memory:10 ストラズィールⅣ・ゲイヴォルグ
「私は今からでも協力しても構いませんよ? むしろ是非ともしたい気分です。私的に。」
きっと緊急事態とか、そういう事がなくてもそう口にしていたと今なら思います。だって私の日常なんか、今思えば引き籠ってゲーム三昧なだけの下らない毎日だったのですから。
ずっと自分はそれでいいと思っていたのに、何故でしょう……この巨大な守護神を目にした時から心が熱く激しく燃え上がっていたのです。
「あなた!これは遊びではないのですよ!? そんな軽々しく機動兵装に乗るなどと――」
「
「そ、そう言う事を言っているのではなく……草薙さんからも何とか言って下さい! 」
けれど熱く
そう――
きっとこれは、引き籠りから脱したと言う感じではない……新たに引き籠る場所を得たと言う事に他ならなかったのです。そしてその場所が、このアメノトリフネに存在していたと言うだけの話なんです。
心がいつもの様に眼前へ集中し、トランス状態にも近い状況へ移り行く私を見る草薙さん。少しだけ、彼が言葉を投げかけてくれたのです。
「君の協力は確かにありがたい。だが忘れないで欲しい……本来ならば俺達が矢面に立たねばならない所――それを君達に任せるしかない現状を誰も喜びはしない。」
「それは我々みな、君達が戦いで命を落とすなど望んでいないと言う事だ。戦う意志あるならば、その力と行使する権利を君に与える。だが……決して自分の命を軽んじてはいけないよ? 」
「ありがとうございます。今は草薙さんの、その言葉だけで充分です。」
その言葉は温かくて、そして力強くて……まだ十五・六年しか生きていない人生でも、何より心へと響き渡って――
私はこの素敵な大人方のために、何か出来ないかと本気で思い始めたんです。
そんな想いを抱いた手に握る、起動キーと渡された指輪が――
「……あれ? 何か光ってる? 」
それは不思議な光景。只の指輪と思っていたそれが鈍く、しかし少しづつ光を放ち始め……それに呼応する様にコックピット内のコンソールさえ光を帯び始めたのでした。
「
「人の正へ、そして生へ向けた意志に感応するそれは、かのヤマタノオロチを討ったとされる〈アメノハバキリ〉と同質となる神代の高次霊物質だ。」
「
そう言葉にした私と、光を放ち始めた指輪を交互に見やり驚愕する
「その始動キーたる指輪が反応したなら、善は急げであります。
「それでも吊るしのままでは武装も何もない。せめて
もう私が、ストラズィールを余裕で動かせる的な発言に終始する
「分かりました。今私は緊急でこれを動かそうとしてますから、複雑且つ高速機動を要する操縦は無理と推察します。ですが……個人的に集中力には自信があるので――」
「施設滑走路辺りから超遠距離で狙撃できる、超射程スナイパーライフルをこの子……ゲイヴォルグに装備させて下さい。あとは近接された時用のマシンキャノンを念のため。」
「
それが私の、人生初の機動兵装デビューを告げる合図となり……時が刻まれ始めたのでした。
†††
「ああもう、やけくそでやがります! リフティングカタパルト上昇、滑走路甲板部 排圧開放、SZ-Ⅳ リフトアップ! 」
「グレムリンタイプ、すでに攻撃射程圏内ですの! 草薙さん――」
そして時は訪れた。
すでに天空より襲い来る魔の軍勢は、小規模ながら攻撃手段と思しき異形の
だがそれに辛うじて間に合った対抗策出撃の大号令が、司令室へと駆け付けた
「遅れてすまない! では我らアメノトリフネへ詰める者の希望を、かの敵対勢力へとぶつけよう!
『了解です。起動キーをコンソールへインストール。ストラズィールⅣ・ゲイヴォルグ……緊急起動します。』
その指令を受け、応じる声が凛々しく司令室へと響き渡る。
排圧と共にせり上がるリフティング・カタパルトが、傾斜を上る様に
人類の希望を照らすかの
急ごしらえではあるが速やかに準備された巨人の得物……超射程 スナイパーライフルと近接用マシンキャノンが、カタパルト上の直立兵装用ハンガーへ立て掛けられる。
そして――
守護の巨人を乗せたリフティング・カタパルトが施設地上部へと固定され、巨人がゆっくり直立姿勢へと移行する。
「ストラズィール・ゲイヴォルグ。
機体コックピット内でクイッと片手でメガネ位置を修正し、引き籠りのはずの少女が別人の様に咆哮を上げるや、機体へ命の炎が灯された。
「こ、こいつ!?動きやがるです!? 」
「って、おねーちゃん! そのセリフは、この国のアニメーションの影響受けすぎですの! これはどこぞの白い悪魔とは話が違うですの! 」
「むしろ「逃げちゃだめだ! 」か、「あなたはそこにいますか? 」が妥当ですの! 」
「いや、アオイの方が意味不明でやがりますよ!? 」
謎の日本国サブカルチャー知識を、端々へと塗す陶磁器な双子。
「マジかよ……。ナルナルの奴、本当にロボットに乗って出て行きやがった! 」
「ナルナルがどうより、あれ! あれが人類に敵対するとか言う奴ら?! 冗談じゃないっぽいよね?!」
カタパルトに運ばれる巨人に乗り込む少女と、それが相手取る敵対存在を交互にモニター越しで見やる、社会から弾かれた二人。
彼らは未だ他人事な体験見学のままの心情である。が……目にした光景は鮮烈なモノとして脳裏に刻まれていた。今同じく体験見学に訪れていた少女が、瞬く間に非現実の空間へと走り出した光景を。
それが少年少女の過ごして来た、己を必要とされない荒んだ日常へ、見事に風穴を開ける事に成功したのだ。
だが――二人の現状ではそれが精一杯であった。
そんな状況さえ置き去る引き籠り少女――穿つ少女は、果敢に巨大なる機体と共に戦場へと馳せ参じて行くのであった。
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