タイトル.51「ヘヴン・オア・ヘル(前編)」


 ジェットブースターのエネルギーは充分。村正も磨きまくった上に充電マックス。テンションマックス、ハイテンションと本人のコンディションも最高。

 何よりこの爽快感。この爽快感を全世界の人間も味わってほしい。カルラはそう願うばかりである。

「……ヒャッハハハ! たまんない感じに出てきやがった!」

 ドガンは愉快気に笑う。

「うっひょぉ、いいねぇ。その悪党っぽい笑い方! 空を飛ぶことによってヒーロー感が増している俺の魅力がさらに倍ッ! たまんねぇッ!」

 背中に翼、勇者もビックリなビームサーベル。

 これこそSF映画の醍醐味。ノーベル主演男優賞受賞待ったなしのアクションスター誕生も夢じゃない。そんな夢を見ながらカルラのテンションが上がっていく。

「イカレた野郎共の中にはトンデモなくぶっ飛んだ野郎が一人いるって聞いていたがそれは間違いなくテメェだなァ!? もう見るからにヤバい匂いがたまらねぇぜ!!」

 ビーム砲の銃口がさっきまでとは違う光り方をする。

 するとどうだろうか。今度はビーム砲として発射されることはなく、その場で村正と同様ビームサーベルの形状に。触れた標的を溶接して斬りはらうサーベルの出来上がりだ。

「おいおい! その武器の構造どうなってんのよ!? 異世界とはいえ構造メチャクチャじゃねーのかい!?」

『……ご主人』

 バッテリーパックにセットされた携帯端末からヨカゼの声が聞こえる。

『本体である私が言うのはお門違いだがな……この武器も他人の事、正直よくは言えんぞ』

「……それもそうだな!」

 秘密主義、漏洩禁止。禁足事項待ったなし。

 このサーベルに纏われているエネルギーが一体どのようなものなのか。そもそもどのような仕組みを持って、肉体のドーピングだとか、アドレナリンやドーパミンの分泌効果を与えているかだとか知った事ではない。

 知らない事尽くしのこの装備。相手の事をそれほどは言えないというヨカゼのツッコミは的確なモノであった。

「さぁて、んじゃ大人しくやられてもらおうじゃないの。悪党!」

「さっきから何言ってやがるんだテメェ!」

 ビームサーベルを構え、ドガンが突っ込んでくる。

「こっちは政府でテメェはアウトロー! 悪党はお前だろうがッ!」

「そうだな! ってところだな! ダークヒーローみたいでカッコよさが更に増したねぇ!」

 ビームサーベルはビームサーベルで弾き返す。巨体とブースターの加速によりその圧力は尋常ではないが……フェーズ2に入ったカルラならば受け止められる。

「イカれてやがる! 話が通じねぇし、偉いポジティブだな!?」

 何せこれ以上のデブ体系と二度ほど戦闘した経験があるのだ。今更中小企業のサラリーマン程度のメタボリックなど相手ではない。それより酷い太っちょではあるのだが。

「……まぁいいさ。話が通じねぇなら、叩き落して気を失わせて! そのまま耳元で囁きまくって、俺様が夢に出てくるくらいに植え付けてやる!」

 二丁のエネルギーキャノンを両手に広げ、その場で大きく回転を始める。

「【デス・ロール】!!」

 そのまま縦横無尽に空を駆け回る。巨大なビームの大車輪、巨体の地獄独楽メリー・ゴー・ランドが空飛ぶカルラ目掛けて飛んでくる。

『ご主人! ざっと計算したが……熱量、パワー、全部負けてるぞ!? 鍔迫り合いは無理だ!』

「そうは言いたいがね……あの猛スピード」

 避ける暇がない、というわけじゃない。

「狙いは俺じゃなくて、後ろの艇だ」

 避けてしまえば、後ろの艇に目掛けてドガンが体当たりを仕掛ける。

 あのワニの目的は飛空艇フリーランスの撃墜及び、その面々の捕縛……最悪の場合、容赦なく殺害することも許されているだろう。政府の特殊部隊ともなれば。

「それによぉ! こうして堂々と出て来たのに逃げてばっかりじゃ格好がつかないだろうって!」

 スイッチを入れる。空中で押し勝つには“フェーズ3”へ突入するしかない。

「この俺と空で正面から挑もうってか! いいぜぇ! お前を地獄の底まで叩き落してやる!」

「じゃあ俺は。せめてもの情けで天国への片道切符をプレゼントしてやるよ!」

 クロコダイルが鷹を落とすのか。鷹がクロコダイルを天まで突き飛ばすか。

 今から始まるのは土俵のない大相撲。押し出すか突き出すか。前代未聞のパワー勝負が繰り広げられようとしている。

「フンッ!!」

 受け止める。

 一秒間に何回転しているか分からない。戦闘機のプロペラ以上の回転力くらいはあると冗談ではなくて言い切れる。何度も何度も、カルラの全体に一撃一撃が叩きつけられる。

 一秒間のおよそ五発。前方からハンマーで殴りつけられるように。それを数秒間、カルラは受け止めようとブースターも全開にし挑み続けた。




「……あっ、これヤバ」

 やはり“舞台”が悪い。

 空での戦闘は楽しくありながらも不慣れである。まだ感覚も上手くつかめていないこの状況で……受け止め切れるはずがない。

「墜ちろッ!!」

 弾き返される。

 力負け……カルラの体は隕石のように地面まで突き飛ばされていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る