タイトル.69「時代の災厄 アイザ・クロックォル(その2)」
数か月以上が経過した。
アイザ・クロックォルとの戦闘も長く続き、村正の調整も大きくアップデートを行う計画が回り始めていた。このまま戦闘を続けても一進一退。むしろ向こうの方にまだ有利があると言うべきか。
兵器開発部は村正のアップデートのプロジェクトを計画していた。
これはカルラ本人の提案でもあった。『負担を考えずに作れ』という言葉、最低限課せられたリミッターも気にすることなく解除しろ。災厄アイザを倒すにはそれだけのパワーアップは必要である、と。
その場で対峙したカルラも“戦慄”したほどだ。説得力があった。
深く息をのんだ。死を覚悟するには至らなかったが勝利できるかどうかは厳しいラインだった。その予想通り互いに敗北こそしなかったが、戦いは永遠とも思える一進一退を繰り返した。
向こうも何かしらの手を出すに決まっている。そうなる前に沈黙させるための力を補う必要がある。日本軍もここ数か月はそちらをメインに動いていた。
「なにぃ!?」
はずだった。
「停戦協定、だと……!?」」
事は予想外の展開へと雪崩れ込んだ。
「ああ、我々日本軍は一時的に協定を結ぶこととなった」
クザンの口より伝えられたのは日本軍の新たな意向だった。
それは……向こう側が日本軍への停戦協定を申し込んだこと。それどころか協定の間。支援は勿論の事、資材や資金の援助も行うとまで言いだしたのだ。
あまりに急な話だった。いち早く敵の国家をつぶしにかかろうとしていたはずの互いがこんなに簡単に尻尾を振ったのだから。
「本家の奴ら、ビビったわけではないだろうな?」
「それはあり得んな……こんな美味い話が敵から流れてきた。戦争の勝利を図るため、こうして協定を持ちかけることは珍しい話ではない」
「罠の可能性だってあり得るだろ?」
「これを見ろ」
渡されたのは伝書だ。中身の内容はもしかしなくても停戦協定の内容、程よい距離感を感じさせる社交辞令満載の通達所だ。
それとは別に……“別の国家の動き”を機密でまとめた書類を手渡してきたのだ。
泥沼の戦いが続いている中、他の国家も同盟を結んでいたことが判明したらしい。秘密裏に進められた協定による軍力の増加……準備ができ次第、消耗を続けた両国家に宣戦布告を仕掛けようという魂胆だったらしい。それにいち早く気づいたのだ。
まずは戦いを邪魔する輩の排除のために一時休戦。互いに好条件を叩きつけて、あわよくば同盟を結んだままの関係でいようという魂胆も見えている。
露払いを終えた後。どちらが国権を握るかどうかの話でつっかえそうではある……プライドの高い神代本家の事ならば。戦いはどのみち避けられない。
「……大まかな話は理解したぜ。国家も勝手なもんだ。俺に殺せと言ったり殺すなと言ったり。命令多すぎて首がもげちまいそうだ」
数日後、国のトップが直々にここ日本へやってくるらしい。
神代本家を中心とした日本の政治団体もそれを出迎える準備を整えている。何せ相手は国のトップ4。手荒な歓迎は勿論、半端なことも許されはしない。
(国のトップがやってくるって、ことは)
カルラはここ数日の戦場の事を思い出す。
(アイツもくるって、ことだよな?)
あの、無垢な戦乙女。
アイザ・クロックォルも味方としてこの日本へ訪れるという事に。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後日、お忍びでジェット機が日本の大陸へと上陸する。日本に滞在する宗教団体やテロ組織、その他反発レジスタンスなどの猛攻を食らわぬようにしっかりと防衛を行いつつトップ達は歓迎された。
ジェット機より、手を振りながら大統領と思われる人物が現れる。
その日の歓迎の参列には当然カルラも呼ばれることとなった。本家を追い出された人間がこうして仕事の一環で体を並べることになるのも不思議な話である。言い方を変えれば、都合が良い時だけ一族の顔をさせることを許す身勝手なのだが。
しかしこういった野暮用くらいで癇に障るなんて口にはしない。こっそりアクビを隠すために口元を覆い隠すくらいの無礼で反発する程度。
慣れない空気に少々咳き込みながら、国のトップ同士の握手を見守っている。
「よい、しょっと!」
大統領とボディガード、その軍勢に遅れて現れたのは……あの乙女だ。
あまりにも無防備。ジェット機から飛び降りた乙女のスカートがめくれ上がり、まったくもって色気のないスポーツ下着が露わになる。そんなことお構いなしにアイザはきょとんとした表情で日本基地の滑走路を見渡している。
「……あっ」
そして、すぐに目が合った。
まるでオオカミの尻尾のように荒立った銀色の長髪。肌は白く、粉雪のような煌めきがメイクで際立っている。無邪気と堅苦しいセーラー軍服の下に隠れているのは大人手前の育ち盛りの体。
……黙っていると本物の美人である。
年上のお姉さんが好みのカルラであるが、同い年であれ大人の色気を際立たせるその少女を前に一瞬だが言葉を失ってしまう。初めてというべきだろうか、こうして言葉を失うくらいに見惚れてしまったのは。とてもクールで、その姿は高貴な騎士のようで。
「見つけたぁあっ!」
だというのに、この上なく勿体ないほどにミーハーで子供っぽい。
美しい乙女はガンブレードを引き抜き、カルラのもとへと飛び掛かった。
刀のように振り下ろされる頑丈な刃は果実を切り裂くのと同じノりでカルラの頭上へと近寄ってくる。
「おぉおーーーいッ!」
突然の事態。いきなりすぎる急接近。敵意なんて誰も持っていない安全地帯だというのに模造品の電源を入れてご丁寧にフェーズ2へと移行中。そんな彼女の攻撃を見事、カルラは受け止めてみせる。
ジャパニーズフィクション芸。刃ではなく両手の素手でその刃を挟み受け止める。真剣白刃取りというやつである。
「危なかったァアア!? つーか、なんか出来たァアアッ!? 白刃取りって本当にできるんだ、すげぇえええ!?」
良い子は絶対に真似をしないでほしい。真剣白刃取りなんて普通の人間がやったら腕を失うことになる。それだけは忘れないでほしい。
「あはははっ! また君に会えた! ずっと会いたかった~!」
少女は笑顔で両手に力を入れる。カルラは絶体絶命、腕は愚か頭も真っ二つに裂かれそうになる。
「ねぇ! 今日も『痛い』を教えてほしいなっ! 私、もっと沢山の事が知りたいなっ!」
「おおい! その言い方だと誤解を招くだろうが! 俺ってばそんな性癖ないから!」
この少女の無邪気ゆえの好奇心なのか。それとも生粋のマゾヒストの素質があるのか。あまりの不意打ちの理由の正体は身震いを起こしそうな狂気を感じてしまう。
せっかくの美人が台無しだ。一目惚れにはなったカルラであるからこそ、この少女の素質をぶっ壊す無邪気という概念には落胆の溜息がボロっとこぼれる。
「アイザ様ッ! お戯れをッ!」
「誰か止めろ!」
「違うのです! 彼女はちょっと、その普通じゃないというか……」
「こっちに来なさい!」
瞬間、身構えた日本兵たち。それに対して警戒を解こうと必死のゲストたち。
……外交一日目。早速波乱なことになったとカルラは肩を落とす。
遠隔操作でアイザのMURAMASAは電源を切られ、無防備になったところを数名のボディガードに連れられ説教される少女の姿を見ながら。
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