引き篭もり少女の見る夢は
memory:1 籠る少女
小さな時から人と同じが嫌で仕方なかった。
そんな自分を表現出来るものを探し続けて、気が付けば高校入試の時期。すでに自分を失いかけていた私は、望む理想を押し付けて来る両親との溝が修復出来ないほどに刻まれて——
いつしか自宅の部屋に閉じ
良い学校に入り良い社会人になれと、毎日の様に私を
けれど——
引き籠った私にある時、唯一それを押し付けないお爺ちゃんが……私の部屋の前に何も言わず置いて行った物。〈鋼鉄機大戦〉と言う、一部のマニアには絶大な人気を誇るスーパーロボットシミュレーションゲーム。そしてゲーム機本体のプレイデスク4だった。
それからと言う物、部屋でほぼ一日を過ごす私は狂った様にそのゲームに没頭し——気が付けばそこからミリタリー情報にまで興味の幅を広げていったのを覚えてる。
都心の一角。確か宗家特区とか呼ばれてた場所。煩雑に広がる集合住宅の端にある実家は、両親とお爺ちゃんが暮らす二階建ての在り来たりな住まい。
でも私にとっては自分の部屋だけが、世界で唯一心の安らぐ場所だった。
「——るー!
二階の自室へいつも変わりなく響くのは、もう一年以上もまともに会話がない母親の物。私はその返事に答えるのも嫌で、夜中に下へ降り「放っておいて!! 」と張り紙を貼っている。でもそれを見ている筈なのに、いつも一階から大声で私を呼んでくる。
「(……張り紙見てるんでしょ? 何で大声で呼ぶの……。)」
その度にイライラが
けれどある日、あろう事か母親が強硬手段に出る。いつもの様に耳を布団で塞ぐ私はその気配に気付くのが遅れて、その強硬手段の影響をまともに受ける寸前に追い込まれた。
「音鳴?いい加減みんなで夕飯を——」
「……!?勝手に入って来ないでって言ってるでしょ!!? 」
何でかその日はお手洗いにと部屋を出た時自室の鍵をかけ忘れ、動くレバーに好機と見た母親が部屋の扉を開け放とうとし——辛うじて張ってあったチェーンでドアも半開きとなる。
瞬間……失態に気付いた私は弾かれた様にドアへ駆け、自分でも驚く位に声を荒げて、母親を怒鳴り上げていた。
結果、私はその日の夕飯すら取らずに再びゲームに没頭する顛末となる。
そんな日常が続けば良い……そのゲームを只管攻略し続ける日々があれば、もう人と同じ自分を求める社会と関わらなくて済む。それがずっと続く事を夢見て私は日々を淡々と過ごしていた。
あの……想像を絶する非日常と出会うまでは——
†††
トウキョウから南に位置する海域。巨鳥を思わせるそこは、社会の日常から隔絶された施設。しかし何の意味もなくそれが存在していた訳ではない。それは来るべき時のために建造された、
全長にして2kmに達するその施設中央には、巨大な塔と思しき物とそれを守る様に並べ立てられた鋭い建造物群。幾難学模様に包まれるそれらが天を仰ぐ様に
その塔と思しき物の中腹……先進的なビルを思わせる展望窓を備えた大部屋が備わり、太平洋を望むそこで来るべき時に備えた会談がひっそりと行われていた。
「――以上が、貴殿……三神守護宗家が草薙家。表門当主であられる
展望窓の対して東西に大型のデスクと宙空へ浮かぶモニターを配し、対面する影が三つ。一つはデスク側――ソファーに鎮座する影はいと小さな、ともすれば幼子とも思える体躯の少女。
が……プラチナブロンドの御髪を止めるヘッドドレス下に輝く碧眼が、神々しさすら覗わせ――傍でその従者であろう長身の男性が詳細説明を行っていた。黒のタキシードとシルクハットに包まれる男性もまた、おおよそ一般の民とは一線を画す高貴さと真摯さを兼ね備えている。
そして巨大なる施設詳細を聞き及び、これよりその管理全権を受け持つ事になる影がデスク前に
だが高貴さは感じずとも、それを補って余りある懸命さをその身に宿す青年であった。
「委細承知しました、アーサー卿。そして――観測者……アリス様。」
「ふふ……。今の私は、観測者の地位を振るうに足る権利など持ち合わせてはおりませんよ?
「……では、改めて——これらの施設を受け持つ事にするよアリス。これでいいかい? 」
神々しくも決して虚勢など張らぬ謙虚な姿。アリスと称された少女の配慮へ、草薙 炎羅と呼ばれた青年も合わせて言葉を砕く。
方やこの地球を管理する者に属する少女アリス。方や日本は三神守護宗家が一家である草薙表門を纏める炎羅。この時より……地球と言う世界に於いての想像だにせぬ試練が待ち受けるのだが——
その矢面に立つのはまだ見ぬ少年少女。
それも優等生や選ばれた宿命を宿す者達では無い……出来損ないのレッテルを貼られた、社会不適合者と蔑まれる若者達が選ばれたのだ。
†††
三神守護宗家の当主を任されてから早八年。けれど変わらずの批判や誹謗中傷は絶えずオレの心に突き刺さる。そんな中訪れたこの蒼き地球の命運を左右する事態——
それに対処するための巨大なる施設機関と共に……彼女は突然現れた。
「この機関をオレが……何の後ろ盾も持たぬ、一般人上がりのオレが制御するのか。」
機関の司令室となるそこへ詰めるオレは、おおよそ現代科学の範疇を凌駕する景色に圧倒されながら独りごちる。視界を占拠するこの身に与えられた強大なる力は、遥か古——三神守護宗家の文献にも残された伝説上の技術体系……
元をただせば文献上の記述を見る限り、我ら宗家の源流はかの〈太陽の王国ラ・ムー〉を起源とし——その正統なる血族である者が本来ここを使役する役を仰せつかるはず。だが……オレは宗家の血統を持たぬ余所者であり、義理父となった
そんな叢剣殿は——
「
「ああ……
「今はこの機関を背負う重責が追加された所……お父様の事は暫く、記憶の底にでもしまっておいてはいかがです? 」
「重ね重ね……感謝するよ麻流。君の言葉を実行させて貰うとする。」
司令室の中央座席に座したオレを
詰まる所この時代のあらゆる組織では、未だに女性が事の主権を握ることに反感を持つ者が大多数を占めると言う……実に未熟なる世界事情が絡んでいた。
艶やかな腰まで伸びる御髪は日本人特有の深い黒。それを
それから程なく訪れた悲劇が、オレの義理父である叢剣殿を奪ってからの今に。
そこからの紆余曲折を経て施設管理統制を任される事になった現在、すでに可能な所からの運用を開始したオレはある難問を抱えていた。
「(この施設運用問題はすでにクリア——だが肝心の機動兵装運用メンバーが揃っていない。これでは有事に備えた意味を成さないな……。)」
麻流への返答もそこそこに、宙空へ浮かぶモニターを注視する。
そこに投影されるのは五体の巨大なる影。一見トゲトゲしさから、昆虫の
現代技術ではデータ上明示された30mを超えるそれを、歩行できる人型として建造する事自体が不可能。しかし自立さえ可能とするこれこそが、翼を広げた巨鳥を思わせる巨大施設——〈アメノトリフネ〉に内包された地球を守護する巨大兵装と説明されている。
それが〈霊装機神ストラズィール〉と呼称される、あの観測者であるアリスから権利移譲されたオレの責が伴う物の全容。
詰まる所、この蒼き大地に訪れる危機を屠る世界防衛の要であった。
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