タイトル.32「前人未踏のマウンテンヒル(その2)」
一同は進む。そしてついに見つけ出す。
山脈の中。人目のよらぬ隙間の中に奴はいた。
「うっひょぉ~、たくましいことで」
不動のメタボ。その名をボブドラゴン。決してデブではない。
「呑気に眠ってやがるぜ。こっちの気も知らないでさ」
「「知るわけないだろ」」
その見た目通り、随分と平和ボケしているようで静かに眠っている。
何が面白いかというと体系故に横になれないという不便な見た目。座ったまま眠るという可愛らしい光景だ。大きな鼻提灯が見えてしまいそう。
「随分と良いねぐらを見つけたもんだ……さてと」
眠っているボブドラゴンを前にカルラは準備運動を始めた。
「どうやって、仕留めましょうかね」
何故、助っ人として彼らが呼ばれたのか。
あれほどの戦闘能力と魔力を持ったハーピー達。それだけの用意が出来ているにもかかわらず人手を必要とした。
「まあいいか! まずは様子見と言ったところだ! ヨカゼ、出力上げろ!」
理由はこれから分かる事である。
『いいのかぁ~? 話通りだったら、そう簡単には』
「いいから早くしろって!」
『はいはい、了解ですとも。っと……』
開口一番、村正展開。
エネルギーが刀身にまとわりついて来る。最初は様子見と言っておきながら出力はフェーズ1の一歩手前と早速の全開である。人間相手ならあっという間に蒸発するレベルのエネルギーを放つ出力だ。
「そんじゃ、お邪魔します……っとォ!!」
そして渾身のフルスイング。メジャーリーガーも目ん玉開いてアンビリバボーと叫ぶの待ったなしのホームラン。
そのふっくらとしたお腹に早速一発入魂してやった。
「……ぐっほぉああああ!?」
腹に触れる。途端、やってくるのは反動。
それがカルラの体全体に酷い激痛を与えていく。
「固ぇえええええッ!?」
「だから言ったでしょうに。あと騒がないでください。もしかしたら起きちゃうかもしれないので」
……そう、人手を借りたい理由はこれだ。
このドラゴン、討滅しようにも皮膚が固すぎるのである。
このふっくらとしたお腹も風船のような柔らかさを持っているのかなと思いきやそんなことはない。そのお腹、なんとロケットランチャー一発通さない防弾ガラスばりの固さを誇っている。
「ウチの馬鹿力とトンデモ兵器のパワーはお墨付きではあったんだが……なるほど。確かにコイツは面倒だ」
お腹以外の皮膚はそれ以上の頑丈さ。徹甲弾をゼロ距離で撃ってもおそらく貫通しない。重い固い鈍いの三拍子揃った不動のドラゴン。
デブドラゴンという悪名をつけられてもおかしくはない。
「確かに。あの馬鹿の一撃を食らってまだグッスリだ。コイツは相当だ」
「あのさ。褒めるか貶すかどっちかにしない?」
何よりその固い皮膚を持っているおかげで痛みも全く感じないのか、ボブドラゴンは一向に目を覚ます気配がない。
一番皮膚が柔らかいというお腹をカルラの馬鹿力でコレなのでハーピーなんかでどうにかなる問題じゃない。
『どうするご主人。無理なら無理だと早めに言った方が傷は浅く済むぞ』
「いーや。ヒーローに不可能はない。ちょっと助走をつけちまえば……」
諦めが悪いのが彼の悪い癖。その呑気な表情をやつれ顔に変えてやると距離を離したかと思いきや……ものの数秒で距離を詰めていく。
「チェストォ!」
再度、リベンジの一発。
「ぐへっ……!」
残念無念また来年。カルラは力なく押し返されてしまった。
「さてと。どうしたもんかな」
痛みに関しても鈍感なドラゴン。ここまでドラゴンのイメージをぶち壊すトカゲもそうそういない。
向こうは動かずして勝利してみせている。これには普段からパワー勝負には自信のあるカルラのプライドもバッキバキだ。ご愁傷様である。
「炙ってみてもいいか?」
「たぶん意味はないと思われます」
「だろうな。熱を纏ったあのブレードで焦げカス一つついてないんだ。火のついたマッチ棒をちょいと押し付けるだけと全く変わらないだろうよ」
アキュラの炎も通ることはないだろう。
あの皮膚には勿論魔法に対しての耐性もある。この地点で自身は役に立たないだろうなとアキュラは呆れて物も言えなかった。
「こいつ! こいつ! こんニャロォオオ!!」
ヤケになってカルラは攻撃を続けているがボブドラゴンは苦しむどころか眠りから覚める気配もない。これはお手上げかと思い始めていた。
ここのドラゴンを諦めて、他所で薬を買いに行くという手もある。だが、この状況でハーピー達が逃がしてくれるかどうかも分からないし、何せボブドラゴンの唾液の秘薬は一級の薬品ということもあって高級。数も少なく貴重のため探し出す事だけでも手一杯となりそうだ。
ここで解決する手段はどうにかないものかとアキュラは頭を掻き毟る。
「……」
レイブラントは立ったまま眠っているドラゴンを静かに眺めている。
「一つお尋ねしたい」
「何でしょう」
レイブラントからの問いにロィースカが返事をする。
「このドラゴンの皮膚が最も脆い場所。それはお腹と眉間。でよろしいか」
「ええ、むしろお腹よりは眉間の方が」
眉間。ここが弱点じゃない生き物なんてまずいないだろう。
目と脳の両方の側近だ。ここを刺激されるだけで大半の生物は失禁する。
「……どうか、頼みたい事がある」
美しきハーピーへとレイブラントは片足をつける。
「人間の身を嫌っている事は伺っている。だが、それを知ったうえで問うことを許していただきたい……どうか私の身を、貴方に委ねさせてほしい」
「はぁ!?」
レイブラントからの突然のカミングアウト。これにはロィースカも声を上げる。
「私の身を、どうか空へと上げてもらいたい」
……要約するならば、これは愛の告白でも何でもない。
空へ。あのドラゴンの突破口を開く手段の一つとして、眉間への奇襲を仕掛けるために空へと連れて行ってもらいたい。
ハーピーは華奢な一族ではあるが人間一人持ち運べる怪力は兼ね揃えている。不可能などではない。
「人間に触れろ、というのですか」
ハーピーとしてもやはり嫌悪感があるのだろう。
「私を信じてほしい。もしうまくいかなければ……この身を裂いても構わない」
「……分かりました」
方法が一つあるというのなら、それを試させてもらう。
ハーピーのリーダーとしても、毒に苦しむ仲間たちを救うために一秒でも早く解決策を講じたい。だとすれば、ここで変にプライドを張っても仕方がない。
頼れる手は使う。ロィースカはただ一人、人間に手を触れようと……仲間を助けられるのならそれでよいと、一人の人間を持ち上げたのだ。
「行きますよ----」
レイブラントの両手を握り空へ上がる。雲を越え、更に空へ。
「人間、この後はどうすればいい?」
「私を落としてくれ」
「はぁ!?」
ハーピー。二回目の驚愕であった。
「馬鹿なのか貴様は!? ここから落ちれば、いくら貴様のように鍛えた人間でもすべての骨が粉砕するぞ!?」
「そちらの心配は必要ない……君がちゃんとドラゴンの眉間の真上へと落してくれたのならば、の話だが」
着地の方法は考えている。
今はただ、言われた通りドラゴンの眉間へと落とすように仕向けたのだ。
「……本当によろしいのですね。恨みは受けませんよ」
「意外だな。人間を嫌う割には人間からの恨みを気にするとは」
その言葉の先、ロィースカの耳に届かなかった。
それはほんの一瞬でも残っていたプライドが原因だったのだろう。ロィースカは彼が指定した通り、ボブドラゴンの眉間の真上へと落ちていくように手放したのだ。
レイブラントは雲海を破り、眠っているボブドラゴンへと落ちていく。
「……俺の結界魔法にはこういう使い方もある」
盾を右手に構え、防御の結界を添付する。
「ただ頑丈になるだけではない。この盾はあらゆる力を……受けた衝撃を相手へと押し返す。受け流すだけではないのだ。故にこの盾は」
守るために構えるのではない。
「あらゆる敵を粉砕する槌ともなる」
振り下ろす。
「潰せ、<
防具としてではなく、攻撃の一手として盾を振り下ろしたのだ。
眉間。その真上へ到着。
叩きつける。あらゆる攻撃を防いで見せた盾の一撃がドラゴンの眉間へ。
『-----!?!?』
開いた。痛みに鈍感なボブドラゴンの目が見開いた。
声を上げる。大声をあげたボブドラゴンは一撃の衝撃で一瞬のうちに意識を刈り取られていく。そして、倒れる。
「「……え?」」
寝てる間、口の中で大量にため込んでいた唾液を。
「「ぶふっ!」」
シャワーのように撒き散らしながら。
「……これが、私の盾だ」
任務完了。攻撃をした後にそのまま空中で姿勢を整え着地。
ある程度の高台からなら飛び降りても平気だ。自警団にてエースを務めていたからこそ成せるフットワークであった。
「……ナイスワーク」
「アンド、バッド気遣い」
華麗に仕事を成したレイブラントに対し、唾液塗れの二人はそれぞれ親指を上と真下に向けていた。
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