memory:11 ―穿つ少女―

 モニターが外の光景を映し出し、変わり行くそれが太平洋の海原を捉えた時……私は初めて巨大ロボットの中にいる事を自覚したのです。


 それは夢にまで見た、けれど決して訪れるはずのない非現実の光景。なのに私を包む空間は、新しい世界かと思える程に輝いていたのです。


 そして――


狩見 音鳴かりみ ななる、応答するでやがります! 私はウルスラ……これから通信で敵対勢力の情報を、お前に伝達する役目を負ってやがるです! 但し、草薙さんの命令である事を注釈するでやがります! 』

『私はお前達ガキんちょの事なんざ、これっぽっちも信用していないでやがりますからね! 覚えておくで――』


「……え、何?キタコレ。その語尾、萌える上にカワユス。後でもっとおしゃべりしましょう、ウルスラさんとやら。」


『……っな!?ななな、何がかわいいかっ!? つか、ちゃんと私の話を……きき、聞いてやがるですか!? 』


『おねーちゃん、そう言うのをと言うですの(汗)。申し遅れました私、ウルスラの妹のアオイと申しますの。おねーちゃんの事は兎も角、今は敵の討伐にご尽力下さいですの。』


「やべっ……あなた方はロシア系?めっちゃ肌白いし、まさかの双子? トンデモ萌え姉妹とは、コレハナンノサプライズデスカ?? って――すいません、敵に集中します。」


 響く通信に反応した私はモニター映像でアップとなる、昨今のロボットアニメでも中々お目にかかれない双子を視界に入れます。て言うか、その雪原の様な白い肌と太平洋みたいなブルーのお目目に加え……そんな容姿をブッチする語尾ので、ガールズへよだれがまたしたたる所。

 ちょっといきなり展開で敵の事を忘れそうになったので反省しつつ、ゲイヴォルグの手へスナイパーライフルを構えます。


 と、私の珍劇に業を煮やしたのか……ちょうどそれを狙い撃つ様に敵さんの十字砲火が放たれたのです。


「あの、敵さん撃ってきましたけど……そこはシールドのたぐいはあるんでしょうね。」


『ええ、あるにはあるですの。けれど敵の襲撃が想定以上に早かったため準備が――』


 モニターへ投影される異形の生物とでも言う兵器。遠距離からの牽制かすでに撃って来てると言うのに、アオイさんとやらから、機関には守りのシールドらしきものはあれど展開不能とのお言葉。

 個人的にはロボットアニメあるあるな事態に、少し嘆息が漏れた所ですが。


 しかしこれは実戦であり、人の生き死にが懸かるは明白。ならば迷うヒマなんてありませんでした。


「では何とかアレが、防衛限界ラインを越える前に落とさなければならないですね。」


 もはや自分が今までやり込んで来た鋼鉄機大戦登場人物の様に、襲い来る現状を的確に読み取る事さえ叶う私。それが自身の得意とする集中力にさらなる鋭さを加え――


「長距離狙撃の真骨頂は、撃った一撃で相手へ心理的な動揺を与え……次に狙われるかもと攻める足を鈍らせる効果があります。しかしそれはあくまで、前線で突出する味方がいる状況の話――」

「狙い撃つ者が一人では、。ならば私が取るべき行動はただ一つ……このゲイヴォルグが敵に狙われる近接限界地点までに、あの確認された20体全てを叩き落す事です。」


 標的精密狙撃用のターゲッティングスコープが映る正面モニター。それを覗こうと思考するや、構えたスナイパーライフルを思い描いた通りに覗き狙いを定めるゲイヴォルグ。ライフル本体のスコープは、機体アイカメラとリンクし外部カメラが映す超遠距離光学映像へと移り変わるシステム。

 それは誰がどの機体を選ぼうと、状況に応じて各機体がいつでも取り回せる仕様であったと言う訳です。


 そう……全ては敵対勢力と会いまみえ、討ち取るための武力。往々にして、自分が知るロボットアニメでも。それこそがこの、ストラズィールと言うロボットなのです。


 自分に言い聞かせる様に成すべき事の整理を終えた私は一呼吸。そして再び双眸を見開き覚悟を決めます、このロボットと共に、世界を守護するため引き金を引くその覚悟を。


「では、ゲイヴォルグ……私と一緒にこの世界を守ってやりましょうか! 」


 私の咆哮と機体のアイカメラの閃光が同調した刹那――



 スナイパーライフルより、対魔用殲滅とおぼしき何かしらを纏わされた鋼鉄の弾丸が、マズルフラッシュを伴い天空を切り裂いたのです。



†††



 機関としても無い物ねだり。すでに超射程を持つと思われる小悪魔グレムリンの名を冠する敵対勢力を穿つには、狙撃専門機体単体での戦闘は実質不利である。遮蔽物も何もない海洋のど真ん中である事も災いし、みるみる敵の影が近付いていた。


「あちらさんは飛行型の割りに、そんなに強襲突撃できる速度は無いようですね。けどうかうかしてたらふところに入られますか。ならば……敵対象をクレー射撃の的にでも例えて始末していきますか。」


 巨鳥施設アメノトリフネへ訪れた時と、比べるまでも無い冷静さを見せ付ける穿つ少女。超射程狙撃砲スナイパーライフルを構え、そんな無茶な状況からクレー射撃さながらの動きで一機……また一機と爆轟へと包んで行く。


「暇つぶしにちょっとその手のゲームをやり込んだ事があるんですが、思わぬ所で役に立ちました。ウルスラさんとやら、今の敵回避パターンからあれらの機動力を算出・データ収集を願います。今後に役立つはずですから。」


『なっ……こっちが指示すると言ったでやがるですよ!? そこへいきなり命令とは――』


『ちょっとおねーちゃん、今は非常時! そういうのは後にするですの! 』


『あーもう、分かったでやがります! 画像とそこから算出されたデータを収集……あんた――狩見 音鳴かりみ ななる! 大口叩いたからには、しっかり全機落としやがるです! 』


「言われなくてもそのつもりですよ、私的に。」


 相性の悪さが露呈する穿つ少女音鳴と双子のポニテ姉ウルスラ。だが彼女も、いきなり機動兵装に搭乗させられたはずの少女がそこそこさまになっている事態に、少なからず驚愕を覚えていた。

 穿つ少女からすれば、たまたま機動兵装の操縦システムが自身の得意分野たるゲームの操作に近しい事が影響していたのだが――機関側であらかじめ想定して準備されたと知るのは先となる。


 予想外の活躍を見せる穿つ戦騎ゲイヴォルグに翻弄されたのは敵対勢力……小悪魔型グレムリンタイプとされた、機械生命体に順ずるそれらである。想像以上に制度の高い攻撃を受け、撃墜される同個体の惨状を察するや狙い撃ちを避ける様に散会し巨鳥施設アメノトリフネへの再襲撃を敢行する。


 が――


「逃しはしませんよ? なにせ近づけたら、私が危険なので。」


 変わらずの冷静さで、散会した敵勢力にも対応する穿つ少女は、見る見る敵を落としていき……すでに数機が残るのみとなる。

 止まぬ十字砲火で突撃を敢行する小悪魔型グレムリンタイプ。しかし明らかに人類防衛機関側優勢となる状況がモニターを占拠する。


「よし、これでいけるでやがります! 」


「おねーちゃん、それフラグですの!? そういう言葉は、状況終了を確認してからに――」


 巨鳥施設アメノトリフネ司令室で、すでに事がなされた様な発言を放つポニテ姉。だがツーサイド妹アオイは早合点を制する様に声を上げ、直後それが現実の物となる事態に司令室奥で構える憂う当主炎羅が吼えた。


音鳴ななる君、! 回避をっ!! 」


 それは機関立ち上げから間もないと言う不備を突かれた強襲。天空よりの敵対者強襲に備え、臨時で起動させていた対魔レーダーとも言えるそれらは、海原を包む大気方向へと集中していた。それが仇となった事態――、狙撃体制にあった穿つ戦騎ゲイヴォルグを狙ったのだ。


「っ……海上からっ!? わきゃっ! 」


 天空よりの敵対者を警戒していた穿つ少女。だがしかし、所詮はプログラミングされたゲームを攻略する知識のみで、現実の戦いへと引き摺り出された幼い子供。戦術的には短絡であっても、宿……出来なかったのだ。


 穿つ戦騎ゲイヴォルグへ取り付く数機の小悪魔型グレムリンタイプ。異形の形相が無数に機体を包み――


「……こ、こわ、い! 怖い、恐い、コワイッッ!! そんな、助けて……誰か助けてっっ!! 」


 機体モニターを占拠する牙を剥く異形。その直接攻撃が機体へ幾度も叩き込まれる。

 鳴り響く警告音と、この世の物とは思えぬ形相に包囲された穿つ少女はパニックとなる。



 これは戦闘行為であるが故に。

 ここが命のやり取りをする戦場であるが故に――

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