霊機新誕ストラズィール

鋼鉄の羽蛍

世界の闇は少年少女を汚染する

memory:0 来訪者

 日本と称されたその国は古の大帝国の血を受け継いでいた。

 1万2000年ほどさかのぼった地球に栄華を誇りしそれは、【太陽の帝国ラ・ムー】と言われその時代には長く栄華を誇っていた。

 しかしある時期を境に忽然と姿を消したその地は、すでに歴史からさえも消し去られる事となる。


 だが現在——その大帝国時代に生まれた者の血脈と使命を、脈々と伝え生きる子孫が存在していた。


 いにしえの書物。外典とも称されたそこに記される太陽を受け継ぐ子孫の名。太陽の子ら……日出づる国を生みし者達。

 ——黄金人オウルレイヒ——



 これはその末裔であるはずの人々が生み出した、……人知れずあらがい続けた少年少女の物語である。



 †††



『敵は……野良魔族機兵らは、こちらを真っ直ぐに狙って来ている! 行けるかい!?音鳴ななる君!』


 そこは海上。

 東都心トウキョウと称される日本の首都から、遠く数十キロ離れた孤島が存在する海域。ある時期を境に幾つもの島々が誕生した事でも知られるそこへ、島々それらとは異なる巨大人工施設が荒波をさえぎる様に浮かんでいた。


「言われるまでもありません……。すでに私の〈STZストラズィール—Ⅳ ゲイヴォルグ〉狙撃射程範囲内。落としちゃいます、私的に……!」


 その施設を強襲する影と、対して影を穿つ巨影が相対する。護られる施設の巨大さは周囲の島々を凌駕する規模……さらにその形は大空を舞う巨鳥を思わせる。


「しっかり狙えよ、音鳴ななる! オレと大輝だいきで突撃する空間を作ってくれ!」


「……おいテメェ将炎しょうえん、俺に指図してんじゃねぇよ。やるぞコラ。」


「っせえな! お前単独じゃ、無謀に突撃して台無しにすんだろが!この!」


「ああもう! あんた達、ケンカは後にしなさいなっ! 闘真とうまも何か言って——」


沙織さおり……任せた。」


「ちょーーっ!? アタシに丸投げって、どういう事っポイ!?」


 巨鳥施設周囲へ陣取る巨影は五体。そのいずれも現代の技術では考えられぬ体躯を、蒼き大地の大海上へ雄々しく舞わせた。

 五体それぞれが異なる色合いでいささか突起が多分に配された人型を模し、見た目の様相がか弱き昆虫系生物の幼虫を彷彿させる。それらが各々得意とするであろう武装を構え、天空より飛来する謎の異形兵装を相手取っていたのだ。


 何よりの特徴としてそれら機体から響くのは、まだ歳ばも行かぬ少年少女の声——それが襲来した来訪者を屠って行く。


 さらに施設防衛のため一進一退の攻防に終始する姿へ、羨望を抱き指示を送る男性が施設内司令室と取れる場所より声援を送っていた。


「彼ら魔の軍勢——野良魔族機兵群は未だその本隊ですらない! まずはそれを相手に、君達がSTZストラズィールの機体に慣れる事から始めるんだ! 」

「猶予があるとは言い難い……だが君達を——オレは信頼している! 任せたぞっ! 」


『『『『『了解!! 』』』』』


 掛けられる声援は、少年少女への並々ならぬ信頼を乗せて放たれる。


 だが——

 彼らは決して社会から期待を寄せられ、そこにいる訳ではないのだ。それは来訪者の襲来から数ヶ月さかのぼった、まだ少年少女が都会の片隅で闇にまみれていた頃より始まる物語。



 彼らは……叫びを上げていた、孤独なる弱者〈社会不適合者〉であったのだ。

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