タイトル.50「空飛ぶクロコダイル」


「なんだなんだ!?」

 慌ててカメラを切り替える。艇の揺れ方、その感覚からして後方からの攻撃であることは分かった。

『ヒャッハッハッハ!!』

 いる。何かいる。

 巨大なジェットパックに竹とんぼのようなプロペラ。両手には巨大なエネルギーキャノン。

『ようやく、見つけたぜぇッ!?』

 メタボ体系。ピッチピチのライダースーツを着こなし、顔には大きめのサイズのゴーグルとヘルメット。あまりに特徴的な顔面はまるで“ワニみたいな”形相。

 ……いや、違う。ワニみたいなという表現は誤りだ。

 むしろ、ワニそのものだ。


 二足歩行しそうなワニが人間の服を着て大笑いしながら人の言葉を話し、フリーランスのクルー達を挑発している。

『セスの突撃隊長! この【ドガン】様が相手をしてやるぜぇ~!!』

 正直な話、猫の耳の生えた可愛らしい少女やキツネ耳とシッポを生やしたスーツ姿の冷酷少年と様変わりなものを見て来た後だ。今更ワニが喋っても何も感じない。

 異種族だろう。もしかしなくても。

 腕には星空模様の腕章。政府の特殊部隊“セス”のメンバーの証である赤色の腕章を見せつけながら、ワニが宣言する。

『政府長の命令で、お前等をここで撃ち落としに……おっと! 捕まえにきたぜぇ!』

 今の発言。完全に殺す気だったのが伺える。

 まるでアメリカの子供向け番組のキャラクターを見ている気分である。ジェットパックから噴き出る真っ白なガスと、相対的に間抜けに回るプロペラがそれを更に引き立たせる。

「随分と手荒いご挨拶じゃねぇか!」

 スピーカー用のマイクを片手にアキュラが答える。

『お前らは政府を敵に回したからなぁ! 政府長がかなりお叱りみたいだぜぇ!?秩序のバランスをぶっ壊すお前達を絶対に許すなってなぁ!?』

「よく言うぜ! こんだけ世界引っ掻き回してるお前らが言える口かよッ!」

 両手に接続されたエネルギーキャノンの銃口が光る。

『攻撃前に俺の身分を明かさないといけないのがルールでな! 政府の人間としてよぉ!』

 ----人間じゃない。ワニだろ。

 その場にいた全員が総ツッコミを入れそうになった。

『この俺、ドガン様のお仕事はァッ! 暴走族の野郎とテメェラみたいなアウトローの艇を潰して落とすのが仕事なんだよォッ!!』

 二対のキャノン砲。バレーボール程の大きさの砲撃がフリーランスへ迫る。

「アキュラ! 回避を!」

「問題ねぇよ。あの程度の攻撃、フリーランスの結界なら防げ、」

 あんな小さな砲弾だ。その上リフレクターで防ぐには相性がいい“実弾以外”の攻撃。これくらいなら避ける必要もないと余裕綽々。

 そう思っていた時期が彼女にもあった。直後、エネルギー弾。命中。

「え?」

 結界リフレクター……に防がれることなく。

 なぜか、結界の内側のフリーランス本体へ直撃。

「ぶほぉっ!?」

 艇が大きく揺れる。操舵室にいた全員が一斉にその場でズッコけてしまった。アキュラは椅子から叩き落され、シルフィとレイブラントはその場の取っ手を掴み、何とか堪える。

「「あーれーっ!!」」

 カルラに関してはこれまた間抜けにヨカゼと一緒に操舵室の外の廊下まで転がって行ってしまった。

「おい待て!? 不調か!?」

 アキュラは操舵のメインパネルに慌てて戻ってみるが、結界リフレクターは何の問題もなく作動している。ヒミズでの総攻撃によって不調を起こしてはいない。

『ギャッハッハハ! 悪いが俺のビームは“結果を突き抜ける”特殊なエネルギーを使用してるんだゼェ!? 俺だけが所有することを許された特権武装なんだよォッ!』

 ドガンは自慢げに銃口を光らせる。

 結界を突き抜ける。そんなフザけたシステムを政府は隠し持っていたようだ。どうせこの目で拝めるのは最後になるであろうと自信満々にドガンはエネルギーキャノンを次々と連射しようとする。

「ざけんなッ! なんでもアリかよ、政府の野郎共!!」

 犯罪者相手には容赦のない集団。例え卑怯と言われようともチートくらいなんなり使う。彼等がジャンケンで後出しをしようとしても、正当な理由があるとかまして許されると考えると何かムカッ腹が立ってしまう。

「アキュラ! 反撃を!」

「そうしたいんだが……今ので幾つか砲塔がやられたな……ッ!」

 言われなくても分かっている。そう言いたげにレイブラントの問いに答えた。

 フリーランス自体も固い装甲で覆われているが、あのエネルギーキャノンは見た目の割には結構な威力を持っていたようだ。

 しかも割と装甲が薄い武装のあたりを狙ってきた。

 反撃の手段が一部失われた。そもそも、あのドガンとかいう政府の暴走族は見た目の割に結構すばしっこい。飛空艇の攻撃など回避も容易い事だろう。

「どうするんですかっ!?」

「逃げるにも、逃がしてはくれな……ん?」

 艇内のカメラに映された廊下の映像。そこには実体を得たヨカゼを連れて、ガレージへと突っ走っていくカルラの姿がある。

「……手が早くて、助かるぜ!」

 彼が何をしようとしているのか、アキュラはいとも容易く予感が出来た。

 そうだ。ああいう空の白兵戦に備えた装備はしっかりとこの艇にも積まれている。現にアキュラはドガンを突き落す次のプランの候補を生み出していた。

「コッチもコッチでどうにかする……レイブラント! 操作を手伝え!」

 それをカルラに託す。ガレージのシャッターを数秒後に開くよう設定する。そこからは……彼の仕事だ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ヒャッハハハ! 反撃しねぇのかァ!?」

 ドガンは五発目の攻撃を仕掛ける。

「まぁ無理だよなぁッ! 武器を次々と破壊されてるんだからよォ!」

 空のスペシャリスト・ドガンには確信があった。飛空艇フリーランスは着々と反撃の手段を失っている事に。

「反撃をしないなら、次で落としちまうぜぇ!」

「じゃあ、お望み通り!」

「!」

 余裕満々で大声を上げるカルラ。

 背中には近い将来全世界に発表されるであろうジェットブースター。カルラはフェーズ2へと切り替えた村正を片手にドガンへと斬りかかった。

「おっと!?」

 見た目の割にはすばしっこいフットワーク。ドガンは見事回避する。

「逆にお前を落として掻っ捌いて、ブランド品のバッグにしてやるぜ!」

 宣戦布告。反撃の狼煙が今、上げられた。

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