タイトル.27「太陽みてーに眩しいヤツ(その1)」


 ----後日。


「まぁ、一時はどうなるかと思ったが丸く収まったか」

 眩しい日差し、星空のように輝くビーチと水平線。

 クルーラーアイランドは聖界アウロラではトップクラスで有名なリゾート地。見た目からして例えるならば地球でいうハワイやオアフ島と言ったところだ。

「いいねぇ。最高の気分だ」

 ビーチベッド。日焼けはあまりしたくないがためにパラソルの下。

 仄かに香る潮風を感じながら横たわっているのは水着姿のアキュラ。サングラスまでつけたりと完全装備である。

「やれやれ、自分も水着を持っていれば……というか、大将。いつの間に水着を?」

「便利屋だぜ? いつどこででも仕事が出来るようにロッククライムや洞窟探検様々なアイテムは用意している。海での仕事にも備えて水着も常に用意してんだよ」

 サングラスの視界。薄暗くなりながらも眩しい太陽。

 水着を持っていればビーチにかけつけナンパの一つでもしてやろうかと無念がっているカルラにアキュラは答える。

「しっかし、嬉しい誤算だったぜ」

 ヒヤリ草はオークとの契約により人数分を回収することが出来た。

 早速ビーチの病棟に持ち帰り医者に渡し、特製ドリンクを寝たっきりのシルフィに飲ませたのである。

「ジュースを飲んでたシルフィのあの顔……思い出すだけでもご愁傷さまと言いたくなりますなぁ」

 あの時の表情。異常なまでに不味いとは聞いていたが、現にシルフィのリアクションは凄いモノだった。

 女の子がそんな表情を浮かべていいのかと言いたいくらいに顔は歪んでいた。化粧に失敗したどころか、カミソリで顔を切り刻んだレベルの歪みっぷりだった。

「明日には回復するようでなによりだ

 とはいえドリンクの効果は絶大のようで少しずつだが回復の兆しを見せてきた。

 あとは一日一回ヒヤリ草ドリンクを飲み、そのまま休めば三日も経たずに回復するという。


 とまあ、そういうわけでシルフィが完治して退院するまでの間、暇になった。

 せっかくなのでビーチで遊んで過ごすことにしたのである。ヒミズ本拠地へはすでに連絡を取っている。思いがけない休暇にアキュラはニヤリと笑みを浮かべていた。

「……シルフィの事を忘れて、リゾート地で浮かれすぎるなよ?」

「まったくですなぁ~」

 カルラとレイブラント。滅多に来れないリゾート地だからと言って彼女をほったらかしにしないようにと釘を刺すような発言をする。


「……」

 サングラスを外し、ベッドから起き上がったアキュラは彼等の方を見る。

「テメェらも大概だろうがよ」

 いつもの格好。ファッキンホットなこの環境に耐え切れずジャケットを脱いでYシャツ姿のカルラに、必要最低限の甲冑を外してラフな格好となったレイブラント。

 アキュラと同じくサングラスをつけた二人。そして両手には剣や盾ではなく、肉や野菜の突き刺さったバーベキュー。

「いや、違う。これは彼に渡されて」

 レイブラントだけはサングラスとBBQの事を否定していた。

 これは『気分だけでも』という理由でカルラに渡されたものだと否定する。

「そんなこと言いつつ、滅多に来れない海だからとウカれてたくせに」

 カルラはやれやれと首を横に振りながらバーベキューを頬張る。

「まぁ、いいんだけどさ」

 医者の発言ではもう大事には至らないという事。既に島へやってきてから二日近く経過したが、あと一日眠ってさえいればいつも通りの体調に戻る。

 それを聞いて安心したからこそ、こうして遊んでいられるのだ。

「……オレたちはアイツが退院するまでの間、ここにいるわけだが」

 カルラとレイブラントの手にあるBBQ。

 それを作っている本人がすぐ近くにいる。


「お前はどうして残ってるんだ? 仕事はいいのかよ」 

 バーベキューコンロ。

 その周りにいるのは……肉を焼いているス・ノーの姿に、焼かれた肉を受け取って食しているロゴスのメンバー達。

「刻一刻を争うんじゃなかったのか?」

「ああ、アレか。嘘だ」

 トングを片手、サングラスをどかしてス・ノーは堂々と告げる。。

「ヒヤリ草が必要なのは本当だが、依頼人が病気で苦しんでるというのはデタラメだよ。最初に言ったはずだ、高値で取引されてるとな……手ぶらで帰るわけにもいかんのでな。必要な分は回収しておいた」

「しっかりしてるぜ」

 ヒヤリ草は活動資金を稼ぐための商売として回収していた。

 真っ赤な嘘をついて、同情まで誘って品物を回収。姑息というかなんというか、アキュラは釣られて笑いそうになる。

「……約束は破るつもりはない。そう言っておく」

「どうだかな。お前もオレと一緒で薄汚いモグラだかな」

「ふん」

 この後も特にスケジュールがあるわけじゃない。彼らもまた、束の間のリゾートを楽しつもり満々のようだった。


「カルラ~、口に何かついてるよ~」

 カルラの唇についている焦げ目の油。

「ぺろっ」

 それを舐めとるアイザ。気が付けば彼女も水着姿だ。

「コラっ! 余計なお世話だっつの! つか、それくらいハンカチか指でやれ!」

「好きな男の人には、こうやってした方がいいって本に書いてあったよ?」

「お前が読んでるその攻略本とやらを俺に一回渡してもらおうか!?」

 BBQ片手に唸るカルラの姿は実にいつもと違って滑稽である。

 水着姿の彼女にちょっとたじろいでいるというか。いつも通りその無邪気ぶりに振り回されているというか……アイザと一緒にいる彼は何処か面白いから見ていて飽きない。アキュラはそう思っている。


「……サイボーグでも肉は食べれるのですか?」

「外部装甲は機械ですが、内部は普通の人間と変わりません。腸や器官は問題なく作動していますので」

 肉を何事もなく食べるキサラの姿に何処か困惑を覚えていたレイブラント。

「肉ばっかり焼いてないで野菜も頼むよ~。油ばかりだと体に肉がついちゃうよ」

 一人クレームを出しているレイアだが、それをガン無視するス・ノー。こう見えてス・ノーはバリッバリの肉食のようだ。さっきからリゾートの高級肉ばかりしか焼いていない。というかそれ以外焼こうとしない。


 面々はすっかりリゾートを楽しんでいるようだった。


「……ん?」

 プライベートの携帯電話が鳴る。

「もしもし……おお、はい、了解っと」

 アキュラはサングラスを手荷物のバッグにしまい、男性陣二人のもとへ。

「病室へ向かうぞ。シルフィが起きたってさ」

「え、待って。まだ肉が」

「後にしろ」

 名残惜しいがまずはシルフィのお見舞いに行かなくては。

 アキュラとレイブラントの二人に耳を引っ張られながら、カルラはBBQ片手に病室へと連れていかれた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 数分後。病棟にて。

「ご迷惑をおかけしました……」

 申し訳なさそうにベッドにて正座で頭を下げるシルフィ。

 いつも通りの生真面目な対応。もうすっかり元気のようだ。

「空の一族ともあろうものが空の病気にかかるなんて予想外だったぜ」

「面目ない……」

 シルフィ自身もまさかその病気にかかるとは思ってもいなかったようだ。


「全くだ。スカイの肩書も返上した方がいいんじゃないのか?」

 ペコペコと頭を下げまくるシルフィのもとへ……意外な客人、

「アルケフは最も強い力を持った未来ある若者に特別な性を授けられる。その性がスカイだ。一族の誇りに泥を塗っては面目も立つまい」

 アルケフは一族としての性である。それとは別、冠ともいえる称号としてスカイの名を与えられる者が稀に現れる。シルフィもその一人であることを告げたのだ。

 ……さっきまで海岸で肉を焼いていたス・ノーが。

「えッ!? ス・ノー君ッ!?」

「久しぶりだな、シルフィ」

 この対応。やはり知り合いだったか。

 シルフィは突然の彼の状況に驚いている。ス・ノーは驚くシルフィを他所、呆れたように息を漏らしていた。

「そ、そこまで言わなくてもいいじゃん!」

 頬を膨らませながら、シルフィはス・ノーに怒る。

「事実だろう?」

「うぐぐ……」

 ぐうの音も出ない。ただ悔しく唸るのみ。

「退院は出来るようだが、今日一日はぐっすり眠っておけ」

 ス・ノーはそこらのギフト屋で購入したフルーツバスケットを病室のテーブルに置いておく。

「とっとと直せ」

 それだけ言い残し、ス・ノーは病室から出て行った。


「……色々と聞きたいことはありますが」

 一方的に言いたいことを告げて去っていた彼の事もあるが、それ以上に気になったことを問う。

「三人とも、その姿はなんですか……?」

 水着姿のアキュラ。そして病室でもサングラスをつけた男性陣。

 まさか、寝ている間に三人は遊んでいたのではあるまいか。

 ヤキモチ。嫉妬。シルフィは頬を膨らませ、三人を睨みつけていた。

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