タイトル.17「覚悟はO.K? ヴィランは極刑!(その2)」
カルラは玉座の間であろうとかしこまる様子は一切見せない。ただ堂々と、正義のヒーローらしくと仁王立ちしている。首など垂れる者か。
「……正義の味方とやらがここへ何の用だ? ヒーローとやらは作法を無視してもよろしいのか? ここを何だと思っている?」
「女王様。今、下の方で何が起きてるか、おわかりですか?」
「知っておる。国に逆らった愚か者に裁きを与えている」
「残念だが違うんですよ、コレが」
証拠映像は下にあるため今はない。下のゴタゴタについては自分で話す。
「女王様の面倒を見ていた伯爵様。どうやら、国のためでも何でもなく私欲のために人体売買をしていたらしいのです。たった今、下で行われているのはそれに対する有罪判決でございます」
「ほう……そんなことが」
伯爵が悪行を働いていた。それに驚いているような素振りを見せている。
「……こらこら、何、他人事みたいに」
そんな余所余所しい態度を前にカルラは鼻で笑う。
「その商売の一部始終を女王様も見ていたらしいじゃないですか」
あのような商売、何故そう表出になることがなかったのか。証拠を隠蔽している共犯者はあまりにシンプルで権力持ち。
「それでもって、黙認までしていたみたいだし……その商売金の行き先、国の政治の補強にはたった一割程度で残りは自分持ち」
あの商売が表出に出なかった理由。それは王族の圧力があればこそ。
その現場には伯爵だけではなく、パーラ女王本人の姿も確認されたのだ。この国の権力者たちは……揃いも揃って、私利私欲の為に動いていた。
「……随分と小汚いことしてんじゃねぇーか、小悪党」
映像には映っていなかったが、耳を澄ませてみると女王の声もしっかりと聞こえた。この会議の事は黙認とし、その金の大半を受け取るだなんて口約束までハッキリと。全ての証拠があの映像一つに残されている。
「戯言を……誰か、この者達を捕らえよ!」
女王の掛け声とともに、自警団の面々が玉座の間へ。
戦闘にはリーダーであるレイブラント。そして部下の騎士達。その数はおよそ五十近く。カルラ達数人程度ならあっという間に包囲できる人数だ。
「申し訳ございませんが……それは出来ぬお話でございます」
女王の命令は当然拒否。
切り札となる映像の提供者。そして切り札は今、存分に効力を発揮する。国を想う騎士の一人は最早、女王の手駒ではない。
「貴方様はもうこの国の主導者ではございません。ただの国際犯罪者です……女王パーラ、今ここで、お前の身柄を拘束する」
レイブラントは全てを自警団の面々に伝えた。
狂った主導者からこの国の自由を取り返すと宣言する時が来た。長く、実に長く。ようやく訪れたこの瞬間。
「お仕事が早い。さすがは国を代表する騎士様の一人」
下準備を始めていたのはハルベルトだけじゃなかった。
私利私欲に走る指導者の手により一方的な処断をされ続ける世界。レイブラントもまた、この日の為に計画を進めていた。
チェックメイトだ。もう、ここには彼女の言葉に従う者はいない。
「……ただ、拘束する前に一言だけお尋ねしたいのです」
レイブラントは一歩前に出て、片足を地につけ問いかける。
「この街は罪人へは厳しく、脅威となりかねない種は摘み取るのが当たり前。他の所と比べれば、この街あまりに過剰。やりすぎではないかとも思っておりましたが……その行動により街の犯罪の削減には確かに成功。処刑の判断も理に叶ったものが多かった。しかし、貴方の代になった途端にこうも狂ってしまった」
女王が変わった。そこから全てがおかしくなった。
あの伯爵は私利私欲のために動いていたのは間違いない。
しかし、この女王パーラはどうなのだろうか。処断の解禁を許した王族ではあるものの、それは紛れもなくこの街を思っての決断だった。パーラ女王はその決断を下した一族の血筋の人間である。
「国へ……王としての振る舞いはなかったのですか」
何のために金を集めていたのか。それには理由があったのではないか。
最後の希望を添えて、レイブラントは彼女に問いかける。
「……あるわけねぇだろ」
女王は呟く。
「どうでもいいに決まってんだろッ! この国の事なんてさ! 何を規制しても、誰を黙らせようが、どうやったって犯罪は起きる! 一緒の事じゃねぇか!」
開き直ったように大笑いしながらレイブラントへの問いに答える。
「褒美を貰って何が悪い! 私はこの国にしっかりと支援しているし、この街の安泰を図るために効率よく人を裁いてるだろうが! 現にここ数年は何の事件も騒乱も起きていないし、安定はしていたじゃないか……必要な犠牲なんだよ! 間違った事言ってねぇだろ、ええ!?」
自分は悪くない。そう言いはる女王を前に一同は戦慄する。
人を殺すことは安定のため当たり前。只の調整であると堂々と言いはるその姿に。
「……必要だ、犠牲という概念は確かに」
ただひとり、カルラは口を開く。
「犠牲もなしに平和と安定を保とうなんて不可能だ。俺はそういう世界に生きてきたからな」
犠牲もなしに平和は手に入れられない。その発言は分からなくもないと言い張る。
「だが、お前等は必要もない犠牲をはらって、事もなしかその犠牲を商売にしている……儚い命を効率がどうとか、私欲や匙加減でどうこう語られても虫唾が走る。日々頑張ってる御褒美だとしても、他人の血はやりすぎだろ」
拳を鳴らし、カルラは思いの丈をぶつける。
「子供を泣かせる
カルラの瞳には、確かな怒りがこみあげていた。
「お覚悟決めろよ大悪党。命乞いなら幾らでも聞いてやる」
一歩ずつ、女王の元へ。
一片の問答も意味はない。これ以上被害が増える前に……消える必要のない命が、傷つく必要のない心が増えてしまう前に、その根源を断ち切る。
自警団、フリーランス。
それぞれが一歩ずつ、女王を追い詰めていく。
「何、勝った気でいやがるんだよ……!」
女王は何かを胸ポケットから取り出した。
「お前ら全員纏めてェ……極刑だァアアアアッ!!」
小瓶だ。ピンク色の液体が放り込まれた謎の液体。
「そらっ!」
玉座の間。世界樹と一体化するように作られたこの場所には木の幹と樹皮があちこちに顔を出している。玉座の後ろに至っては半径にして1メートルほどの巨大な幹が顔を出している。女王はそこへ小瓶を叩きつけた。
「何だ、その液体?」
一体何をかけたというのか。不気味な色の液体を前に一同は身構える。
「------!!」
大地が揺れる。
「おおわああっと!?」
いや、正確にはこの時計塔が揺れたというべきか。
「な、なんだ!?」
一斉に地へ足を伏せる。
暴れている。この時計塔が悲鳴を上げながら暴れている。
「な、なんだッ……うわぁっ!?」
世界樹のツタが蛇のように騎士の一人を捕らえ、引きずり込んでいく。
「ぐわぁっーーー!?」
鉄棒で殴られたような感覚。ツタの鞭があちこちから現れる。騎士たちは次々と不意な攻撃によって分散されていく。
「千年樹が暴れている……我ら人間を襲っている!? 破壊の意思を持ったというのか!?」
「あはははっ、アッヒャッヒャッヒャ!!」
大笑いする女王の後ろで。
千年樹の表面に、魔物のような巨大な顔面が現れている。
「せ、千年樹が……!? 怪物に……ッ!?」
千年も生きた古来ある樹木。謎の液体を吸い取ったそれは突然変異を起こし暴走、ものの数分足らずでこの時計塔全体を包み込む魔物へと姿を変えてしまったのだ。
「この時計そのものが魔物になったって事かよ!? つまり、今、オレ達は魔物の腹の中ッ……まずいぞッ! コイツはっ!?」
「ヒャヒャヒャヒャ!! お前ら全員、ここで潰されてしまえ!」
トレントとも違う何かとなってしまった千年樹。腹の中、反乱分子の騎士達は次々と、肉質混じった触手によって引きずり呑まれ、叩き潰されていく。
「この国は私のものだ! 私の庭で暴れる貴様らは好き勝手に死んでしまえ!!」
これを放っておけば街がどうなるか分かったモノではない。この街を束ねる存在であるはずの彼女は、そんなのをお構いなしにヤケクソ気味に大笑いしている。
「……反吐が出るな。こんなやつに仕えていたなんてな」
レイブラントは目の前の邪悪を前に、ただ舌打ちをするしかなかった。
先代の誇りなど何もない。目の前にいるのはただワガママで迷惑な大人。
「アッヒャッヒャヒャ……アヒャヒャ……ッ!」
理性すらも焼け切った女王の体が宙に浮く。
千年樹だ。魔物となった大樹は女王パーラでさえも敵とみなしている。伸ばされた触手が女王パーラに巻き付き、彼女を宙づりにする。
「あっ……!」
思わずシルフィは声を上げるが、もう手遅れ。
「ケヒヒヒッ……消えれぇえ……消えてしまえぇええ……!!」
しかし、女王パーラは今の状況を理解していないのか笑う事を辞めず、涙で顔の化粧も崩れていく。人形のようにケタケタと笑い続けるだけ。
「ヒヒヒッ、ひひ----」
笑う事しか出来なくなった悪魔。
魔物と化した千年樹の顔面が迫り……その巨大な口の中に放り込まれる。
諸悪の根源は自業自得ともいえる、最悪の最後を迎えた。
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