タイトル.27「太陽みてーに眩しいヤツ(その3)」


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 クルーラアイランドのリゾートホテル。ここで寝泊まりをする。

 朝起きれば待っているのは高級ビュッフェ。高級料理を思わせる品々がバイキングで食べられるという贅沢。そして夜は豪華ディナーが待つ。


「いやぁ、いいもんですねぇ。大浴場とは」

 そして更に待っているのは大浴場である。

 カルラは地球にいたころ、健康ランドと言える温泉施設に顔を出したことがある。一種のアミューズメントパークともいえるこの島のホテルの浴場は、その辺の下手なプール施設もビックリな広さ。

「走って転ぶような真似はするなよ」

「しませんよ。子供じゃあるまいし」

 とは言いつつもはしゃぎっぷりはまさに子供のそれ。

 タオル片手にまだかまだかと急かす彼を見ては、レイブラントは思わずため息を漏らしてしまう。

 お互い衣服を脱ぎ捨て、タオル一枚股間は遮らず。大浴場へと足を踏み入れる。

「ふぅ……」

「極楽だねぇ~……」

 お湯が体に噛みついて来る。だなんて表現を聞いたことがあるかまさにその通り。

 昼間はリゾート地ではしゃぎまくったのだ。丁度いい具合にくたびれ切った体をもみほぐす様に丁度いい湯加減のお湯が体を締め付けてくる。

 男二人、若いというのに中間管理職のサラリーマンの如く声を上げてしまう。

「いい湯ですねぇ~」

「そうだな」

「そうだねぇ~」

 極楽、ただその一言。

 三人は揃ってその感想だ。


「「……ん??」」

 “三人”?

 いつの間にか会話に交じっている何者か。二人は視線を傾ける。

「やぁ」

 そこにいたのは、ロゴスのメンバーの一人。

 “レイア”であった。

「「なななななっ!?」」

 二人は思わず声を上げて立ち上がった。おかげで男の勲章が丸見えである。

「おおっ、立派立派」

 大人な一面を見たことにレイアは思わず笑みを零す。

「なんで、君がここに!?」

 焦るレイブラント。その後ろで携帯電話のバイブみたいに頭を何度も下げまくるカルラ。ある程度のハプニングには困った様子を見せない彼らがここまで焦ってしまうのも無理はない。

 何故彼女がここにいるのか。あの中で唯一の男性であるス・ノーがそこにいるのなら別に大したリアクションこそとらなかったが、そこにいるのは女性であるはずのレイアだったのだ。

「なんで? ボクがここにいるのがそんなに変な事?」

 二人に合わせ、レイアも立ち上がる。

「「……ん?」」

 露わになったレイアの体。それを見た男二人は思わず固まる。




「ボクも、君達と同じなのに」

 満面の笑みで答えるレイア。

 男にしては華奢な体、肌は毎日手入れされているのか真っ白で、グラビアアイドルやモデルも顔負けのもち肌を披露しているが……そこには男の胸板は勿論の事、カルラやレイブラントと同じ男の勲章がしっかりと顔を出している。

「「ええーーーーぇ!?」」

 すっかり騙された。

 カルラとレイブラントは思わず声を上げてしまった。

「いやいやいや男なのにどうしてあんな格好を!? まさかそういう趣味!?」

「僕のこの可憐で綺麗で完璧な美貌に適した姿をしているだけの事さ。それが女性の格好であろうと大した問題ではないよ。似合いもしない格好をして、折角の美貌を台無しにするのは、僕のポリシーが許さないのさ」

 なんというナルシスト。度が過ぎれば、ここまで歪むものなのか。

 彼女……基い彼は、男性であることを隠してはいないし、むしろ女性であることを名乗った覚えはない。

 嘘をついたのではない。だが幾ら何でも紛らわしすぎるのだ。悔しいことに自称通りの美貌と女の子らしい声を持つレイアの姿は。

「んで俺達を見かけたから声をかけたわけ?」

「うん、二つほど話したいことがあってね」

 立ったまま、互いに裸の付き合いで会話を続ける。


「……リーダーの事、理解してくれた?」

 まずはス・ノーへ対する認識の確認であった。

「悪い人ではない、でしょ? ただ強引なところが強いから、人によって大悪党かもしれないけど」

 強引。それは過剰なほどに肯定できる。

 彼は目的遂行のためには脅迫だろうと戦闘だろうと避けはしなかった。

「……まぁ、強引なのはともかく」

 カルラはそっと感想を漏らす。

「ダチを助けるのに一手間かけてくれたのは感謝していますとも」

「ああ、そうだな」

 善人か悪党かどうか。それは一旦置いておくとして。

 仲間を助けるためにあそこまで手を回してくれたことには深い感謝を述べた。今改めて、ここに礼を告げておく。

「それを聞けば、リーダーはどういうリアクションを取るかな?」

「んで、もう一つの要件は?」

 要件は二つあると口にした。もう一つは何だと聞き出してみる。

「……僕は自分の美貌をより最高の境地へと至らせるため。その武者修行のために彼のもとで世界を回っている。そして美の追求以外にももう一つ、探しているものがあるのさ」

 これでもかと自分の肉体を見せつけるレイア。

 湯船の水面に映る自分を見るたびに悶えているようにも見える。ここまでくれば、最早変態の域だとカルラが思ったのは言うまでもない。

「それは……僕の美貌に釣り合う

「……ッ!?」

 一瞬、レイブラントの背筋が深く震えたような気がして。

「あ、あぁあ……なるほどね。理解したわ」

 その嫌な予感、微かだがカルラも感じ取った。

 もしかしなくても、この会話の終着点が何処に至るかなんて容易い予想だった。

 まるでお姫様。そんな扱いでレイアと関わっていたレイブラントの結末を。


「ついに見つけたよ! 僕の運命の人!」

 しのごの言わずにレイアは彼に抱き着いてきた。

 男性にしては女性のように柔らかい肌身をレイブラントに押し付けてきたのだ。

「僕の王子様……ようやく会えたっ!!」

 男女が裸で抱き合っているように見える。やんちゃな女の子を支えるように抱き寄せる大人な男子。

 芸術的な絵になるといえば、百点満点にも思える紳士的な絵面であろう。


 だが“両方男だ”。

 それを知ってしまえば、その映像は少しばかり意味合いが変わってきてしまう。


「レイブラント様……どうか、僕を。貴方の妃にしてください」

 ----お前は男だろうが。妃になれるものか。

 カルラはそうツッコンでやりたいと思った。男同士の花園に巻き込まれたくはないと距離をとって逃げることに集中していたからソレは叶わない。


 だけど、同時にこう思う。


(やっべぇえええーー! 滅茶苦茶面白ェエ! ぷぎゃあーーーーッ!!)

 女性に対して紳士的に振舞ってきた騎士レイブラント。

 あまり女性にもてないカルラからすれば、今のこの光景を笑わずにはいられない。

 言い方をもっと悪くすれば……『いい気味だ』と下衆な笑いまで受けている。最早ヒーローというよりは、悪の秘密結社の参謀よりも悪い顔をしている。

(どうすんのよ? 紳士のお兄さん?)

 さぁ、どう反応するものか。

 カルラは笑いを堪えながら、レイブラントの反応を待った。


「その気持ちはありがたい」

 抱き着いてきたレイアの体をほぐし、優しく突き放す。

「だが君はまだ若い。このような辛気臭い男よりももっと相応しい相手はいるはずだ。考えるのはそれからでも遅くはないのでは?」

 なんという紳士!

 『男性同士だから付き合えない』だなんて現実は突きつけない!

 むしろその愛をしっかりと受け入れながらも、彼の未来を思っての言葉を口にして突き放そうとしている。

(うっひょお、やるねぇ。俺もときめきかけたわ)

 紳士だ。本物の紳士だ。これにはカルラも拍手の一つ交わしてやりたくなるほどだった。彼は本物の紳士であると評価したのだ。

「そんなことはないよ!」

 だが、レイアは諦めなかった。

「僕の愛は本物だ! 君以上がこの先現れるなんて思えない! レイブラント様! お願いだから、僕の愛を受け取って……僕達ならきっと、法も世界も関係なく一緒に謳歌できるはずだから……だからっ!」

 泣きながら胸板に擦り寄ってくる。

 向こうも向こうで大した根性だ。その言葉が本当かどうかは分からないが、愛に生きる彼の姿にも拍手を添えてしまいたくなる。

 終わらないプロポーズ。地獄なのか楽園なのか分からぬこの光景。


「!!」

 その夜の出来事。レイブラントの顔をきっと、カルラは忘れない事だろう。



『“助けてください……!!”』

 珍しくも守る側の騎士であるはずの彼が、

 守ってくれと懇願するあの表情。必死に助けを乞うあの表情は-----



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 後日、シルフィは無事退院した。

 フリーランスとロゴスの小型飛空艇は発射準備を終えている。一度に二機同時の離陸は危険なため、まずはロゴスが出発することとなった。


「では、先に失礼する」

「機会があれば、またお会いしましょう」

 ス・ノーとキサラは二人、お別れの挨拶を。

「次会うときは敵同士ではないことを祈ろうや。お互い生きてたらの話だがな」

「アキュラ! あまり物騒な事言わないでください!」

 便利屋の関係上、この先何が起こるか分からない。そうならないことを祈るばかりである。

「……元気でね、ス・ノー君」

「お前もせいぜい、うまく凌いで生き残るんだな」

 ス・ノーとキサラの二人は艇の中へと消えていく。

「レイブラント様~! 次に会うときは、またあの時のようにエスコートしてくださいね~!!」

「……ああ」

 やはり男性に好意を持たれることには戸惑いを覚えているようで対応に困っているレイブラント。これには合掌をすると同時、心の中で爆笑する事しか出来ないカルラである。


「かるらーーーっ!」

 最後、挨拶を交わしに来たのはアイザ・クロックォル。

「また一緒に遊ぼうねーッ!」

 満面の笑みで大きく腕を振り、そのまま艇へと飛び乗った。

 ロゴスの艇が空へと飛びあがっていく。


「ったく、面倒なこった」

 最後の最後、アイザは返事を受け取るよりも先に行ってしまった。

「……遊んでやるよ。また会えたらな」

 手を振ることもしない。

 ただ再会を信じて言葉を空に放ち、カルラは自身の艇へと戻っていく。


「よっしゃ! ヒミズへと帰還しますか!」

「と、その前に」

 艇にのる手前の事。

「これ、飲んどけ」

 手渡されたのは紙コップに入った謎の飲料水。ミントのような匂いがする。

「「……これってまさか」」

 カルラにレイブラントは嫌な予感がする。

「げっ……!!」

 それを“一度経験した”シルフィはその味を思い出したのか口を塞ぎ始める。


「ヒヤリ草のドリンクだ。空禍病の予防としての効果もあるからな……今後の事を考えて、全員飲んどくぞ」

 アキュラも嫌々ながら紙コップを手にしている。

 ……確かに今後似たようなハプニングが起きたら溜まったものじゃない。

「わかった」

「はい……」

 レイブラントとシルフィは観念したようにうなずく。

「俺も?」

「飲めよ?」

「あ、はい」

 逃げようとしたカルラであったが、全員が飲むとなれば逃げられるはずもない。

「いくぞ……せーーーのっ!!」

 覚悟は決まった。全員一斉にそのドリンクを飲み干した。






“クソ不味い……っ!!”

 四人の悲鳴がこだました。




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