タイトル.71「裏切り者とワイルドカード(前編)」

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 電波塔に入ってから既に何時間が経過しただろうか。

 敵は燃やすだけ燃やした。押し飛ばすだけ押し飛ばした。

 邪魔者は凍らせて砕いた。目に見えるものを微塵に吹き飛ばした。

 ……百人から数えていないはず。

 もう何体のバイオ人間とパトロールロボットを倒したのか覚えていない。

「何体いやがるんだッ! クソッ!」

 誇張するにしても間違いなく五百近くは仕留めている。だが、それでもなお決着がつく様子はない。

「第一どこにあるんだよ! 市長室ッ!! どこからどこを見渡してずっと廊下じゃねぇー-か!!」

 突破口を切り開くためとはいえ、ただ倒してばかりではキリがないのは十分承知。故にある程度はいなして道を探すを続けていた。

 しかし五階付近に到着してから次の階へと続く道が見つからない。塔の作りの問題からか、階段は真上まで一直線につながる構造にはなっておらず、特定の階を進むごとに違う場所へ階段を設置しているようだ。

 しかし、その階段がどこにも見当たらない。

 一直線で行くとなれば塔の中心になるエレベーターを使用するのが手っ取り早いとも思ったが予想通りエレベーターは使用不可能になっている。電源は切られており、扉は固く閉ざされていた。

 なら扉を破壊して、そこから上まで登って行こうかとも思ったが非常用のはしごもロープも全て破壊されている。エレベーターから市長室に向かうのは無理そうだ。

「おかしいな……確か、コッチにあったはずなんだが」

「階段が消えてやがるぞ!?」

 キーステレサとドガンの二人も階段が見つからないことに違和感を覚えている。

「……妙です」

 だが、それ以前の違和感がある。

「階の構造そのものが変わっている……?」

 ジャンヌ、キーステレサ、ドガン。今まで市長室に直接訪れていたセスの面々である彼らは明らかな違いに途中から気が付いた。

 以前と違って部屋の場所も階段の場所も、何もかもが変わっていると揃って口にしたのだ。

「……僕たちが最初に来た時と、中身が変わっているような?」

 最初は見覚えのある五階の風景だったという。

 だがその風景は進むごとに……その懐かしさとは程遠いものへと変わっているようにキーステレサは思えた。

「改装工事にしては仕事が早すぎるな」

「どうするんだい? これ以上の重労働はさすがに厳しいけれど……!」

 もとより体力のないレイアの限界は近づいていた。

 ス・ノーもこれ以上の消耗は避けておきたいと考えている。

「壁を壊して進む方法も考えたが」

 階段の場所そのものがどこかに隠されている。壁を破壊して隠し通路を探し出すという方法も見つけたが。

「御覧の通り、傷一つつかない」

 頑丈なつくりなのかこんな大人数で暴れても、傷一つつくどころか焦げカス一つつく気配が見えない。

 ……まるで閉じ込められたような気分だった。ゴールの見えない迷宮へ。

「完全に道に迷ったか。戻る道さえも見失った」

 四階へ戻ろうにも、その通路すらも失われているように見えた。

 リアルタイムで部屋の構造が変わっているように思える。どれだけ先に進もうが、待っているのは見慣れない広間と廊下の連続。ゴールらしきものが全くもって見えない。一直線に真っすぐ進んでいるはずなのに、塔の外へと続く窓にすら到達しない不可思議な現状だ。


 ……道に迷った、というよりも。

 敵の術中にはまっている。この可能性が高いと考えるべきか。


「どうしたものか……!」

「皆さん! 落ち着いてください!」

 ただ一人幸運のみの女性。戦闘経験がないジャンヌは道案内のためだけにここへやってきた。慌てふためく彼女に出来る事は何が起きたのか考察することと、皆に落ち着くよう声を届けるだけ。

「こういう時こそ、冷静になって……キャッ!?」

 ご自慢の天然がこんな場所でも炸裂。倒れていたロボットの足に引っかかってしまい、その場で盛大にズッコケてしまう。

「「おおっ!?」」

 その先にいたのはアキュラとレイブラントだった。

 前のめりに倒れてしまったジャンヌは両手を突き出していた。その両手はそれぞれアキュラとレイブラントの二人をその先にある壁へと押し出してしまったのだ。

 衝撃に備えアキュラは目を閉じ、レイブラントは身構えた。



















「「……あれ??」」

 数秒。時が長く感じた。

 なかなか、背中に壁がぶつかる感触が訪れない。

「なっ……なぁあああ!?」」

 しばらく長く、ふわっとした感覚が続く。

 体が宙に浮いたような。別の空間に投げ出されたような感覚が。

「いてっ!」

 その場で盛大に尻餅をつくアキュラ。

「大丈夫か?」

「どうなってやがるんだ……確か後ろには壁が」

 結局壁にぶつかる感覚はなかった。倒れそうになった体を支える障害物はその場になく、フラついたアキュラの体はそのまま床へ倒れ込む結果に。

 紳士的にも腕を伸ばしてくれたレイブラント。レディとしての嗜みもなくその手を力強く握りながらアキュラは深く息を吐く。

「ここって……」

 妙な違和感。周りを見渡す。


 “密室”だ。

 人間が十人近く入れるか入れないかの箱形の個室。前方は固く閉ざされた扉、全部で五十一個のボタンと開閉ボタン。数個の手すりと鏡。

 天井を見上げると、それぞれの階の部署など一覧が張り出されてある。

「エレベーター、だと?」

「……」

 市長室があると口にしていた五十階のボタンを押す。

 するとエレベーターはそれといった問題もなく上の階へ目指していく。

「アキュラ、これはどういうことだ? エレベーターは見かけたが、電気が止まって動かなかったはずなのに。そもそもこれは俺たちが一度見たやつと、」

「……どーやら」

 不気味な感覚こそあったが、突き飛ばしてきたジャンヌの事を思い出す。

「アイツのツキを分けてもらったらしい」

 二分近くかけてエレベーターは五十階のフロアへと到着。

 開いた扉の先には十メートルにも満たないと廊下に高級な木材と金色のドアノブであしらわれた“市長室”の扉がある。

「……準備はいいか?」

「ああ」

 それぞれ両開きの扉を押した。覚悟の確認、そのうえで二人同時に押す。






「……ほう、まさか」

 ビンゴ。そこは紛れもない市長室。

「ここに来れたか。

 オルセル・レードナー。

 復讐を誓うべき相手。全ての根源が今、市長椅子に腰かけ客人をもてなした。

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