タイトル.51「ヘヴン・オア・ヘル(後編)」


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「カルラ!?」

 撃墜された。その衝撃的な光景に思わずアキュラは声を上げる。

 回避できる攻撃であったのは目に見えて分かったが、あの回転は間違いなく飛空艇フリーランスを狙っていた。カルラはそれを分かっていて回避行動をとらず、迎撃の手段を取ったのである。

 パワー差で追いやられた。状況が状況だったとはいえ、あのカルラがいとも容易く地に落とされた。

『文字通り、そのまま地獄へ行きなぁ!』

 勝利宣告を上げるドガンの雄たけびが聞こえる。

 目の前の光景。いつもは大口叩いて何度か間抜けな絵面を見せるも、なんだかんだ言ってトラブルを掻い潜ってきたカルラ……しかし彼はドガンの言う事偽り一つもなく、墜とされていく。

『あとはお前等だぜえ! 操舵室とエンジン室諸共貫いてやるぜぇ!』

 あのビームに結界は効かない。外からリフレクターの出力装置を破壊した後に、例のローリングアタックでフリーランスを貫くつもりだ。シルフィが外へ向かうにも今からでは時間がかかる。間に合わない。


「おい……今から神様に『よいこにしてます』ってお祈りして間に合うと思うか?」

「回避方法は……もうないッ……!」

「そんなッ!」

 絶体絶命。そこにいる誰もがそう思った。


『これでリン様の御褒美をゲットだぜぇ! ギャーハッハッハハ……ぶふぉおっぉ!?』

 もうすぐ仕事が終わる。ドガンが喜びの声を上げた途端の事だった。


 -----“奇襲”だ。

 突如飛んできた一発のグレネード弾が、ドガンの肉体にクリーンヒットする。


「!?」

 その瞬間、誰もがカルラの復帰を予感した。

 しかし彼はグレネードランチャーとなりそうな武器を持っていた記憶がないし、ジェットブースターにもそういった機能は搭載されていない。

 何より、その攻撃は真下からではなく“真横”から飛んできていた。

『いってぇなぁ!? 誰だ!?』

 ワニ、というだけあって体は鋼鉄なのかグレネード弾一つでは撃墜されることはなかった。ハンマーで小突かれた程度のダメージ、折角のチャンスを邪魔されたことにかなりの怒りを露わにしている。

『……すみませんリーダー。はずしたでござる』

 聞き覚えのある声。かなり無理やりな“ござる口調”。

『構わん。ひとまず相手はノロマであることは分かった。撃ってくださいと言わんばかりの巨体、お前が撃ち落とせないことはないだろう?』

『その期待、存分にお応えしてみせよう』

 真っ白な飛空艇。

 そして、その護衛として……ジェットブースター代わりに、変形した背中から生えた鋼鉄のウィングで空を飛ぶ、なんちゃって忍者のサイボーグ。

「この声……!」

 真っ白の飛空艇から聞こえてきた男の声の正体はきっとあの人物。

 そして、その横のサイボーグは……フリーランスの面々も見慣れた人物である。

『なんだぁ!? テメェらは!? 邪魔立てするならお前らを先に』

『うるさいハエだな、とっとと墜としにいく』

 問答無用。向こうのキメセリフに付き合う必要はない。ここはアクション映画でも何でもないのだから、お約束に付き合う義理なんてない。

 真っ白の飛空艇は容赦なく発砲。次から次へと“ロゴス”に搭載された小型ミサイルやビーム砲、一斉砲火は空飛ぶワニに向けて浴びせられていく。

『了解でござる。それではご覧あれ、【本末転倒スクランブル】』

 援護射撃として。忍者のサイボーグであるキサラも両腕を変形させ、大量のホーミングミサイルを発射する。

『待て待て待て待て、おい!?』

 これには当然、ドガンも激昂。

『ふざけやがって! よし、お前等から墜として』

「何だか知らんがチャンスだよな、これはァ!」

 着々と潰されていった武装であるが、まだ使えるものは残っている。

「墜ちやがれ、ワニ野郎!!」

 背を向けたドガンを相手に、フリーランス側からも援護射撃を送り込んだ。

『待て、こいつら……クソッ! 飛空艇二隻だけならともかく、飛空艇ばりの射撃武器てんこもりのフザけた白兵もセットは流石に分が悪ィ!』

 飛空艇という巨大な的だけならともかく……ドガン以上の機動力を持っている上に大量の射撃武器を搭載しているであろうサイボーグが護衛としてついているのは状況が悪すぎる。

 空のスペシャリストといえど一人でどうにかなる相手ではない。状況分析はしっかり行い、沸き立つ苛立ちとプライドを抑えながらも現場から離れていく。

『覚えてやがれェ!』

 ドガンはフルバーストでその場から撤退した。




「……ふぅ、助かったぜ。ロゴスのキツネ野郎」

『借りにしておく。いいな?』

 飛空艇ロゴスからは相変わらずの上から目線の返答が戻ってきた。

 しかし今回は状況が状況だった。ロゴス様々でしたと媚を売るくらいには感謝しなければならない。

『……何か、面倒なことになっているみたいだな』

 ス・ノーも察知しているようだ。

 この状況。不気味な世界の変化に。

 獣の血が混ざった異種族としての感なのかどうかは分からないが……この未曽有の危機を、肌身で感じ取っている。

「ひとまず場所を変えよう。艇を修理したい」

『借りを増やしてもいいのなら、物資を提供してやらなくもない』

「甘えるぜ」

 相当大きな借りになりそうだ。

 何せ、アキュラと並ぶくらいの守銭奴である彼なのだから。

『……その前に、アイツを拾ってやれ』

 墜落したカルラ。

 まずは体を張ってチームを守ってくれた、自称ヒーローの救出が先だ。

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