タイトル.27「太陽みてーに眩しいヤツ(その2)」


 医者の指示通り、今日一日はベッドでくつろぐ事となったシルフィ。

 折角のリゾート地だというのにそれを眺めるだけ。退院が終われば、依頼終了の報告と共にこの地を去らなくてはいけないのだ。

「うん、やっぱリゾート地のフルーツは格別だな! 沖縄で食べたジューシィなパイナップルを思い出すよ!」

 シルフィに渡された見舞いの品だというのにカルラはそんなのお構いなしにしゃぶりつくしている。

「皆だけで楽しんで……」

「悪かったって。帰る前にちょっとだけ遊ぼうな? な?

 当のシルフィはまだ不貞腐れていた。

 やはり彼女も海で泳いだり、バーベキューを楽しみたかったりしたのだろう。水着姿でフォローするアキュラの姿が非常に痛々しい。

「盾のお兄さん! 次!」

「俺はシルフィにカットしてやってるんだが?」

 レイブラントはフルーツをカットしていた。

 折角の貰いものだ。新鮮なうちにといただいているわけだが……何故か患者でもないカルラがそれを食っている。レイブラントはキレていい。


「……カルラ」

「ん、どうかしました?」

 オレンジにしゃぶりつくカルラ。不意に呼ばれたことに首をかしげている。

「真っ先に気づいて、その後介抱してくれただけじゃなくも看護もして、ここまで運んできてくれて……私の面倒を一番見てくれたってアキュラさんが」

「ああ、そのことですね。お気になさらず」

 当然のことをしたまでよ。キメセリフを吐こうか迷ったところだが、フルーツがうますぎてそれどころじゃない。

「……また助けられちゃいましたね。二回目でしょうか。この分の恩はいつか」

「恩だとか義理だとか、そう重苦しくとらえなくても大丈夫ですよ」

 オレンジ一個しゃぶりつくしたところで今度はパイナップルに似た何かへとカルラは手を伸ばした。

「今はこうして旅を共にするお仲間なのです。体を労わるのは当然ですし、そういう余所余所しいのは無しですよ無し。ボチボチお返しをいただけるくらいでそれでいいのです」

 今は同じ旅をする仲間。

 助けた恩だとか、それを返す義理だとかそんな他人行儀な事は考えるのは辞めにしてほしいとの彼の一言だった。

「ダチ、なのですからね」

「ダチ、ですか?」

 シルフィは首をかしげる。

「あれ!? もしかして、俺の事ダチって思われてなかった!? 俺の一方的な考えだった!? ショックぅ……」

 オレンジ片手、もう片手にはハンカチを持って涙を拭きとるカルラ。

「いや、違います! 貴方と友達になりたくないとかそういうわけじゃなくて、ただその、実感がなくて……私の事、友達って口にしてくれた初めての人間でしたから」

 異種族。普通の人間と違うだけで化け物扱い。

 故にアルケフの一族は人間とのかかわりを真っ向から避けてきた。

 人間相手に友達と言われた。それが物珍しいという表情だったのだ。

「自分はシルフィさんみたいな行儀の良いお友達は大歓迎ですけどね。ただ、お仕事の同僚や先輩には欲しくないタイプですけど」

「今は私も貴方も便利屋なのですから、同僚になってしまうのでは?」

「入った時期は一緒でしょう? 自分が年上なので先輩という事で」

 随分と無理やりな理屈をつけた男。中々出世できないタイプだ。

 自己紹介の際、カルラが口にしたのは随分と大層な階級だった気がするが。

「ああ、友達で思い出しましたが……ス・ノーさんとはどういう関係?」

「小さい頃からの付き合いです。面倒見がよくて、お兄ちゃんみたいな人でした」

「獣の耳とか尻尾が生えてましたが……アルケフって奴?」

 シルフィたちと同じ、風を司る一族なのかを聞き出してみる。

「いえ、彼はアルケフではありません。私達とは違う神霊を末裔に持つ一族……の一人です」

 風を司るアルケフ。

 それとは別に水の神霊の力を司る一族がいるようだ。その名は

「あれ? 水の力という割には氷の力を使っていたような」

「中には水を固めたり霧にしたりして、氷みたいな力として扱う者もいるんです。ス・ノー君もその中の一人。私と同じ一族の誇りともいえる人物でした」

「……過去形ですね?」

 人物でした。まるで過去の栄光のような言い方だ。

「はい」

「あまりしゃべらない方がよろしいですか?」

「いえ、本人は喋ってもいいとは言ってるのですが……」

 解説をしておかないと多少面倒な事でもあるようで。

「ルーの一族は、人間の手によって壊滅寸前にまで追いやられたんです。それから私たちのように組織で動くのは不可能になって……それぞれ末裔を残すべく、個人で活動するようになったのです。彼等は一族同士で連絡は取りあっているようですが、古来より付き合いのあった私達でさえもその足取りは掴めずにいます」

 異種族には厳しい人間。その魔の手はついに一つの一族を壊滅に追い込んだ。

「だから驚きました。まさか私達と同じ便利屋になって、しかもヒミズでは結構名前の響いた大物になってるなんて……でもよかったです。元気そうで」

 ス・ノーの事についてはアキュラから聞いた。

 驚きを隠せないでいる中、彼の無事を心から喜んでいるようだった。どうやら長い間会えていなかったようである。

 依然と変わらないのだという面倒見の良い一面を見れて安心したとシルフィは微笑んでいる。

「ほうほう……」

 ス・ノーの事を楽しく語るシルフィにカルラはニヤつき始めた。


「な、なんですか」

「恋愛とか気にしてる場合じゃないって口にしてた割には結構お盛んだなと」

「なっ! そういうのじゃありませんよっ!」

 飛んでくる枕。カルラはカッカと笑いながらそれを回避した。

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