memory:15 新たなる家族への道のり

 穿つ少女音鳴見抜く少年奨炎を新たに加えた巨鳥施設アメノトリフネ。だがその歩みは平坦なものとは言い難かった。


『く、訓練は流石にちょっと……私的にご遠慮願いたいかと! 』


「いやいや、それは無理な話だろう!? そのロボットを動かすために、絶対必要だから! 」


 大格納庫でハンガーに固定された穿つ戦騎ゲイヴォルグのコックピット内と外。そこで押し問答を繰り返すは二人の少年少女。まさに穿つ少女と見抜く少年である。


 背後にヤレヤレと嘆息する機関員を尻目に、訓練に行くだの行かないだのと叫びあう。



 それは見抜く少年が機関へと迎えられて程なくした頃の事であった。



†††



 見抜く少年を輸送機にて移送した憂う当主炎羅は、彼を機関へ改めて紹介せんと施設大通路を進む。次なる敵対存在の影は気配を見せぬとも、少年からの協力を漕ぎ着けたならばと、その彼を早く機関へ慣れさせんと奮起していた。


「当機関の衣食住は少々制限が付くも、おおむね君が過ごして来た日々に比べても遜色はない事を保証しよう。むしろ若干不便をかけるのは女性陣であるのだけどね。」


「まあそりゃそうだろな。女子に女性なら、化粧に衣類にこだわる所もあんだろ。俺なんかはネットカフェ暮らしが板に付き過ぎて、むしろ快適になるんじゃとか思ってるし。」


奨炎しょうえん君もいろいろと乗り越えて来た様だね。だが機関内では、そう気を使わないで良い様みなも配慮してくれるだろう。」


「ふ~~ん。まあ、気を使わないでいいのはありがたいけどさ。」


 そんな当主の配慮は、その様ないたわりを受けた経験のない少年にとっても良い刺激となり、調子を狂わされた様に視線を泳がせていた。


 程なく見抜く少年を連れた憂う当主は、彼に当てられた部屋へと案内して行くのだが……一日を置いたはず機関内でまさに先日と変わらぬ光景が彼らを襲撃する事となる。


「こら、音鳴ななるさん! 食事の後はSZ操縦訓練と言ったでしょう!? そこはちゃんと約束を守りなさい! 」


『ちょっとまだ、ご遠慮させて頂きたいですね。機関員で多く知らない人がいますので、せめて炎羅えんらさんが帰って来てからでないと動きません。ええ、動きませんとも。』


「……うわぁ(汗)。こいつは筋金入りでやがりますね。」


「日を置いてこれとは。おねーちゃんの、調筋金入りですの。」


「何でそこで、あたしを引き合いに出しやがったですか!? 」


 目に飛び込むは、前日の問答を引き摺る様な穿つ少女の引き籠り合戦。そこで彼女をコックピットから出さんとする面々も、変わらずのメンツが揃っていた。


「何やってんだよナルナル……(汗)。昨日の流れのまんまじゃねぇか……。」


「まあ、実はそうなんだが。こちらも機体での引き籠もりを許可した手前大きく出られなくてね。どうだい、奨炎君しょうえん。まずは彼女と打ち解けられるかい? 」


「……協力するって言っちまったし、しゃあなしだな。ちょっと話してみるわ。」


 そこで憂う当主から無茶振りをかまされた見抜く少年であったが、口にした協力を反故にも出来ぬと……重い足を穿つ戦騎ゲイヴォルグコックピットへ延びる階段へ向けたのが――



 その流れの最初であり、少女と少年の因果が紡がれる始まりでもあったのだ。



†††



 地球を守護せし者達の活躍で異形の機械生命一波が屠られる同じ頃――


 太陽系に於ける公転軌道で、火星軌道から小惑星帯アステロイド軌道の中間で大きく傾いた軌道の彼方より、地上は巨鳥施設アメノトリフネを守りしそれに近しい機械巨人が舞う。


 だがその意匠へ異形の機械生命にも通じる装飾が備わり、それだけでも舞う巨人が地球の命運に関わる物と推測出来た。


 と言うべきそれが一直線に向かうは、蒼き生命満ち溢れる世界。と……それを追う様に、いささか形状を異とする巨人が後方に、さらにそれらサイズを上回る艦船を引き連れ追従していた。


『シザっ! 待たないかシザ・ビュラ! アスモ……ではない、紫雷しらい様は君に出陣の命を下されてはいないはずだよ!? 』


「お前の知った事ではない。そもそもお前は紫水しすい様の配下だろ。それがなぜシザを追う?お前は紫水しすい様の靴でも舐めてろ。」


『その様な態度……紫雲しうん様がお嘆きになる!すぐに改め二世界連合へ回帰を――』


 しかし状況としては、前を行くシザと呼ばれた少年を追従する同じ世代な少年が追う形。その状況は、地球外から訪れた侵略の徒としては到底似つかわしくはなかった。


 先行する聞く耳持たぬ少年は、白髪とも銀髪とも取れる御髪を後方へ流し、三白眼の視線は鋭さと意志の強さを匂わせた。対する追従する少年は、天然であろう紺碧の御髪を持つが、その両こめかみから屈曲した衝角を覗かせる。さらには細い蔓の様な尾が延びる姿は人外のそれであった。


 追う紺碧の少年を引き離す様魔の巨人が気炎を吐き、その体躯……魔光を双眸へたぎらせる。慌てて負けじと気炎を上げた紺碧の少年だったが――


『ロズウェル。彼が聞き留めないようならば、此度は彼に任せるといい。どの道かの蒼き大地の現状を把握する必要もある。』


紫雷しらい様!? ですが……! 」


『それに、かの観測者の息が掛かる者も動いていると……紫雲しうん兄者からも報告を受けている。ならば猶予もあると言う物。』


 紺碧の少年ロズウェルが駆る魔の巨人コックピットと思しきそこへ、人類が持つ映像通信手段と異なる技術にて影が投影された。映像周囲を幾何学模様を散りばめた、魔法陣サーキュレイダの如きそれが映像を映し出しているのか……そこだけ見れば確実に異界の文明と断言できる光景だ。


 その映像に映る姿は、日をさかのぼる事数日前……憂う当主炎羅の前に現れた高位なる存在紫雲が異形の通信にて会話を行っていた男である。彼の言葉を受けた紺碧の少年は、眉根を寄せるも致し方なしと首肯し――少年の柔順さに目を細めた、紫雷と呼ばれた者が注釈を付け加える。


『故に貴殿は、シザを支援し観測者に従う者達の器を見極めよ。その者達が器たり得ないと感じたならば、その手を下す事を許可する。』

『我らには、器たり得ぬ者に時間を割くほどの余裕はないのでな。』


「心得ました、紫雷しらい様。このロズウェルはシザ・ビュラを支援し、以降は我らが大兄者たる紫雲しうん様の意思に従います。」


 紺碧の少年は返答するや意識を切り替える。己が信じるは紫雲しうん紫雷しらい紫水しすいと言う崇拝に値する存在のみとの思考のもと。漏れ聞こえた通信を聞き及んだ白銀髪の少年シザも、嘆息ながらお節介な同族を見やっていた。


『いいか、ロズウェル。シザが先んじてかの蒼き大地に降り、あの不逞の輩共を滅する。その際に人類側の志士が取るに足らないと感じれば、まずはシザの相手とする。異存はないな? 』


紫雷しらい様がご明示になられたなら仕方ない。ボクも紫水しすい様がこちらに間に合わぬウチは紫雷しらい様の指示を絶対とせよと申し付けられている。それで異存はない。」


紫水様あの方に心酔するのは分かるが、お前は。』


「だから……紫水しすい様を、おとしめる様な発言は許さないと言っているだろう! 」


 崇拝する存在とのやり取りが終わるや、交わす言葉は気の知れた友人の如き雰囲気を醸し出す紺碧の少年と白銀髪の少年。そして共に視線を前へと見据えるや、二つの魔の巨人は巨大艦船を引き連れ更に気炎をバラ撒いた。


 そこから数日の時を置き、彼らは蒼き大地の地磁気帯宙域へと突入する事となる。


 広大な宇宙の同胞が動く。それをまたいつもの場所にほど近い街中でたたずみ待つは、高位なる存在。思考は遙か宇宙の深淵へ……しかし視線は直ぐ側を行き交う人の群れへと落として言葉を紡いだ。


「シザにロズウェルが動くか。彼らはまだ若い。それこそ百年前後で死を迎える人類が、十年足らずを生きた程度かな。ならば彼らはあの草薙 炎羅くさなぎ えんらが集め来る子供達とも、良い関係となるだろう。さて――」


 柔らかな視線の高位なる存在は来る因果が明るき物となる事を願い、だがすぐさま己が見定める眼前の危機を察し思考を現実へと向けていた。


「早いな……まだ彼らも十分な準備は整っていないのだけど。間に合うか?シザ達は。」


 彼が口にした人類と言う形で言うならば、まだ成人して間もないあどけなささえまぶした容姿。が、言いようのない気配を纏う存在それは蒼き天空……それも日本本土に最も近き、太平洋上空を見上げていた。


いにしえより不逞を払い続けた守りが、……奴らには格好の餌場となる。急ぐんだよ?シザ、そしてロズウェル。」



 高位なる存在は憂うまま天空を見上げ、それだけを零すと……再び誰に気付かれる事なく姿を消して行った。

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