memory:9 舞い降りる悪夢を、穿つは撃ち抜く巨人

 初めての世界に初めての出来事。そして眼前を支配したのは、夢にまで見た鋼鉄の巨人。

 まあ私がゲームでよく知る寸胴なボディをいくつも繋ぎ、しかし物理の概念など吹き飛ばす超常の攻撃手段で悪を討つ、スーパーロボットの王道を行くそれとは大きく異なっていたのですが。


 そこはやはり、物理を最低限沿う様な行動が基本だからなのでしょう。


「こちらがストラズィール・コックピットとなります。外部アクセスパネルは、この小さな装甲板の中。続いて――」


「ひひ、開いた!? 開きましたよお二人共! ヤバイ……な展開です! 」


「……この子、興奮すると語彙力が極端に低下するわね。」


「だな。って、一体どう言う意味で取りゃいいんだよ……。」


 何か後ろで失礼千万な二人がいますが、それはもう置いておいて。自衛官らしくない苗字な参骸さんがいさんの案内の元、意外と広さのある空間へと滑り込んだ私は……初めてであるはずなのに、今まで引き籠っていた部屋の様な安心感を覚えたのです。


「広すぎず狭すぎず……そしてこの近未来的な雰囲気に操縦桿。ちょっといいかも。」


「「いいのかよ(汗)」」


 再び失礼な突っ込みが入るもお構いなしです。しかし――

 そこでちょっと想像と違う機体の起動方法が、目に飛び込んだメインパネルの装飾で浮かんで来たのです。


「……あれ? 参骸さんがいさん、これ――もしかして機体の最終起動確認に特殊なアクセサリとか用いたりする機構ですか? モニターはこの感じからして、前方半分を視界に捉える半全天で……操縦桿はあくまで出力調整が主な役目と察します。」

「シートの端々にあるセンサー部は、さしずめ人間の脳内神経伝達パルスを読み取るタイプの、脳神経信号無線可動を実現したモノと。さらにこのコックピットは恐らく、緊急時射出を可能とし、その後も乗員保護としてのシェルター機能も有していますね? 」


「……なんと。そこを私が説明するまでもありませんでしたな。そうであります。希場きば嬢もかのう殿も今ので理解に足りましたか?つまりはそう言う事です。」


「「いや、全然分からんし(汗)。」」


 不思議ではありました。よくスーパーロボットのアニメではある、はなかったのですが……何かこう物理的現実を突き付けられた事で、今まで詰め込んで来た知識が開放された様な。それが組み上がり、自衛官さんも舌を巻く説明が叶ったのです。

 そこで私は知らずのウチに、口調さえも冷静にして理路整然とした物へと移り変わったのを自覚していました。それこそ私が見て来たロボットアニメで登場する様な、知的でクールに事に当たるタイプのキャラの如く。


 その代表例で言うなら……超遠距離から獲物を狙い定め正確無比に撃ち抜き仕留める、――


「……ストラズィール……。」


 まだ雛形で起動した事もない機体を、そう呼び現していたのです。


 するとそんな私の発言を、細めた双眸で鋭く見定めた参骸さんがいさんが何やら麻流あさるさんと首肯を交わし……こちらへ機械製の小箱の様な物を手渡して来たのです。


狩見かりみ嬢、それは本来あなた方からの機関への協力を受理した後、渡す手筈であった起動キー ――先にあなたが口にしたアクセサリに相当するものです。現在試作段階として、指輪を模した造りとなっていますが。」


「起動キーとなる指輪?ですか……。なるほど、このメインパネル中央の窪みとそこから出る放射状の発光溝――そういう仕掛けなのですね。」


 自分でも驚くほど淡々と答える私。そんな私のまるで別人となった姿に、開放されたコックピット外で学生なお二方が驚愕する中――


 運命の時が……煽り立てる様に、音を立てて迫って来ていたのです。


『おい、炎羅えんらさん!聞こえてやがるですか!? こちらウルスラ・浜路はまじ・オプチャリスカ……遂に来やがったです! やっこさん、アンノウンでやがるです! 』


『同じくアオイ・浜路・オプチャリスカですの! 対象はクロノライブラリより検索した結果、使い魔ファミリア族・小悪魔型グレムリン・タイプですの! 』


『つかアオイ! あたしが今アンノウンって言いやがったでしょう!? 何でその直後に、敵正体判明させてやがるですかっ!? 』


『おねーちゃんはもっと、情報を詰めてからしゃべるのをお勧めするですの! 』



 私達の当たり前の日常が根元から吹き飛ぶ事態……ここには居ない機関員らしき人達の通信が、格納庫へと響き渡ると共に――



 †††



 大海の巨鳥施設アメノトリフネへ戦慄がはしり抜けた。

 機関発足から人員召集と……そしてようやく守護の要となる機動兵装パイロットたる子供達との、最初のコンタクトとなる重要な対談の中。それを嘲笑う様に鳴り響いたのは、敵対勢力侵攻のアラートであった。


「了解した、俺もすぐ司令室へと向かう! 麻流あさるは子供達を安全な場所へ移動させてくれ! 現時点ではまだ、彼らに協力するかを問う時ではない――」

「そんな彼らを、戦いの巻き沿いにする訳にはいかないからな! 頼むぞ!? 」


「はい、承りました。さあ……あなた達をシェルターへと案内します。大丈夫――戦闘が始まったとて、すぐここが落とされる事はありません。」

「機を見てあなた方を日本本土へとお返しします。そもそも今回は体験のみのお約束ですからね。」


 憂う当主炎羅聡明な令嬢麻流が、非情事態であろうと迅速に事を進めて行く。それを視界に入れた機関員らも子供達へと一礼し、すぐさま持ち場へときびすを返さんとする。


 一方その頃――

 司令室で状況確認に務める姿があった。

 薄いプラチナブロンドをショートポニーで纏めた少女と、同じプラチナブロンドをツーサイドアップで結う少女。欧州少女らしい陶磁器の様な真っ白な顔立ちは瓜二つだが、方や眉根を吊り上げ碧眼でモニターを凝視する。方や同じ碧眼の落ち着いた表情であるが、目にも止まらぬタッチキー裁きで情報処理をこなす。

 そんな雰囲気から、少女らが欧州系の双子機関員と言うのは見て取れた。


「ったく! こちとら、機動兵装さえ稼動出来ない状態でやがるのに……そこでいきなり敵機来襲とか、勘弁するでやがるです! 」


「おねーちゃん、語尾が変! それに関しても、修正をお勧めするですの! ……敵総数、出ましたですの!数は20程度ですが、今のアメノトリフネにはそれでも脅威ですの! 」


「アオイも充分へんだけどな!どうする!?対空兵装上げやがるですか!? 」


炎羅えんらさんが来るまで、戦略的には少しのタイムロスですが……今は待つですの! 」


 いささか言葉へ難解な語尾をチラつかせる白雪の如き双子だが、そのは突出するオペレーティング能力は傍目にも明らか。その能力チカラを以って、司令室宙空へと浮かぶ大モニターと大小無数のサブモニターを睨め付け、そこに居るはずの機関員と総指揮を担う当主到着を待つ。


 すでにモニターへ映るは、異形の面構えと蝙蝠の様な翼で天空を舞う影。だが有機的な体皮に対し、幾重にも纏う機械的な装甲に比重を置いた姿は、機械生命体を彷彿させる。

 数にして20体が天空より飛来する。すでに名称を 使い魔ファミリア族・小悪魔型グレムリン・タイプと銘打たれたそれらが。


 が――

 緊急事態も、そこまでは想定の範囲内の出来事であったのだろう。事態をつぶさに観測する双子に僅かの迷いもなかったのだ。しかしふとその片割れ……ショートポニーの姉である少女が、冷静さを欠いた様に金切り声を上げた。それも敵対者が映るのとは異なるサブモニターを視界に入れて。


「……って、はあぁっ!? いや、炎羅えんらさん……あなた本気でやがりますか!? ――」


 そこには彼女としても信じられない物が映っていた。敵がすでに巨鳥施設アメノトリフネを射程に捉えるか否かの非常時に――まだ協力の是非さえ決めかねていたはずの子供が、今即時運用可能な護りの霊機ストラズィールへと搭乗させられていたのだ。


『今は時間が惜しいが、この時点で彼女が協力を申し出てくれた。これより彼女が……狩見 音鳴かりみ ななる君が、このSZ‐Ⅳ ――個体名称 ゲイヴォルグで迎撃に当たる。君達もその方向で、支援に当たってくれたまえ。』



 それはほんの僅か前の出来事、大格納庫でのやり取りから事態が動いたのだ――

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