タイトル.31「空の旅族、ハーピー(後編)」


 ハーピーの群れが洞窟の奥で転がっていた。

 その大半が顔色も酷く、目も焦点を向いていない。水を求めて苦しむ砂漠の遭難者にも見える無惨な姿だった。

「これは一体……!」

 シルフィは一人のハーピーへと近づこうとする。

「近づいては行けません! がうつる危険があります!」

 一定の距離には近づかないようロィースカが警告する。

「毒、だと?」

 アキュラはロィースカが放った、毒という単語に首を傾げた。

「……数週間前の事です。我々は住処をここに変え、何事もなく暮らしていました」

 移動の時期、嵐や冬の到来など、移動が困難になる前に早々とこの山奥へと移動したというわけである。

「次の移動先も考えて、我々一部のメンツはその候補を探しに、ここを離れていた間の事だったのです……」

 念のため、次の候補を探すために住処を空けていたその間。

 数日という長い時間をかけている合間の事だったという。

「人間が……人間共が、この山に毒を放っていたのです! あの鉄塊から次々と毒を落とし、我々の仲間を……!」

 飛空艇より散布されたという害のある毒。それは現場に残っていたハーピー達の証言により明らかとなっている。

 毒を浴びたハーピー達は瞬く間に衰弱、即死とまではいかなかったが徐々に蝕まれていく肉体に今もこうして苦しんでいる。

「アキュラ、これは……」

「おい、その飛空艇の色はどうだった? 白だったか?」

 人間に対し、憎悪の念を送るハーピーではある。だがアキュラはそれを物怖じすることなく聞き出そうとした。

「いえ、白ではない、と。青というものもいましたが」

「……んー、密猟艇の可能性が高いな。たまにいるんだよ。条約を無視して、生き物を大量抹殺したのちに資材を回収する怖いもの知らずの業者とかがさ」

 川などの水面に電流を放っての大漁、飛空艇の兵器を使っての空の制圧。

 それと同様に山岳にて大量の毒を放ち生き物を衰弱させたのちに回収する等の乱獲。このような行為は条約にて禁止されている。

 そこに毒が絡んだともなれば禁固刑クラスの大罪だ。

「白の飛空艇は中央の政治組織関係者か、それと提携している企業の場合が多い。ルールとして一般が白い飛空艇を持つことは禁止されてんだ。一瞬で見分けをつけられるようにな……中には、お構いなしに白く塗ってカモフラージュする馬鹿もいるが」

 金に目が眩んだ亡者共はそんなのお構いなしにルール違反を平気で行う輩もいるのだという。金のためなら手段は選ばない連中など腐るほどいる。

「それを政府の団体様がやむを得ずやるとなれば事前に報告があるはずだし、全世界でニュースにもなるはずだから便利屋の耳にも通るはずだ。それがないってことは、おそらく密猟者だろうな……お前達を狙っていたのか、たまたま巻き込まれたのかは知らない、がな」

 一切、それといった情報がない。となれば政府のルールに逸脱して、資材の回収を行った輩の仕業ということだ。

 便利屋に長い事所属し、外の事情に詳しい彼女が言うのなら間違いない。


「青、か……本当に青だったか、或いは」

 もう一つ、何か思い当たる節があるような顔をしたが----

 アキュラは何も言わずに、話をややこしくしないよう口を閉じた。

「私たちは……理不尽に人間の手に犯されたというのですか……!」

 ただの欲望で仲間が巻き込まれたことにロィースカは慟哭を隠せない。人間への憎悪はより一層深まるばかりである。

「ここから動けないのは仲間が動けないから、だったんですね」

「左様でございます」

 衰弱し切った仲間たち。それを放っておくわけにはいかない。

 仲間達は刻一刻を争う状況だ。出来るなら何とかしたい。

「私は、この者達を放ってはおけない」

「だとしても、どうするんです?」

 仲間たちは『自身を見捨てろ』と口にするものもいるという。だが仲間意識の強いロィースカはそれを強く許さなかったのだ。

 彼女がそう主張する中、口を開いたのはカルラ。

「この人たちを治せる方法は? ここにこれ以上残って人間を追い払い続けて……その後、本格的に政府とやらの手が回って包囲される方がマズいと思いますけど?」

 口にしたのは酷な現実だった。しかし真実である。

 ただでさえ結構な数の企業が動いている状況だ。便利屋でも手が負えないとなれば、政府による大義名分の大量抹殺が本格的に行われる可能性も高い。

 条約として動いて来るとなればそこらの企業や組織のバックアップも含めると、逃れる方法は一切なくなる危険性がある。

 そちらの方がまずい。カルラの言う通りだ。

「……方法は、ある」

 ロィースカは口を開く。

「それ、強がりではないんですね?」

「ああ、一つだけだ」

 カルラの言葉に対し、声を震えさせる様子はない。どうやら彼女たちを助ける方法は実際にあるのだろう。

 この現場に残り続けているのも、その方法にかけているからかもしれない。

「だが……、我々だけではどうしようもない」

 しかし、その方法に手を伸ばそうにもうまくいけない現状である模様。

 あと一歩、手が届きそうで届かない。

 いつか見たシルフィと同じような有様である。救いの手を伸ばそうにも外の世界には仲間はいない。故に助けを求める事も出来ないその現状に。

「シルフィ様! あのような無礼を果たしてしまった後で図々しいお願いだとは思います。ですが、どうか……」

 ロィースカは片足を地につけ、頭を深く下げる。

「どうか……我々に、救いの手を差し伸べてください……!!」

 助けてほしい。

 懇願、仲間を救いたいという気持ちの一心で、ロィースカは告げた。

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