ。ゲイヴォルグ……ほとんど日を置かずにまた出撃だけど、頼みますよ?素敵な相棒。」
恐怖は確かに少女の心へと刻み込まれた。それでも彼女は戦場へと立つ。
それが例え、唯一信じる肉親である祖父へ向けたものであろうと、それは自分のためではない誰かのための戦いである。
そんな彼女の勇姿を、司令室で見守るは見抜く少年。未だ機体が間に合わぬ今、彼は友人となった少女の戦いを応援するしかなかった。
「負けんなよ!?ナルナル! 」
司令室中央では、憂う当主緊急出立に合わせて
あらゆる方向で緊迫する救世の志士達。
それが別世界での出来事の様に、宗家医療施設を抜け出した少女は街の路地を彷徨っていた。
鬱ろう視線と覚束ない足取り。宗家特区の町並みで、裸足のままふらふら歩き続ける彼女の姿は、周囲の人々にさえ異常を悟らせる。
「もう……いいや。」
壊れかけた少女の心を……無情にも回り続ける歯車だけが、静かに見守っていた。
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