タイトル.47「困難極まるスプラッシュ」
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「ふぅ、明日は風邪をひかないかが心配だぜ……へっくしゅんッ!」
他人事のようにアキュラが一言。
「こんなことしてタダで済むと思って……へっくしゅ!」
「本当だ。俺達にこんなことをさせておいて……びぇえっくしゅ!!」
あの状況を回避するとはいえ、致し方なしと地下のパイプを破壊。
結果、噴水広場を中心に巨大な水の柱が吹きあがっている。間欠泉にも似た水流は止まることなく溢れ続け、次第に街は大きな湖へと変わっていく。
住民の大半は避難しているようだが、シルフィとレイブラントの罪悪感は深い。
「これ私たちのせいってバレたら、あっという間にテロリスト扱いですよ……ブァックシュンッ!!」
この後の展開がどうなってしまうのか不安で仕方ないシルフィ。空から降ってくる水滴が痛くて仕方ない。ただでさえ恐怖で震えているこの体には毒である。
「しかし、本当にアイツは恵まれてるみたいだな。優しい兄ちゃん達に避難を手伝わされてんだからな……ダァアアクシュッ! チクショイッ!!」
刺客であるジャンヌは手助けに入った大人達に連れ去られてしまった。
特にそれといった力もない彼女がその善意から逃げられる事はないし、『それどころじゃない』というジャンヌの言い分も届くことはない。
計画通り、離脱に大成功したというわけである。
「……早くカルラと合流しなければ、おそらくヤツも」
カルラのところにも刺客が送られているはずである。一刻も早く見つけ出して、このインナーバルシティから逃げ出さなくてはならない。
騒ぎでまだ混迷としているこのうちにトンズラを図りたい。脱出が困難になってしまうその前に。
「でも、一体どこに?」
携帯で連絡を取ろうにも相変わらずの圏外。何処にいるのかが分からない以上、こんな広い街から彼を見つけ出すのは困難である。
「今日のうちに見つけられるかどうかも」
「いや」
どうしたものか。そう悩む二人にアキュラが笑みを浮かべる。
「あのフザけた幸運野郎が離れたおかげか、オレ達に回ってこなかった運がやってきたみたいだぜ……ほらっ」
三人が進む屋根上一本道の前方。
「……おおっ、コイツはラッキー」
ちょうど路地裏から姿を現したカルラの姿があった。
なんというラッキーか。今まで運をシスターに吸い取られていたが、ようやくその苦しみをチャラにするような幸運がフリーランスにも訪れてくれたようである。
「カルラ!? どうしたんですか、その傷!?」
ぐるぐる巻きにされた包帯、三人は慌ててカルラに駆け寄る。
「「「って、くっさッ!?」」」
即座、三人同時に鼻を塞いで喚いてしまった。
あの血液ソースの味を堪能した身であるとはいえ、やはりその匂いは二日三日で慣れるものではない。想定外の悪臭でとんだ苦痛を味わう羽目になった。
「まぁ、何があったのかは後で話すことにしましょうや」
ここからでも見える巨大な水の柱へカルラは視線を向ける。
「……案の定、大将達も何かあったみたいですし」
ここで話すには長話になる事情があったのは目に見えて分かる。
ここまでのパニックになるほどの事態。長居をするのは危険であることをカルラは直感で感じ取っていた。
……阿吽の呼吸。四人は急いでインナーバルシティを脱出する。
飛空艇フリーランスを停泊させている場所へと向かわなくてはならない。街の騒ぎもあってか荷物チェックも何もかもがアヤフヤとなっているこの状況、うまく掻い潜って逃げ出すのだ。
「どうしてこんなひどい目に……はぁああーくしゅっ!!」
水浸しの姿のまま、四人はフリーランス目掛けて全力疾走で撤退した。
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フリーランスが飛び立ってから数時間後の事だ。
噴水広場から離れた高台の上。避難した大人たちは喘息を患っている。
「一か月に一回はちゃんとメンテナンスされてるのに……」
「機械トラブルか、或いは……」
あの
しかしアキュラは上手い事、死角となるように腕を隠した状態でパイプに細工をしてみせた。その場にいる誰もが徹底的瞬間を見逃してしまっていたのだ。
ことのつまり証拠がない。アキュラ達が噴水の崩壊に繋がっているという事実が。
「避難勧告が出たぞ。ようやく政府も動いてくれる」
「……って、あれ?」
まだ事態の収拾が追い付かない中、一人の市民が気付く。
「そういえば、あのシスターさんは?」
気が付いた時にはあの気弱なシスターの姿が、その場から消えていたのだった。
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----数時間後。
今日も夕暮れの上空をフリーランスが気兼ねなく飛行している。
何とか脱出が間に合った。警備を掻い潜るのに少しばかり強引な手段を多様したが一度空を飛んでしまえばこっちのもの。
「ふぅ……シャワーを浴びれないのは辛いねぇ」
艇に飛び乗ってから、カルラの胸の治療はレイブラントにやってもらった。
こんだけ動き回り汗を流しまくった体、そして例の血液ソースのこともあって、体から酷い悪臭が溢れている。この匂いを一刻も早くシャワーとシャンプーで洗い流したいのだが……こんな怪我じゃ、入れてもらえるわけもない。
よって、濡れタオルで体を吹き、軽く消臭スプレーをかけるのみ。
ジャケット以外の汚れた私服は既に洗濯機に放り込んでいる。破ってしまったジャケットは代えを持ってきているので問題はない。
若干残る嫌な匂いを横目に、カルラは溜息を吐いていた。
レディファーストと言う事でシルフィとアキュラが先にシャワーを浴びている。最大二人まで入れるあの場所に少女二人、当然男性陣が入れる枠はない。
よってレイブラントは彼女たちが上がるまではしばらく待っている状態。寒さのあまり風邪をひかない事を祈るばかりである。
「なんだかんだで今回も一件落着。あの場にいた方々は不幸の事故だったというわけでどうかご勘弁を。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」
フリーランスは現在、自動操縦でヒミズへと帰還中。
インナーバルシティへと訪れた本来の目的は達成しているのだ。インナーバルシティは足が浸るくらいの洪水なら何やらで大パニックになっているようだが、そこには目を瞑ることにする。ちなみに死亡者・怪我人は奇跡的にゼロだったようだ。
あれだけの被害だったというのに怪我人すらいないなんて、どれほどの幸運なのか。カルラは不思議なものだと首を縦にふるばかりだった。
「……ヨカゼ」
携帯端末に声をかける。
『どうかしたか?』
「俺、思いっきり斬られちまったけどさ……無事?」
『無事だ、問題ない』
「そうか、よかった」
カルラは用意されたバスローブを上着代わりに身に着けると、ベッドでダイノジに横になる。
「俺もまだ、もう少しは生きられるって事か! ガッハッハ!」
『……』
カルラの言葉を前に。
お手伝いプログラムであるヨカゼは……“むず痒い表情”を浮かべていた。
「さーて、次はどんな仕事が待ってるのかねぇ!」
『……ご主人。本来の目的を忘れているぞ』
「あっ! そうだ、いっけねぇ!」
元の世界に戻る事を忘れるな。
「ちゃーんと戻る方法もみつけなきゃな! ガッハッハ----」
いつも通りの滑らかなツッコミに、カルラはこれまた愉快に笑っていた。
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