タイトル.64「データで生まれた世話係(前編)」

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「オラオラオラぁッ! 天下無敵のヒーロー様のお通りだぜッ!」

「お通りだぜぇ~!!」

 政府本部局へとカルラとアイザは向かう。

 永遠に復活し続けるジャイロエッジは適当にあしらって放置し、パトロールロボットは再生の余地もないので発見次第粉砕。

 オルセルに脅され銃を向けてくる民衆は……ある程度無視する。

 道を塞ぐ奴は腹に一発添えて気を失わせる程度だ。他の面々と違って、そこまで手荒な真似はせずに放置する。

 今のところ順調。向かうところ敵なし。政府本部の本拠地の巨大ビルはついに目の前にまで迫っていた。

(何故、なのだ)

 誰の言うことも聞かない。そんな面倒なご主人様。

 神代駆楽に仕えるお世話係万能システム・ヨカゼは疑問に思っていた。

(人間とは等しく死を拒むもの。だが……この二人は、死を恐れていない)

 無謀。ともいえる二人に向けて、ヨカゼは本来浮かべてはならない感情で心を痛める。人間のように成長しきってしまった、その自我に。


(ご主人……貴方は、怖くないのか)


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 今から三年前。戦争真っ只中の戦火の中。


 苦戦を迎えることはなくとも、軍事力などの差に徹底的な溝があった日本は周りの国家に置いてけぼりを食らう傾向にあった。

 こうして日本が首の皮一枚繋げられているのも……神代家の力と、アウトロー傾向にあるカルラの存在あってこそ。

 この一同がいなければ今頃日本は消し炭になっていた。

 しかし、日本にも転機が訪れる。

 東京エリアの軍事施設。国家機密レベルの最重要研究区域にて……“彼女”は産声を上げた。


 自立型AI……通称“夜風”。


 人間に一時的な強化作用を促し、生身の体でもビーム兵器を扱える。まさしく“非人道兵器”の最先端として生み出された究極の戦闘兵器“村正”。

 そのシステム、そして使用者の精神安定。完璧な自我を持ったインターフェースとして用意されたのが“夜風”だ。人型のホログラム。その映像記録もセット。

「ほほう、なるほどねぇ……これが、新兵器ってやつか。まぁ、こんな剣はロボットが持つからこそ見栄えがあるもんだが、細かいことはなしってことで」

 村正が起動すると同時に、モニターではバーチャルボディが動き出す。

 映像にいるシステム代理のバーチャルボディはまるで本物の人間のよう。手足、首元も器用に動き、表情も、本当にただのAIとは思えないほどに細かく笑い、細かく怒る。

 そこに映し出された黒い和服の少女は本物の人間のようだった。

「……ん? んん~?」

 目となる肉体。幼女の映像データをジロジロと眺める、夜風の“ご主人”。

「おいいっ! 俺が言ったのは“クールで胸がボインな長髪の姉ちゃん”だって言っただろうがァアッ! こんな無邪気ペタンコのショートカット和服幼女は興味ねぇよ! チェンジだ、チェンジッ!!」

『はぁあああッ!?』

 超高性能プログラムによる演算。それにより今に適した言葉が放たれるようになっているのだが……よりにもよって、記念すべき開口一番は挨拶でも何でもない、怒りの叫びであった。


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 戦闘兵器“村正”。

 最早説明は不要かもしれないが、プログラム本体を使用者の肉体と接続。その場の状況に合わせた状況でフェーズのレベルを上げていき、使用者の肉体を強化する。


 しかしそのリミッターの上限。人間がどこまでその強化作用に耐えきれるかどうかはデータ上の限界しか見えていない。

 人間をAI以上の戦闘兵器に変えるという試みをもったこの兵器は、まさしく“追い詰められた日本がヤケクソになって作ったドーピング兵器”である。

 苦肉の策で生まれたこの兵器は使用者の事など考えずに作られたのだ。

 そしてそんな悲劇の開発品の使用者第一号に選ばれたのは……いや、自ら志願したのがこの神代駆楽だ。

 ヨカゼのメインプログラムに、彼のデータは根こそぎ放り込まれている。


 神代分家の人間にして、本家の監視対象。

 学園機関に属することもなく、少年期より軍隊へ所属した戦神。彼が選ばれた理由はもしかしなくても、その常人離れした戦闘能力であろう。


 それ以外の理由としては“神代本家”の指示もあった。

 限界も分からない危険な装置。それを見誤り自爆、暴走して事を起こしてもらえば本家としては嬉しい限り。モルモットとして派手に散ることを本家は祈っている。

 そして、彼のデータを本家に与えることも夜風にはインプットされていた。


「おおっ! コイツはすげぇ!」

 村正を使用したデモンストレーション。フェーズ2の肉体に最初は踊らされながらも、カルラは次第にそのシステムを自分のものにしていく。

「本物のスーパーヒーローになった気分だぜ!」

 村正、の未知なるパワーに興奮している。

 夜風は思った。随分と楽な仕事になりそうだと。

 この男は村正の力に溺れている。いずれその限界を見誤り、自ら肉体を崩壊させる未来が待っていることだろう。そうなれば任務もすぐに幕を閉じる。

「あとはお世話係が幼女じゃなくて、マブい姉ちゃんだったらなぁ~」

 何より、この男の事が気に入らなかった。

 なんとワガママな人間であろうかと。自分だって望んでこの姿になったわけではない。この姿は研究員の傾向で決まったことだそうだ。研究員の趣味なのか、それとも彼の態度にむかついた研究員の反抗なのか。謎のままである。

「ひっひっひ、次の戦場での戦いが楽しみだな」

『……』

 しかし、ヨカゼは興味も示していた。


 何故、嬉しそうな表情をしているのに。

 彼の心は“こんなにも空っぽ”なのだろうと。

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