タイトル.66「圧倒的バイオテクノロジー(前編)」


「この……野郎ッ!!」

 制圧から数日が経過。一足遅れて、ロックロートシティに到着したのはフリーランスとロゴスの一同。

 街に足を踏み入れるや否や……今もなお、輩出されるパトロールロボットの大群にジャイロエッジの軍勢。

「《歪死ノ火マガシナノヒ》ッ!」

「《風よ、どうか罰をお下しにソムエナ アモスト オトィファエ サイレヘテエ》!」

「《鉄甲テッコウ》!」

 アキュラ、シルフィ、レイブラントの三人は政府本局を目指し走り続ける。

 雪崩れ込むように送り込まれるパトロールロボットの残骸があたりに転がっている。ジャイロエッジから飛び散った毒液が酸のようにレンガの埋め込まれた地面を溶かしている。

「キリがねぇ! 次から次へと!!」

 どれだけ相手をしようがパトロールロボット隊は次々と第二波・第三波を送り続ける。その中に紛れて現れるバイオ生命体・ジャイロエッジは再生を繰り返し、頭数の減少を許さない。

 ある程度あしらって移動を繰り返してこそいるが、どこへ行こうが包囲網の中。その中でも何が面倒かと言えば。

「逃げるなッ!」

「コイツ……!」

 新市長オルセルに脅され、何としてでもフリーランス一同の捕縛を試みようとする住民たちの姿だった。

 怯えながら戦う姿は痛々しくて見ていられない。今の彼らの立場は奴隷以上に自由の利かない不憫なモノ。

「《駆動氷欠くどうひょうけつ》」

「《トゥインクル・マーキュリー》!」

「《風林火山ジェノサイド》」

 ロゴスの面々も後れを取らない。

 完全再生を繰り返す生命体であろうが凍らせれば問題ない。その無限の再生を許さない超火力の数々。ジャイロエッジ隊の殲滅はロゴスの面々が請け負っている。彼らの援護がなければ、フリーランス一同がひもじい思いをしていたのは間違いない。

「……しかし、驚いたな」

 ジャイロエッジの大半を凍らせたオブジェ。そこへ軽く拳を突き入れ崩壊させる。

「お前たちまで協力するとは」

 そんな亡骸には目もくれず、ス・ノーが傾ける視線。その先には。

「当然さ」

 無数の影の触手。顔面も体も包帯まみれの好青年。

 見ているだけで滑稽とも思える姿であろうと己の欲の赴くままにバイオ人間であるジャイロエッジの体を引き裂いていく。

「《デス・ロォオオオオオル》!!」

 ロックンロールと言わんばかりの大声で叫ぶ巨大ワニ。

 空中から体を大回転。そのままベーゴマのように地面に着地し、通路を塞ぐパトロールロボット隊を一瞬で蹴散らしていく。

「俺達はこの街の平和を守るための部隊なんだぜぇッ!」

 デス・ロールを解除したドガンが高らかに宣言する。

「あの男。オルセル・レードナーのやったことは完全なる反逆行為。特殊部隊セスの一員として捨て置ける状況じゃないさ」

 相手は赤い血も流さないバイオ人間。あまり満足したような言い分ではなかったがそのナイフから伝わる“肉を貫く感触”が多少であれタバコ程度の快感を与える。見た目からして最早、凶悪殺人犯としか思えないキーステレサは正義を語る。

「連絡を入れてみました。スバルヴァ市長と……一切繋がりませんでした」

 携帯電話を片手に、ジャンヌは肩を落とし涙を流す。

「市長は過去、私たちにこうおっしゃったのです。急遽連絡が取れなくなったら自分に何かあったと思って構わないと」

 スバルヴァ市長はそれといった力もなく、政治面などにおける活躍のみで市長の身にあがり切った男。故に特殊部隊セスを束ねる立場の中ではそれといった力を持ち合わせていなかった。

 仕事の間であろうと特殊部隊セスからの連絡だけは絶対に受け取るのが彼であった。その状況で連絡が取れなくなったという事は……その手駒の中で裏切り者が現れたという事。品定めをしくじったことを認めたという証。その裏切り者こそがオルセル・レードナーであった。


「これ以上消耗は面倒だ。早く政府本部局を制圧し」

「あ! そっちではありません!」

 政府本部局のビルへと走っていく一同をジャンヌが呼び止める。

「え? 政府本部はあっちで、」

「政府本部局はあのビルであってるけど……市長室はあの建物には存在しないよ」

 急ブレーキをかけて問答を掛けたアキュラ達にキーステレサが説明する。

「市長のやり方が気に入らない人は少なからずいたからね。だからあのビルに襲撃をかけるテロリストや産業スパイは幾らでもいたのさ。市長の殺害を免れるために市長だけは別の場所で活動していたのさ……僕たち特殊部隊セスと一緒でね」

 この総攻撃をやめさせる。そのためには指示を送っているオルセルを倒すしかない。しかし政府本部局へ向かったところでその肝心なオルセルはいないのだという。


「じゃあ、市長はどこに……」

「アッチだぜ!」

 ドガンはクルリと一回転。彼なりにキメたポーズで大空を指さす。

 そこはロックロートシティの中心にそびえたつ巨大な電波塔。政府とテレビ局員以外の関係者は立ち入りが禁止されているエリアだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「《夜風式村正刀技第十二式・兼定むらまさのさつじんわざだいじゅうにしき・かねさだ》!」

 一刀流居合。一瞬の一撃にパワーのメーターを振り切った攻撃が紫色の巨人の右腕を引き裂く。例えその肉体が“あらゆる鉄分をダメにする溶解液”の毒であろうと、村正が破壊されることは当然ない。

「《ケルベロスファング・0119》!」

 アイザの武器はマグナム銃。遠距離攻撃と不可思議エネルギーの絶妙なコラボレーション。ほぼ無制限に放たれるマグナムタイプのビーム砲は紫色の巨人のもう片方の腕を木っ端微塵に吹っ飛ばす。

 いくら巨大化しようとも二人には全くの無意味。どのような攻撃であろうと二人は返り討ちにしてみせていた。

「……私は、不滅。お前たちでは、倒せぬ」

 引き裂かれた右腕が復活していく。同時マグナムで吹っ飛ばされた左腕も再生を繰り返す。紫色の巨人はあっという間に元の姿へと戻ってしまう。

「諦めろ。私の一部になれ」

「……面倒だな」

 村正を強く握りしめる。

「フェーズ3で蒸発もしない。アイザのフェーズ4ですら全くの無意味……バカみたいな再生力だぜ。対して強くはないのも相まって、ちょっとイラつくぜ」

 戦闘が始まってからすでに十二時間近くが経過していた。

 あの紫色の巨人はもしかしなくてもジャイロエッジだ。しかし今まで戦ってきた人型の個体とは全くもって違い、まだ未使用であったジャイロエッジ達の肉体を総集結。桁違いの再生力と攻撃力を手に入れることに成功した、未知なる生命体。


 カルラのフェーズ3。アイザのフェーズ4。完全な戦闘モードへと突入した二人だからこそ対応は出来ていた。しかしそれは返り討ちの成功を続けているだけで、結局のところ決定打を与える結果には及べていなかった。

「……私は、死を克服、した」

 消耗を続けるばかりのカルラ達。か弱い存在であると小ばかにするようにジャイロエッジの啜り笑いが聞こえてくる。

「私は秩序を守るために、生き続けて、きた。しかし、私は、死が近づいていた。元より病に侵されていた、私の体は、秩序を守る、事を許されない、肉体となりつつ、あった」

 淡々と自分語りを始めだすジャイロエッジにカルラは余計に苛立ちを覚え始める。

「しかし! あの男は、私に機会を与えて、くださった! 私に無限の生命を……死を克服してくださったのだ! 私は今、この肉体を持って、正義を執行できる! この世界にはびこる全ての、悪を! 永遠にさばき続けるのだ! そんな私は非常に美しい!」

「聞いちゃいないんだが。悪党の回想なんてよ……微塵も興味ねぇ」

 カルラはマニピュレーターを作動させる。剣には再びエネルギーが纏われる。

「私が、悪だと? 世界の事も、気にかけぬ、分際で。言いはるな」

「……言い張るね」

 レベルを徐々に引き上げていく。

「“俺にとって、お前は悪だ”」

 カルラの体に電流が走る。

 脳が揺れる。心臓が暴れまわるように鼓動を繰り返す。手足に痺れ、マグマをぶっかけられたように体中が熱くなる。

「……フェーズ5だ」

 今いける限界地点。何としてでも黙らせる。

 カルラは紫色の巨人へと飛び掛かった。

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