<第7部 エピローグ> 治安維持チーム
「……資金は至急調達する。復興に役立ててくれ」
市長は頭を抱えていた。
政府を妨害する異分子の排除に失敗しているだけじゃない。その排除の際に発生した”大被害”に貴重な資金を割く羽目になっている事。
アブノチの方でも『妨害に回る輩がいる』と報告を受けている。こちらの排除にも苦戦しており、余計な消耗を繰り返しているだけだ。
「やってくれているな。奴らは随分と」
政府の特殊部隊。
「【セス】の行動がメディアに露出し始めている……よくない傾向だ」
赤い星空の腕章を掲げた特殊部隊”セス”。
この部隊こそが……政府の反乱分子の排除。治安維持のための暗躍。
表舞台では紹介されることのない。裏世界の真なる立役者たちだ。
「あのふたりの帰還はまだか……」
そのメンバーの二人。ジャンヌとキーステレサ。
二人は今も尚、この政府本部へ帰還していない。怪我の治療、街の復興。それぞれ理由があって帰還が遅れている。
「このまま時間をかけるわけにはいかん」
「そうですねぇ。市長」
商人。オルセル・レードナーは市長の隣で薄気味悪く笑う。
「ジャイロエッジは死に絶えてでも任務を終えたというのに……貴方の部下は逃げ恥晒すどころか、こうして予定外の大被害まで誘発してしまって……どう、責任を取るつもりですか?」
その視線は市長ではなく、市長室へと訪れているもう一人の客人へと向けられる。
「【フゥアリーン】」
それは、いつも市長室に顔を出す、ドレス姿の麗人。
桃色と白の髪が混じったウェーブの髪。大人びた雰囲気の女性はオルセルの笑みに対して、特に表情を変えようとはしない。
「勝手に終わらせないでいただきたいのだけど?」
フゥアリーンと呼ばれた謎の女性は静かに立ち上がる。
「……彼らの排除の計画。これはまだ、第一段階ですわ」
とある街の大被害。ジャンヌとキーステレサの敗走。
しかし、これはまだ……ヒミズの薄汚れた仕事屋たちを排除するための計画の内。
フゥアリーンはそう告げる。
「計画は必ず成功させます……ですので、市長はどうか、いつも通りの業務に戻っていただければ幸いです。私の口座から資金の一部を引き落としてもらっても構いませんよ。どうか好きにお使いください」
計画に生じた被害の責任は負う。オルセルに対しては意識すら向けていない。
「……計画は第二段階へ。私も私の仕事に取り掛かると致します」
彼女は彼女の仕事へ。
フゥアリーンは詫びる様子を合間見せる程度に終え、姿を消した。
「これ以上の失敗は、街の崩壊に繋がりかねん」
ただでさえ不穏な空気。噂を耳にしている。
恐慌的手段を取り続けてきた政府。権力、暴力……その力を見せつけることで市民達の暴走に反乱など、あらゆる不安要素を抑制してきた。
しかし、ここ数日の政府の敗北続きに、市民達も動きを見せ始めている。
デモによる呼びかけ、テロの参加表明……悪夢の予感が、この政府へ死神の鎌を向けているのだ。
「どうぞ、ご心配なく……仮に、彼女が失敗したとしても」
オルセルは帽子を取り、頭を下げる。
「この私が、市長の望む世界を築きあげますとも……」
忠誠心を提示した。
この街の平和の為に戦う。これはオルセルの意思表明であった。
~第7部 完~
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