タイトル.25「もう一人の神様一族(前編)」
突然の奇襲。大空から降ってくるのは豚の怪物だ。
片手にはハルバード。棒立ちしているス・ノーを一刀両断するつもりか。
「……仕掛けるのなら気配くらい消したらどうだ」
だが、それは奇襲というにはあまりに杜撰すぎる。
当然だ。仕掛ける前に大声で叫ぶどころか、気配すらも消そうとしない。気づいてくださいと言ってるようなものだ。
「よいしょっと!」
ス・ノーが動くよりも先に、アイザが前に出る。
大将であるス・ノーの護衛に回った。その殺気を感じ取っての行動だったのか、彼の護衛の任務を果たすための行動だったのか。
「ナンダドォ!?」
豚男は渾身の奇襲を受け止められ、驚愕しているようだ。
「ス・ノー、だいじょーぶ?」
汗一つ、そのいつも通りの無表情は余裕故のもの。攻撃を受け止めながら、振り向いたアイザが問う。
「礼は言っておく。だが守れと指示をした覚えはないぞ? これくらい問題ない」
「あー、そうだったねー。えいっ!」
「ウォオオオオッ!?」
豚男をその場からどかす。体格差だろうが全く問題なしに上空へと吹っ飛ばされていく。虫を息で吹き飛ばすかのようにあっさりと押し返してしまった。
「ごめんね?」
凄く申し訳なさそうな表情だった。
眉は低くなっているし、心なしか腰も曲げている。目元は見開いたままだが、明らかに気分が沈んでいるのは分かった。
「……良い心がけだ。仕事も出来るし、謝る事も出来る。良い子だよ、お前は」
「えへへ~、そうかな~?」
褒められると今度は子供らしく、口元が微笑み始めたじゃないか。
褒められて喜ばない子供はいないという事だ。この少女を子供とカウントしていいかどうかは若干怪しい部類ではあるが。
「オ、オノレェエ……!」
鼻息を荒くして再び近寄ってくる豚男。
改めてみても大きい。ジャングルの奥にいるゴリラなんか目でもない巨大さ。言葉は人間の真似事でもするかのようにカタコトではあるものの、しっかりと言葉が通じるように発音できている。
「立ち入り禁止区域。それは密猟の阻止が理由だが、危険生物が多い故、被害を避けさせるのが理由でもある。魔物寄りの異種族もいるからな」
アイザを褒め終えると、ス・ノーは一歩前へ出る。
「見た目からしてオークと言ったところか。この島に隠れ住んでいるとは聞いていたが本当にいたとはな」
ハンカチを片手、汗を拭う余裕すらみせる。
これはオークを前にした恐怖故の発汗ではない。ここへ来るまでの疲れと暑さによる汗だ。溜息を漏らしながらハンカチをポケットにしまう。
「オマエラ! ヒヤリグサ、トリノキタカ! アレハ、オレタチノ! ヒヤリクサ、ゼッタイニワタサナイ!」
お前達に渡すものはなにもない。立ち去ってくれと威嚇されている。
「ですってよ?」
聞き取れる限りではそう警告しているのだろうとカルラはアクビをしている。
「オークは人間には害を与えないと聞いたのだがな……本当にその気があるのか?」
「カエラナイナラ、オレタチ! オマエラタオス!」
俺達。達といった。
「おっと……他にもいたってワケですかい」
その証拠に広場へ新たに二体のオークが現れる。
二体増えただけでとんでもない大迫力。見ているだけで汗まみれになりそうな暑苦しさに見苦しさ。三体一斉に噴き出す鼻息が蒸気機関車のようだ。
「やる気、みたいですね」
『やるか?』
「当然」
ヨカゼへと合図を送る。村正は起動を開始し、カルラは戦闘態勢に入る。
「ねぇ! どっちが多く倒せるか勝負しよー!」
同じくして、アイザは二丁のガンブレードを作動させる。
「え!? おいっ! ちょっと待って! ねぇッ!? アレは絶対に使わないでね!? フリとかでも何でもないからね!? 待ってとまって! ヒヤリ草溶けちゃうぅうー!」
カルラの静止、届かぬ願い。
有無を言わさず猪突猛進。アイザは一体のオークへと突っ走ってしまう。
とりあえず警告だけしておいた。礼の武器だけは絶対に使うなと。大将であるス・ノーも釘を刺していたし、たぶん大丈夫だとは思うのだが……はたして。
「なぁ、アイツの武器なんだが……もしかして、お前と似たようなモノか?」
アキュラは走り去るアイザを見て、疑問を問う。
アイザのガンブレードはカルラの持つ村正と同じように謎のコンピューター端末に接続されている。
「似たようなパチモノですよ。こちらの国の技術を堂々とパクった武器ですから」
敵国が猿真似で作られたシステムであることを告げる。
どうやらあの少女も……カルラと同様の戦い方をするようだ。
「しかもお前のより便利そうだな」
「ああ、そうですよ! よく言われますよ!! くそったれ、
カルラの村正は刀の表面にエネルギーを添付。或いは重さや軽さの調節、攻撃の際の補助となる効果を付け足すなどを行う。
あのアイザの持つガンブレードはどうだろうか。
ブレード部分に村正と似たようなシステムは勿論の事、銃が付いているためにそこからエネルギーをビーム光線として発射することも可能。
遠距離攻撃に全く持って恵まれていないカルラが口から腕が伸びる程に欲しい機能。何より一番目立っているために悔しさがより際立つ。
「2Pカラーの癖に格好良い武器持っちゃって……ヨカゼ! 俺もなんかそれっぽい機能欲しいなぁー!? 剣からビームが出て、敵の本拠地一つ焼き払えるくらいの機能とかさぁー!」
『ご主人の体がアロマキャンドルのようにドロドロになってもいいのなら、直々に私から企業に頼み込んでやらんでもない』
「はいっ! 調子こきました! 謹んでやめときます!」
そんな桁違いのビーム光線を撃つものなら何の対策もしていないカルラの体はドロドロに溶け切ってしまう。
そんなデメリット一つ簡単に浮かばないのかと呆れたようなヨカゼの指摘であったがそのおかげでカルラも目を覚ましたようである。
「……んじゃ、自分もアッチの一体を倒していきますか!」
『了解だ。あの小娘に遅れるなよ、ご主人!』
村正、フェーズ1へ突入。
出力を上げて、アイザとは違う一体へと突っ込んでいった。
「……異界の人間は非力な奴が多かった。しかしアイツラは何だ。あんな化物相手に物怖じせずに突っ込んでいく……ただの怖いもの知らずか、ただの馬鹿か」
二人の少年少女は、異界の化け物相手に渡り合ってみせている。
オークの馬鹿力をものともせず押し返すカルラ。オークに怯むことなく肉弾戦を叩き込みまくるアイザ。二人揃って圧倒している。
そんな光景を前、ス・ノーは物珍しそうに軽く足踏みをする。
「キサラ、これを持っておけ」
スーツの上着のジャケットを脱ぎ捨て、スノーが軽く拳を鳴らし始める。
「俺が行く」
「いえ、ここは私が」
「お前はまだ再起動してから時間が経ってない。今下手に動けばオーバーヒートを起こしかねん。レイアもご覧の通り使い物にならん」
腰が抜けてからまだ回復しないレイア。それをお姫さまだっこで抱えているレイブラント。
「あ、あの、もう大丈夫ですから」
「そういうわけにもいかない。こんな危険な状況、負傷したレディ一人放っておいては騎士の恥だ」
……相変わらず、レイブラントはキザな言葉を吐く。
おかげでレイアの瞳がまた潤っている。頬も乙女のように赤くなっているがレイブラントは全く持って気づいていない。
「手伝おうか?」
見兼ねて、アキュラが声をかける。
「いや、俺一人でいい。足手まといは下がってろ」
「誰が足手まといだって?」
「……まだ、足が治ってないだろう」
アイザの奇襲を食らったアキュラ。しかもその後の落石からの脱出やら何やらで足を負傷したようだ。
平気を装って無理をして歩いていたようだが、ス・ノーは見逃さなかったようだ。
「俺だけが仕事をしてないのでな……そろそろ運動はしておきたい」
一人、ス・ノーはリーダーのオークのもとへ。
対格差はハッキリいって絶望的。そこらの成人男性よりも人一倍小柄。端から見れば無謀と見える組み合わせだ。
「ヒヤリグサ、ゼッタイニワタサナイ!」
興奮しているオークが一歩ずつ、地団駄を踏みながら接近する。
「ニンゲン、カエレ!!!」
ハルバードがス・ノーの頭に再び振り下ろされた。
「来い。駄獣が」
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