タイトル.17「覚悟はO.K? ヴィランは極刑!(その3)」
「くっ!」
この状況、放っておくにはあまりにも危険すぎる。
あの液体によって千年樹と時計塔の両方が巨大な魔物と化してしまった。この魔の手がもし街中に広がりでもしたら……想像したくもない。
「数名は会談室へ急げ! VIP達を避難させるんだ!」
レイブラントの指示により騎士たちが動き出す。
まずは変わり果てた王族の怠慢に耐え抜いて、街を支え続けてきた雄姿たちを避難させることが優先だ。騎士たちは千年樹の触手をうまく掻い潜りつつ、避難へと向かって行った。
「……レイブラント、お前はどうする?」
「当然、この怪物を処断します」
残った戦士達はこの怪物を倒す。
「そうだな……便利屋よ。すまないが」
「分かっています! 分かっていますけど!」
触手をうまくよけながら手持ちのナイフで触手を切っていくシルフィ。小柄な体をうまく生かしたフットワークで攻撃を回避しながら叫んでいる。
「コイツら、どんだけやっても生き返りやがるぞ!?」
炎を纏った両腕でツタを燃やしていくアキュラ。だが、いくらツタを破壊したところで千年樹は驚異の回復力を見せる。再生を繰り返し、幾度も戦士達へ牙を剥く。
触手を倒しても倒してもキリがない。
ハルベルトとレイブラントもそれぞれ木のムチへ迎撃を行っているが攻撃が収まる様子はない。このまま対抗策が見つからなければ一時間もつことさえも難しい。
「……全くよぉ」
悲鳴を上げているように顔を歪ませている千年樹。
「やりづれぇったら、ありゃしねぇんだよ……クソがッ!!」
苦しんでいるのは向こうも同じようだ。かけられた液体により全く別の姿に変貌した大木は『助けてくれ』と騒ぎ続ける。
これ以上、戦いを長引かせるわけには行かない。
何としてでも探り出す。あの千年樹を止める方法を。
「……おい、ヨカゼ起きろ」
カルラは一人、千年樹を見上げ突っ立っている。
「目の前の大木、何かおかしいところはあるか?」
相棒ともいえるシステム。眠っていろと一方的に命令したCPUに彼は問う。
『あの液体、人間のそれとは比べ物にならない熱源反応があった。得体のしれないエネルギーが樹木全体に流れ込み、一種の生物へと姿を変えさせた……このエネルギーの奔流、最早この樹木はモンスターだ』
「……モンスターってことは生き物になったんだよな? 心臓はあるのか?」
『可能性はある。探ってみよう---』
心臓。そう思われる個所をシステムで探す。
『……あったぞ! 液体のエネルギーもそこに集結している!』
「そうか、よくやった!」
希望が見えた。逆転の
「シルフィ、大将、そして騎士のお兄さん方! 俺をあそこまでエスコートしていただきたい! どうにかなるかもしれません!!」
「保障は?」
「ない!」
やらないよりはマシ。ハイテクシステムのヨカゼを信じるしかない。
このまま消耗するだけでは後味が悪いエンディングが待っているのみ。賭け事するタイミングではないのかとカルラは一同に問う。
「……まっ、何もしないよりはマシか! ダメだったら、すぐに逃げるぞ!」
アキュラはその作戦に承諾する。
「我々も援護するぞ!」
「そのつもりです」
ハルベルト、レイブラントの二人が前衛を担当する。
「頼もしいィイーーッ!!」
罪を断ち切る剣と、罪から民を守る盾。二人の雄姿を前方、これほど心強い援護はいないと思いながら、カルラは共に前進する。
「
詠唱。シルフィの指先から現れるのは透明な刃だ。風で構成された刃はカルラ達へと襲い掛かる触手を次々と斬り捨てていく。
「ナイスですぜ、シルフィィイーーッ!!」
「
片手に纏われた炎が触手を燃やしていく。
彼等の前進を邪魔する不届き物は両サイドの小娘二人によって排除されていく。
玉座の間で苦しむこの街の象徴へ一直線。負の連鎖をとめるため、ハルベルトとレイブラントは呻き声の一つも上げずに前進を続ける。
「援護、大大大感謝っ!!」
村正を構え、カルラが足を踏ん張る。
「しかしどうするつもりだ。あんな巨大な敵、お前の刃で断ち切れるというのか?」
「……そのまさか、ですよ」
前方の二人を飛び越え、カルラは剣を振り下ろす態勢を空中で取る。猪突猛進で突っ込んでくるカルラへと触手が迫りくる。
「何せ俺はッ! 最強無敵のスーパーヒーローなのでっ!!」
突っ切る。触手が体を捕らえるよりも先にカルラが前進する。
「フェーズ3、解放!」
『了解。フェーズ3への到達を許可する』
村正に纏われるピンク色の粒子。
次第にその淡い色が……血液のような深紅へと変貌していく。
より色濃く、より熱の波動を感じさせる得体のしれないエネルギーらしい見た目へと変わっていく。
「
悲鳴をあげる千年樹の顔面を前に着地、エネルギーを伝達していると思われる心臓部分眼前へと到達。
「
一閃。目にもとまらぬ深紅の一閃が、千年樹の顔面へ。
-----世界樹の叫びが聞こえる。
真っ二つ。
顔をゆがめたまま、世界樹は真っ二つに裂かれていく。
「斬った、だと!?」
レイブラントは驚きの声を上げる。
アレだけの巨大なモンスターを一刀両断。そのスケールに腰を抜かしかける。
「嘘!?」
「マジかっ……!?」
以前とは比べ物にならないサマになった姿。シルフィとアキュラも、いつにも増して心強いカルラの背中に声を上げる。
「……だから言ったでしょう」
燃え散っていく怪物を背に、カルラはピースサインで応える。
「ヒーローだから、やってみせましょうってね」
自信満々。誇らしげでありながらも、癇に障る笑顔で。
いつも通り、不愉快さ満々の歪なヒーロー面で、カルラは軽々勝利してみせた。
心臓と思われる謎の熱源帯は死滅した。それを合図にエネルギーの伝達が終わってしまったのか、千年樹は萎れたおじいちゃんの大木の姿へと戻っていく。
「これで一件……」
村正を収め一息つこう。
-----そう思った矢先のことだった。
「ん、ちょい待て」
揺れている。何やら、茶色い粉雪が玉座の間にて吹き荒れる。
「なぁ、この建物……傾いてね?」
外を覗いてみると、建物が斜めに傾いているように見える。現に玉座の間の床が斜めの光景、スライダーのようになり始めている。
「落着じゃぁ、ないみたいですねぇ~ッ!?」
「逃げるぞ!!」
おじいちゃんに戻るとかそういう問題じゃない。むしろ、以前よりも萎れている。
支柱であったこの千年樹が形を変えた事により時計塔の一部……いや、全体が崩れ出したのである!!
ここに残れば全員生き埋めになる!!
一同は一心不乱に玉座の間から退避。時計塔が崩れ落ちる前に外へと避難した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
時計塔は損壊、千年樹はより悲惨な姿へ。
中にいた一同は女王を除いて全員無事であった。脱出成功である。
「……ひとまず無事か。あぁ、寿命縮まったぜ。さすがに」
さすがは国を支えてきた自警団のエースたちとだけあって避難は順調だった。全てのVIP達を安全な場所へと連れていくことに成功したようだ。
「俺達、さっきまでアソコにいたんだよなぁ~。おお、こわっ」
千年樹のてっぺん。そこにあった玉座の間は跡形もなく崩れ去っていた。
あのまま残っていたらどうなっていたのだろうと想像するだけで身の毛がよだつ。ヒモなしのバンジージャンプだなんて洒落にならないぞとカルラは苦笑いと身震いをしていた。
「……終わった、か」
「はい、終わりましたね」
崩れ去った玉座の間。狂った王はもうそこにはいない。
それはこれから始まるいざこざの嵐の前の静けさなのか、それとも全てが終わり嵐が去った後の静けさなのか。ハルベルトとレイブラントの二人はこの上ない喪失感に、複雑な心境を浮かべていた。
「はぁ、はぁ……」
女王以外は全員無事。
ともなれば、会談室でVIP達にボコボコにされる程度で済んでいた伯爵も無事だという事である。
この騒ぎに生じてこっそり逃げ出そうと、ほふく前進でその場から去ろうとしている。これから受けるべき罰から逃げるつもりか。
「ああ、そうそう! 俺、もう一つ許せないことがありまして~」
その行き先、カルラが防ぐ。悪人を逃がすつもりなど毛頭ない。
「伯爵様ァ~? 俺の顔面にツバつけたでしょー? アレ、結構腹が立ったんですよォ~? ネェ? 偉い人でも何でもない、ただの犯罪者さん??」
「ヒッ……!」
カルラは不気味なまでに笑顔。そんな彼を前にして伯爵は裏声を上げる。
「私も付き合わせてください。この人には言いたいことがありましたから」
「おおっ、今日はノリがよろしいことで」
カルラと共に笑顔。シルフィも伯爵の目の前へ。
腰を抜かし、尻もちをつけた姿勢で後ずさりを始める伯爵。しかし、もう彼が命乞いや悪あがきをしようと、この状況を変える手段は一向にあらず。
「「……あの世で反省しろっ!!」」
二人同時に笑顔のまま豪快なアッパーカット。
「ぎょええぇええ……-----」
伯爵の体は、綺麗に宙を舞っていった。
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