<第3部 エピローグ> ~これだからイケメンとハンサムは嫌い~
フリーランスはヒミズへと帰還していく。
終盤は死に物狂いで戦ったのだ。面々は疲れ切った表情でレクリエーションルームのテーブルでコーヒーを一服する。
「……」
ただ一人、涼しい顔をしているのは盾の騎士。
レイブラント・ハリスタン。都市メージに属する騎士であり、新たにフリーランスの一員として入団した青年だ。
トンガリ帽子を脱いだら、紫色の長髪が良く似合う美形。歳の割には渋めでハンサムなイケメン顔がお披露目されている。
「おおぉお……」
シルフィもそのイケメンぶりに思わず見惚れた。
レイブラントの目線の先は窓の外。小さくなっていく都市メージだ。
これから長旅になっていく。しばらくは帰ってこないであろう故郷を最後まで見届けているようだった。
「うーむ……」
そんな青年の姿をカルラは一人険しい表情で睨み続けている。
「どうした? アイツの顔に何かついてるのか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
その表情は何処からどう見ても不満気な一面が見えている。
「……アイツが入団したのに何か不満があるのか」
「そりゃぁ当然でしょう! なぜならば……!!」
レイブラントが気に入らない。
その理由をカルラはそっと立ち上がると、高々と雄々しく言い放つ。
「あんなハンサムが横に並んだら、俺が霞んじゃうでしょうがぁーーーッ!!」
「そういう理由かよ」
実にくだらない理由だった。
フリーランスの面々でただ一人。顔はそれほど悪くないが、性格にかなりの難があるカルラがただ一人の男性だったのだ。
多少、性格に難があろうと、このチームに華を飾る役目を担っていたと宣言するカルラ。しかしあんな好青年がメンバー入りしてしまったら、唯一の男性メンバーであったアイデンティティが消え、更には新メンバーのイケメンに人気までかっ去られて、過去の人間にされてしまう始末。
「クッソォオ……俺よりハンサムなんだもの……!! 嫉妬もしちゃうわ! くやぢぃいいいいッ……!!」
心の底からくだらない理由に、アキュラは溜息しか吐かない。
「ふっ……」
そんな叫びを聞こえたのか、レイブラントは面白げに見つめ返す。
「プライドが高く見えたが割と自信がないんだな。敗北を二度も認めるとは」
「だ~か~らぁ~! 負けてませぇ~ん!! 何度も言うけど、まだ貴方には負けてませぇ~ん~!!」
実に不愉快なのか、地団駄を踏みながらカルラは部屋を出ていく。
「あーもう! これだから、俺以外のイケメンとハンサムは嫌い!!」
唯一のとりえを奪われたことを呪う、言葉のみを置き土産にして。
完全に三流の敵キャラである。あまりに滑稽なヒーローの姿に三人は思わず苦笑いを浮かべていた。
「……もう少し性格が丸ければ、良い男だと思うんだがなぁ。それなりには」
「あっ、それ同感です。黙っていればイケメンですよね。いうてカルラも」
「同感だ」
アキュラの独り言に二人も賛同しているようだった。
カルラも別に顔が悪いわけではない。そのプラスの部分を性格がマイナスまで叩き落としているわけだが。
「アキュラ、でよろしいか」
「構わねぇよ」
別に畏まる必要はない。アキュラはそう返す。
「アキュラ、艇に乗せてもらった事、礼を言う……しかし、いいのか? 用心棒としての役割を果たすという制約だけで、俺を乗せるのは」
「ああ、大将のオレが言うんだ。言いにきまってるだろ」
テーブルを立ち上がり、レイブラントの元へと向かう。
「ただ、一つだけオレからのワガママを聞いてくれないか」
彼の耳元で一つ、何か呟いた。
「シルフィ。メシの準備をしてくれ。料理は得意なんだろ? 倉庫の冷凍庫に材料あるからとってこい」
「え? あ、はい! 了解です!」
シルフィは大将からの命を受けて、レクリエーションルームを出る。
レクリエーションルームに残されたのはアキュラとレイブラントの二人のみ。二人しかいなくなったところでアキュラは彼に問う。
「オルセル・レードナーという奴の事を知る限りで教えろ」
オルセル。それはレイブラントが追う、例の商人の名前。
「オレは……ソイツに用がある」
その名前を口にした途端。
アキュラは、殺害も厭わない復讐鬼の形相を浮かべていた。
<第三部 完>
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<キャラクター紹介②>
●レイブラント・ハリスタン
メージの自警団に属していた騎士。数日前までは王族の近衛兵も務めていた。
礼儀正しく、紳士的。その上イケメンと来たものだから女性には人気者。子供っぽい一面のあるカルラとは相性がいい。当のカルラは彼に嫉妬しているようだが。
クールな心の内側には、誰よりも故郷の事を思い、人を救おうとする正義の心がある。彼の武器である巨大な盾は、その心の表れかと思われる。
●村正制御システム・ヨカゼちゃん
殲滅兵器・村正に制御する携帯端末へインプットされているAI。
昔、地球上で流行っていたというネットアイドル的なイメージの見た目に形成されており、その喋り方、そして対応も本物の人間に近い。
主人であるカルラに従いながらも、愚痴を言ったり、小馬鹿にしたりなど反抗的。
彼女曰く、これくらいの対応がこの人にはちょうどいいらしい。
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