memory:8 引き籠り少女と機械巨人

 機関員全ての面会とはいかないまでも、主要メンバーへの顔合わせがなった所で施設体験を開始した。


 主にアメノトリフネ側のメンバーが、それぞれの関係する場所を説明し案内して回る手筈だったんだが――

 トリフネ滑走路部から大格納庫へ移動するや


「ほっへー! やべぇですよこれ! こんな、マジですか!? ……いけない、またよだれが! 」


「……って、おーい(汗)。ナルナルさんや~~。いつまでもそこでいたら、施設巡りもないでしょうに。」


「おい、沙織。ナルナルの奴、聞いてねぇぞ? どうすんだよ草薙さん。」


「はは……。想定はしていたつもりだけど……これはだったね。」


 事前にロボット物への認識ではアニメゲームでそれなりの耐性があると、音鳴ななる君本人を見る限りでは見積もっていた。だがフタを空けてみれば、耐性所か恐ろしい勢いで食い付く惨状に苦笑しか浮かばなかった。、相手はむしろ少女と言う事で認識への穿った見方をしていた様だ。

 同時にそれを見た俺は、知らずの内に宗家の男性至上の様な考えに毒されていたのではとの反省が顔に出てしまう。


 そう思考するや、眼前の事実を敢えて取り入れる方向で動く事とし……今現在案内として寄った格納庫内にそびえるそれを見学する方向へシフト。最初に案内するはずであった司令室など諸々を後回しにして説明するべく、視線で本日メイン案内係である麻流あさるへ予定変更を促す事とした。


「致し方ない。どの道君達の搭乗予定を考えている機体だ……こちらの案内を優先させてもらおうか。では麻流あさる、よろしく頼む。」


「ええ、承りました。それでは皆さん、こちらの巨大な人型の機械をご覧下さい。これがあなた方が機関への参加を申し出てくれた折に、各員へと宛がわれる当機関の擁する機動兵装となります。」


 堂に入った彼女の詳細説明する姿は、宗家管轄大学で論文を発表していた時の様に燦然さんぜんと輝いていた。本来は彼女こそが宗家を継ぐ資格を有するはずが、御家の仕来しきたりが邪魔して彼女の活躍の場が奪われたに等しい。

 そんな彼女へ少しでも、宗家当主が担うべきモノへと関わらせたい所……現実はそうも言えぬほどに責の重圧が圧し掛かるのが当機関運営。そこで俺は彼女と圧し掛かる責を分担する事で、実質的に彼女が御家当主として振舞える場を準備した。


 この機関の説明云々もその範疇であり、本来宗家を初めとした軍事機密相当の情報提示もその一つであった。


 そうして説明を開始するや三者三様の表情を見せる子供達。中でも音鳴ななる君の食い付きは凄まじく――


「あのあの! このロボットは、コックピットに人が搭乗するタイプですよね!? よければ、そのコックピット付近へ案内してくれませんか!? 」


「……なんかナルナル、グイグイ来るわね(汗)。普通こう言うのは――」


「あー、それは偏見だぞ? 誰もがそう言う趣味嗜好って訳じゃねーし。いやまぁ、俺も嫌いって訳じゃねぇけどさ。」


 などと嘆息しあう二人を他所に、音鳴ななる君は視界に映るコックピットへ向けて延びたハンガー常設昇降階段へと走り寄った。のだが――


「あぅ……急に走ったので、眩暈めまいが……。」


「体力皆無かよっ!? 」


「引き籠りだったんだから、しゃーなしっぽいわね。」


 まさかの、20m足らず先の階段設備に到達するまでに眩暈めまいでよろけてしまった。

 それにはさしもの機関が誇る面々も苦笑い。機関への協力を見た日には、機動兵装への搭乗云々以前に皆が揃って想像したのは俺でも見て取れた。


 画して未来を託す子供達へと体験を推し進めて行く我ら。へたり込んだ引き籠り長期保持者な少女へ肩を貸す、友人となるはずの彼らを引き連れコックピット付近へ上って行く。



 忍び寄る魔の気配に未だ気付かぬ俺達は、そんな事前体験の体で緩やかな時を刻んでいたんだ。



 †††



 画して地球防衛のかなめとなる機関の見学と、聡明な令嬢麻流を初めとする機関員らの説明がそれぞれを通して行われる。機関員各員の口から語る理由としては、面通しと交流の意味も含まれていた。


 地球防衛を生業なりわいとする機関としては子供達からの速やかな協力を得たい所――が、代表である憂う当主炎羅より子供達の心情に重きを置く命を受けた機関員らは、何よりその点を重視した紹介に終始していた。


「この機動兵装の名はストラズィール。現在ここに即運用可能な三体と、奥の大格納施設内にはさらに数機……同様の機械巨人を擁するのがアメノトリフネです。」


 40mに迫る巨大な機動兵装を指し説明を向ける聡明な令嬢。視線を受け、そこへ続ける堅物一佐乱斗が簡略した概要を公表する。


「各機のコードはそれぞれ、SZにナンバーを割り振った形で呼称するであります。しかし現状ではこれらに明確な運用コンセプトは固定されておらず……仮にあなた方の協力を得られた際、各々の能力に合わせた武装に応じ、機体性能を後付けする形となるであります。」


 そんな説明を寒々とした目で、一応聞き流すてい愛に飢えた少女沙織見抜く少年奨炎。対して――身を乗り出す勢いで挙手するや、引き籠りであった事など忘却した様な引きニート少女音鳴が声を上げる。


「機体が現状雛形で、且つそこに搭乗する者の能力に合わせて後付け改造とか……これ! あの、自衛官の人! そこんとこもっと! 」


「落ち着きなさい、狩見 音鳴かりみ ななるさん……でしたか。以降は機関への協力を受諾してからの――」


「まあまあ……堅い事は言いっこなしにしようねぇ、。彼女の様な子供は今時めずらしいぐらいさ~~。少しぐらい、このアメノトリフネが誇るSZの情報を公開してもバチは当たらないよ~~。」


「だから私はミヤミヤでは……こ、こんな子供達前で恥をかかせないで頂けますか!? 」


 すでにテンションを下げるほうが難しい引きニート少女と、そんな少女へ向け理路整然に語る堅物一佐。一方では、少女の勢いを制そうとした生真面目分家御矢子が、能天気男青雲の言葉でお堅いイメージを崩壊させて行く。


 地球防衛を成さんとする機関に属する者たちの一見バラバラでいい加減とも言える対応は、ともすれば協力を依頼される側からすれば極めて大きな疑念を抱きかねない所。だが――そんな雰囲気へ呆気にとられる子供達にささやかな変化が生じる。


 言うに及ばず、眼前の得体の知れぬ者達は。であるはずが、子供達は全く別の想いを心へ抱き始めていた。


 その想いが思考どころか、むしろ態度へダダ漏れとなる引きニート少女はここぞと進言する。彼女が思い描いて止まなかった人型巨大兵装……そのコックピット搭乗を実現するは今と。


「あの、自衛官さん! 私、このストラズィールのコックピットへ乗り込みたい! もう待ちきれなくて発狂しそうです! 」


「うわ、オタッキー全開だなナルナル。けどまあ分からんでもないけど。」


「二人共順応早いわね(汗)。私なんか未だに、現実感皆無なんですけど? 」


 先ほど眩暈めまいで崩れ落ちたばかりの少女がピョンピョン跳ね、コックピット搭乗を懇願して来る。それをまた倒れないかあせあせと見守る機関員。堅物一佐乱斗はそれを微笑で一瞥する聡明な令嬢へと視線を送り、柔らかな首肯を賜った後「特別に……」と前置き引きニート少女を案内して行く。


 もはや引き籠りもどこへやらな少女の独壇場へ、否応なしに引き込まれる二人の子供達も付いて行く。しかしそこに、誰もを拒絶していた日常とはかけ離れた何かを共に感じていたのだ。


 今でこそ赤の他人であるはずが、やがてかけがえのない家族へと変わって行く様な――



 そんな予感をひしひしと感じたからこそ、愛に飢えた少女も見抜く少年も……メカオタク少女の背を追っていた。

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