タイトル.16「二人のナイト(前編)」
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ハルベルトとレイブラント。
二人は歳が離れていながらも、互いに背中を預け戦う勇敢なる騎士だった。
ハルベルトの剣はあらゆる無法者を貫き、レイブラントの盾はあらゆる災害から民を守る。この
この街は最近になってから、再度王族によって管理されるようになる。
管理という形の……身勝手な支配国家へと生まれ変わった。
一部貴族へ逆らう者は死刑。勝手な私情によって支配されたバカげた街。ハルベルトはそんな支配から民を守るために自ら傷つきながらも戦い続けてきた。
レイブラントは若き頃よりハルベルトの手によって鍛え上げられた騎士。
彼もまた、メージの平和を守る立派な騎士になりたいという志のもと、自警団への所属を志願した男だった。
数年前、その実力が認められ自警団のリーダーの一人として選抜された。レイブラントにとってハルベルトは恩人であり師ともいえる大切な存在。彼の横に並び、共に戦うことを常に願っていたはずだ。
だが、彼は国と仲間より、保身を選んだのだろう。
レイブラントは、恩師を売ったのだ-----
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-----数時間後、監獄塔。
ハルベルトは牢獄の中に放り込まれている。これより政府による正式会談によってハルベルトの今後が左右される。
……結局は王族の手によって勝手に話が進められる出来レース。
形だけの会談はハルベルトの処刑確定宣言のようなものだ。
ありもしない罪状もおまけで付けられ、『王族に二度と逆らうな』という民への見せしめのためだけに殺される。
目の上のタンコブ。伯爵にとってハルベルトは如何に邪魔な存在であったか。ようやくその存在を排除できるこの展開を愉悦に思っている事だろう。
「……む?」
監獄塔。会談が終わるまでの間、入り口はレイブラントが護衛している。今、この塔の中では処刑の宣告を待つばかりのハルベルトがいる。
この結果に妥協も理解も出来ない騎士が多い事だろう。だが、立場上彼らに逆らえるものなどそうはいない。彼もその一人だと、民は言った。
「よっす、お勤めご苦労様です~」
風に揺れる逆上げした髪。学ランじみた黒い装束。立ち入り禁止区域とハッキリかかれた看板を素通りしてやってくる不届き者とその御一行。
カルラ、シルフィ、アキュラの三人。恐れも何も抱いている様子はない。友達の家に遊びに行くような気軽さで監獄塔へと姿を現したのだ。
「出前を頼んだ覚えはないのだが? 会議の結果を寄越すにも早すぎる」
「違いますよ~。この街では結構な有名スポットと言われている監獄塔へと顔を出しただけでございまして」
自身の両手を重ね合わせ、何かをこねるようにネットリとした表情。
これぞ、カルラ・カミシロ必殺の“媚を売る表情”というわけである。時代劇の越後屋もビックリなわざとらしい微笑み具合に気持ち悪さを感じる。
「そうか、ならば立ち去るといい。ここは動物園感覚で来る場所じゃない。その首、食いちぎられたくなければな」
「そうは言ってもねぇ。そうはいかないのですよ……何か悪いことをしたわけでもないのに、無理やり檻に放り込まれてしまった哀れなお馬さんに用があって来たんですからねぇ」
「……お前達、便利屋だな」
盾の騎士・レイブラントは自身の武器である巨大な盾を構え始める。
「見慣れぬ格好をした者達だったのでな。勝手ながら調べさせてもらった……ヒミズの便利屋アキュラ・イーヴェルビル。そして、その部下であるカミシロ・カルラにシルフィ・アルケフ=スカイの両名」
調べられていたようだ。
「ハルベルトに雇われているのも既に分かっている」
ヒミズの便利屋。ならず者の集団の寄せ集めともいえる無法者集団の一員であるという事が、とっくの前にバレていたようだ。
「ったく……便利屋だってのをベラベラ喋るのはタブーだってことが、世の中の暗黙の了解なのを知らねぇのか? プライバシーもクソもありゃしねぇ」
「まぁ、仕方ありません。いくらプライバシーにうるさい企業であろうと、お国のお偉いさんに圧力かけられれば、広告チラシ感覚で喋っちゃうもんです」
裏の世界のルールなど表の世界のルールには知った事ではない。そもそもそう守られるルールでもないのだ。裏の世界にルールもクソもないのだから。
「とまぁ、そういうわけだ。仕事を引き受けた以上、クライアントの保守は絶対でな。身柄を引き渡してはくれないか?」
「断る」
アキュラの提案を当たり前のように拒否した。当然と言えば当然か。
「……何故ですか」
次、口を開いたのはシルフィだ。
「何故ですか!? あなたにとってハルベルトさんは恩師であり親のような存在だと聞きました! 伯爵の自分勝手な振る舞いを見ていなかったんですか!? あんなことでハルベルトさんが裁かれるのは間違ってると思います!」
「俺は組織の人間だ。例え上がアホであろうと、俺には従う義務がある」
どのような理由があってもそこを通すつもりはないようだ。盾を構えるレイブラントはすでにお仕事モードに入っている。
「……だから嫌いなんですよ。顔がイケメンだったりハンサムだったりする人」
首を掻きむしりながら、カルラが一歩前に出る。
「残念な事を口にしても、ある程度絵になっちゃうのがムカついて仕方がない」
シルフィ、アキュラに許可を取るまでもない。
「効く耳持たずですか。お堅いお人」
カルラは村正を抜こうと、鞘へ手を伸ばす。
「……じゃあ、無理にでも押し通る!!」
その刃を盾へと振り下ろした。
フェーズ1。エンジンが入るには時間がかかるが、初っ端から全力の攻撃だった。通さないのであれば、その盾を粉砕してでも突き進む。
結局の正面突破。カルラの第一撃、見事に叩き込まれる。
「-----ッ!?!?」
カルラの体が絶叫する。
悲鳴。体中が悲鳴を上げる。腕も折れそうだ。腰も折れそうだ。
除夜の鐘がなるような重低音。村正の先端に触れた盾はビクリともせず、カルラの一撃を受け止め強く振動する。
「……いってぇええええ!?」
全力だった。しかし、その一撃や容易く防がれた。
攻撃を仕掛けた側であるはずのカルラの方が片手を押さえて苦しみだした。衝撃に耐え切れず悲鳴を上げた手首に、彼はマンドラゴラの如く呻き声を上げている。
「固っ! つーか、重いし、固ぁっ!?」
固いを二回言った。
特殊な硬度で作られたはずの村正がこうも容易く受け止められた。それがあまりに予想外だったのか酷い有様だ。
「どうした。勢いの割に身は貧弱だな。その程度か?」
「なんのぉ……これはまだほんのご挨拶ぅ……!!」
涙目になりながら、再び村正へ手を伸ばす。
そうだ、まだ村正のスイッチを入れていない。ここから先、本気を出せば突破口が開く可能性がなくはない。正直、エクトプラズマーを纏ったところであの盾に通用するかは分からないが、パワーで勝てると信じたい。
「今度こそ、意気地な騎士様のように御堅い盾を真っ二つに、」
「カルラ」
意地を張ろうとする彼の腕に、そっと小さな手が添えられる。
「ここは、私に任せてください」
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