タイトル.17「覚悟はO.K? ヴィランは極刑!(その1)」
一同は向かう。都市メージの中央に存在する時計塔へ。
この街の象徴ともいえる千年樹と一体化するように作られた砦。
あそこがこの街でいう王城のようなものだ。この街の政治を取り仕切る企業や組織のお偉いさん達が一堂に集結し、会談を行う場所。
その頂上に女王のいる玉座が存在する。
「すまない! 私の身勝手で……!」
騎士甲冑も剥奪され軽装。時計塔に保管されていた予備の鎧と武器を片手にハルベルトはカルラ達と共に駆け抜ける。
「いいんです。あんなことをしてしまうのも当然、」
「そうだな。もうちょっと状況は考えてほしいな。クライアントを見殺しにした便利屋だなんて噂が広まったらウチの信頼ガタ落ちだった」
馬鹿正直に事を告げるアキュラ。
「ぐっ、すまない……」
これにはハルベルトはぐうの音も出ない。
大人だというのに我慢しきることが出来ず、向こうが有利になるような状況を作り出してしまった。この国を救うための起点となりえなくてはいけない自身があのザマ。情けなく思うのも当然だ。
「……まぁ、子供を見殺しにするような奴の味方にもなりたくはないがな」
小声だった。アキュラの本音らしきものが漏れていた。
「おい、カルラ。証拠とやらをあの男から貰ったってのは本当か?」
「モチのロンです。ホラっ」
彼が手に持っているのは……映像が保存されたビデオカメラに盗聴器。証拠となりえる映像を移動しながら流していく。
「……レイブラント」
ハルベルトは唸る。
裏切ってない。あの男は裏切ってなどいなかった。
盾の騎士が手渡したソレは……紛れもなく、裏取引の一部始終の映像だった。
「これはっ!?」
……映像にいる伯爵は買い取る側の人間ではない。
売る側の人間であった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
用意されていたのは処刑された人間の亡骸。焼却されることなく、一つのサンプルとして包容されていた遺体の数々だった。
髪の毛、骨、皮、臓器。ありとあらゆる人間のパーツは売り物となる。健康的な人間一人分となれば、その値段はとてつもない値段に跳ね上がる。
取引の相手は売り渡された遺体に相応する金をアタッシュケース数個分で伯爵に引き渡すと、その現場から去っていく。
……金を片手に、邪悪な笑みを浮かべる老人。
子供、大人、老人。中には生きた仔犬や小鳥など動物も含まれていた。身勝手に掃われた命は金となって引き渡され、売り物という形にされていた-----
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「こんな……こんなことを、同じ人間が……!?」
「ケッ!!」
シルフィは唖然。アキュラは慟哭した。
「救えないレベルのクズ野郎だぜ、コイツ……ッ!!」
同じ人間がやるとは思えない悪魔の所業。人間の死を前にしても、己の欲望に正直に笑みを浮かべるその姿。最早、人間を家畜以下とみなすその姿。
アルケフを奴隷として扱っていたあの企業とは比べ物にならない悪魔。
「許せるものか……許せぬものかっ!!」
ハルベルトの怒りは爆発寸前。いや、もう爆発しているといった方が正解か。
国の秩序の維持のためとほざいておきながら、結局は己の金もうけのためだけに表向きの法を利用して命を集めていただけの事。
「まぁ、慌てませんように。これを会議室に放り込んでしまえば万事解決。いくら王族なんてお偉いさんも、こんな証拠映像叩きこまれたら多少は怯むでしょう」
証拠映像を見せつけても無理強いをする可能性はある。追い詰められた人間ほど、権力を持つ人間はどのような悪足掻きをするか分からない。
「……その隙に畳み込むぞ」
隙が出来る。そして、事案は確定する。
その瞬間さえできればあとはこっちのもの。取り押さえて依頼通りに彼らの罪状を街の外の政治家とやらに行き届かせてしまえば、それで勝利だ。
「カルラとやら、一つお聞きしたい」
「はい?」
「……レイブラントの姿が見えないが」
この映像はレイブラントから渡された。
しかし、監獄塔の入り口に戻ってきた頃には彼の姿は見えなかったのだ。
「やりたいことがあると去っていきました。あなたの事は、自分たちに任せる、と」
「そうか……」
ハルベルトはホッと胸を撫でおろす。
何処か安堵したような顔色が伺えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一同は警備をうまく掻い潜り、頂上近くの会談の間へと向かっていく。
監視カメラは片っ端から破壊し、どうしても避けては通れない警備員はうまく裏を取って気を失わせる。事もなくスムーズに、一同はついに到達する。
「はい、お邪魔しまーす!」
円状に並べられた木造のテーブル。そこには一つ一つの席に、街を支える企業と組織の代表者たちがいる。
突然の来客に困惑し、中には飲んでいたコーヒーを撒き散らす者もいた。
「な、なんだ、貴様ら!? ハルベルト、どうしてここに!?」
「はーい、お静かにー!」
アキュラはカルラからビデオカメラを取り上げ、会談部屋の隅っこに置かれていた大画面の液晶テレビへと向かう。
予想通り、ある程度の映像出力のコードは用意されている。伯爵は『こいつらを追い出せ』と喚いているが気にはしない。
「これをごらんなさいな」
ビデオカメラの映像がテレビに反映されるよう設定を終えると、アキュラは無慈悲にその映像を流した。
「むむっ!?」「おお、これは……」「ほうほう」
人身売買。あまりに非道な瞬間が晒される。
秩序の為でも何でもなく、己の利益の為だけに動いた愚かな老人の姿が。
「いや、待て、これは、そのっ」
予想通り、一瞬どう言い訳するものかと混乱している。
「国の犯罪者さんだぞー、早く捕らえな」
アキュラは伯爵が何かを言い出す前に一声警告する。
すると、どうだろうか。企業のお偉いさん達が一斉に席から立ち上がり、真ん中で戸惑いを隠せないでいる伯爵を囲み取り押さえ始めたではないか。中には怒声をまき散らしながら殴り掛かる者も数名いる。
「やっぱ予想通りだ。コイツを国のお偉いさんだと認める奴なんて殆どいなかったってわけだ」
「鬱憤晴らしのサンドバックにされちゃって、まぁ。自業自得だけど~」
こんな出来レースに従わされた挙句、しかもその裏にはこんな事が隠されていたという事実。この国の為だと信じて彼らを支え続けてきたトップ達の怒りは大爆発。
「ここはもう大丈夫だろ」
権力以外に大した武器も取り柄もない老人にこれ以上の足掻きが出来るとは思えない。権力を撒き散らそうにも、こうして証拠映像を流され続けている状況で従う者はいない。彼は最早、国際犯罪者なのだから。誰も肩入れなどしない。
「……さてと、あとは」
会談部屋を抜けたカルラ達とハルベルト。その場をトップ達に任せ、時計塔の更に最上階へと目指していく。
「行きますか。親玉のところへ」
まだ終わっていない。
黒幕が一人だとは限らない。
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玉座の間。
そこは本物の城のように綺麗に彩られた空間であり、千年樹の頂上。
そこで一人、女王パーラは自身の愛猫の頭を撫でている。
「……むぅ?」
何やら外が騒がしい。いきなり逃げ出した仔猫がそれを告げている。
女王の視線が玉座の間の入口へと向けられる。
「はーい、お邪魔しまーす」
到着。便利屋フリーランス一同。
「……正義のヒーローのご到着でーす」
メージを苦しめる、もう一人の敵。
最後の一仕事、一同は本腰を入れることにした----
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