=EPISODE.04=『eyes of SHILVER FANG』
<第4部 プロローグ> ~フリーランスと、もう一組~
「ふっふっふ、いいですねぇ~」
フリーランスの簡易キッチンに用意されたオーブン付き電子レンジから香ばしい匂いが漂ってくる。
焦げたチーズと脂の乗ったベーコン。パリパリに焼けた生地の良い香りが食欲をより引き立てる。
「俺はねぇ。これを楽しみに来てるってもんですよぉ……深夜に食するカロリーモンスター。健康からほど遠いこの食事がTHE・最高」
ゴミ箱に放り捨てられた冷凍食品の袋。
カルラが夜食に手を出したのは冷凍ピザだった。
本家のピザと比べると安っぽさこそ感じるが……冷凍ピザは冷凍ピザで、チーズをのせたクリスプのような感じで楽しめる。
「さぁて、今から俺の胃袋にブチこんであげるからねぇ。ピザちゃぁあん」
電子レンジをオープンしピザを取り出す。皿に放り込むとカルラはウキウとスキップしながら自室へと戻っていく。
ヒミズまで時間はまだある。移動中の暇つぶしのおつまみにこの一食。地球にいた頃も深夜に健康悪い系メシを食べるのが日課だったようだ。
『ご主人~、夜に脂のてんこ盛りとか太るぞ』
「俺は太らない体質だし、体も鍛えてるのでデブにはなりませ~ん~」
『高血圧、糖尿病、男性ホルモンの低下、下痢、発がん、脳腫瘍』
「不吉な言葉のマシンガンやめてもらえませんかねぇ~!?」
こうは言ってるがピザが悪いわけじゃない。程よく楽しむのが大切だというヨカゼからの主張だ。皆も深夜のメシはよろしいがラインは引こう。
「……あれ、カルラ、まだ起きてたんですか?」
「これはこれはシルフィさん。ご無沙汰」
瞳が蕩けているシルフィ。おそらく寝起きなのだろう。
「どうして、こちらに?」
「騒がしいから様子を見に来たんですよ……」
アクビをかます。。やはり寝起きであったようだ。
「こんな時間にピザって。太りますよ」
「皆で俺の食生活にケチをつけるのか……」
好物であり一種の趣味であるが故にこれだけはやめられない。彼にとっては一種のタバコのようなものなのだ。深夜のカロリー飯は。
「俺の体なんで、そこは好きにさせてもらいますよ。これをしない方がストレスで早死にしそうなので~。それでは~」
シルフィを素通りし、自室へと戻ろうとした。
(……ッ!?)
その矢先。
「ん、んんん~……?」
カルラは喉奥からムズムズと、こよりを入れられたようなむず痒い感覚が迫る。
「ぶぁーーーくっしょんッ!!」
豪快な咳をかましてしまった。冷凍ピザのチーズの破片があたりに飛び散る。それに反応したお掃除ロボットがネズミのように集ってきた。
「うわ、ビックリした!? 大丈夫ですか!?」
目覚まし時計顔負けの轟音。思わずシルフィは背筋を立てて彼の方を振り向く。
「べ、別に……誰か俺の噂をしてるんですかねぇ」
「こんな時間で盛り上がる内容でもないでしょう」
「ひどっ」
深夜三時。良い子はとっくに寝てる時間。夜勤で働く男たちは精神的な意味でも会話に集中できない頃合。盛り上がる時間帯でも早々ない。
「程ほどにしておいた方がいいですよ」
「へいへい……」
軽い説教を終えたところでシルフィとカルラの二人はそれぞれ自室へと戻っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ねぇ、次の仕事はどんな感じ?」
----小さな飛行船。
フリーランスとは違う別の飛行船が、深夜の空を飛行している。
「険しい仕事でも何でもない。密猟だ」
「軽々しく言ってるけど、思いっきり犯罪じゃん」
「ヒミズに犯罪もクソもない」
操舵室に二人、後部座席に腰掛け夜空を眺める人影も二つ。
「よかったよ、戦闘とかそういうのじゃなくて……僕の顔と体に傷がつかなくて済みそうだ」
「お前は仕事を選び過ぎだ。サボるのも大概にしろ」
「はいはい」
背後から聞こえるワガママと力のない返事にパイロットの一人は呆れて吐息を漏らす。どうやら上司と部下の関係のようだが。
「ねぇねぇ!!」
直後、深夜に聞くにはハタ迷惑な音量。無邪気な呼び声がこだまする。
「あとどのくらいで着くのかな!」
騒がしい声。まるで子供の様、声の主はハキハキとはしゃいでいる。
「まだ着かん。五時間は寝ていろ」
「はーい!!」
子供の様にうるさくとも……何処か大人びた声。
「……ねむねむ」
声の主はパイロットの言葉に従うと、さっきまでのテンションが嘘のように声が聞こえなくなってくる。
ウトウト、と。目を瞑ると十秒もかからずに眠りについた。
「相変わらず元気だね」
「騒がしすぎだ」
静かになった操舵室の中で、その人物は疲れたように溜息を吐いた。
「”見た目の割にはな”」
深夜の空を旅する謎の四人。
彼らが一体何者なのか……遠くない未来、知ることになる。
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