タイトル.15「狂ったサンクチュアリ(前編)」


 【ハルベルト・クランシィ】。彼が今回の依頼人だ。

 数時間も経たないうちに再会。奇妙な邂逅もあるものだとカルラ達は本と新聞を閉じて、ハルベルトと向き合う。

「それじゃ仕事の話……と行く前に、ちょっとだけ聞いていいか?」

「構わない」

 仕事を始める前、アキュラはふと気になったことを問う。

「……ここは他の町と比べて、犯罪の取り締まりとやらには入念というか行動的だって聞いた。死刑や拷問、見せつけのプロパガンダやら沢山あった」

 市民に恐怖を植え付けることで犯罪への意欲をなくす。所謂恐怖政治。

 ここメージではそのようなやり方で抑制が行われている。

「過激ではあったが、その効果もあって凶悪犯罪者は片っ端からブタ箱行き。この街の犯罪数も数年前と比べて八割近くも減ったとは聞いている」

 その場での処断、銃殺の黙認。聞けば聞くほど物騒な言葉ばかりが聞こえてくる。こんな静かな街でこんなにも刺激的な事が行われていたとは。

 だが納得も行く。そこまでやれば街そのものが静かにもなるか、と。


 話によれば、このやり方は一部貴族達からの発案による決定事項だそうだ。


「……裁くのは犯罪者だけだった。なのによ」

 犯罪数が減ったとはいえ、やりすぎだと非難するものも当然いた……しかしルールはしっかりと守ってきた。処断されてきたのは法を犯したものばかり。この街の秩序を乱す連中だけだった。

「客人であるはずのオレたちまでそれみたいな扱いだ。王女を不快にしただけでオレたちも犯罪者だって言いたいのか?」

 あの場での断罪行動。その理由はあまり良いものとは思えない。無礼を働いたかもしれないが、そうするまでに癇に障る行動だったというのか、あのミスは。

 カルラとハルベルトの行動あって何とかトラブルは避けたものの……一歩間違えれば想像もしたくない展開になっていたかもしれない。

「今回の仕事につながる。そちらの件も加えて説明する」

 あれだけで裁かれるものなのか。あれだけで悪なのか。ハルベルトはそちらの件も加えて、今回の仕事の内容を説明することにする。


「処刑の解禁、自警団の強化……王族となった貴族による宣言によって、メージは確かに安寧を保ちつつあった」

 それが真の平和であるかどうかは分からない。

 この国は他の国と調べて静かで平穏だ。だが、それは決していい意味ではない。

「言い方を悪くすれば、恐怖に支配に他ならないがな」

 この街の住民達は上級の貴族達に怯えながら過ごしているのだ。

「数年前の事だ。先代の王が倒れ、その代は娘であるパーラ女王へと託された。伯爵の地位もその面倒を見続けてきた召使いへと受け継がれた……そこからだ。処刑や拷問がより凶悪化したのは」

 ここ数年で王は女王となり、伯爵も変わった。それから国の情勢は180度違う形へと変換。

「処刑の内容が明らかな私情ばかりだ。場合によっては気分での殺害も厭わない……娯楽とまでは行かないが、奴らは秩序とやらに目も向けぬ殺戮を自警団に仕向け始めたのだ」

 伯爵。パーラ女王の近くにいた老人の事だろう。

 伯爵の行動にパーラ女王の気分。確かにあそこには狂気の一片が見て取れた。この国をまとめ上げる人物というには子供っぽすぎる自分勝手さが。

「理由は分からない。彼女らに対してデモを引き起こす住民達も現れたが、その人物達は有無を言わさず自警団たちの手によって殺害。それに加担、同調したものでさえも殺したのだ」

「一度ニュースで見たことあるな。物騒な連中を引き起こす奴もいたもんだと思ったが……蓋を開けてみれば想像以上に物騒な代物だな、こりゃ」

 王族。その行動には理由がある可能性こそあるが……それにしては度が過ぎる。

「私は独自で調べた。そして手に入れた」

「それが、その伯爵とやらが何やら裏の世界に手を染めているってことか」

「あぁ、だが明確に何をしているのかまでは分からなかった。だが隠ぺいを繰り返すのを見るに国の法から乖離している内容なのは間違いない」

 ハルベルトが手にしたのは、一枚の契約書類だったという。

 書類だけではどのような取引を下のかは分からなかった。だがその書類は国全体のチェックを通さず伯爵の独断のみで通されたもの……嫌な気配がする。

 この取引内容が何なのか分かりさえすれば何か掴めるかもしれない。狂気に晒され始めているこの国の悪意の根源が。


「他の奴らには協力を要請しなかったみたいだな。密告が怖いとか」

「自警団の中にも王族に逆らえない者が数名いる……変に協力を要請して、それを密告されれば折角の証拠も水に流されてしまう」

「それで、私たちの出番ってわけだ」

「そういうことだ」

 ただの娯楽殺戮となってしまった処刑案。街を脅かす闇。

 メージを管理するのは王族ではあるが、その王族を管理しているのが首都であるロックロートシティの政治家達だ。

 証拠を提示し、そこで政府へ助け舟を頼むことに成功すれば……この国の情勢は、少なくとも今以上には良くなるかもしれない。


「随分と守りの硬そうなものだったな。どうやって掻い潜るものか」

 どうやって取引の証拠をつかむことにするか。

「正面突破でよろしいのでは?」

「国際犯罪者で有名人になりたいか?」

「冗談ですよ。アウトローヒーローはちょっと」

「ウチに所属した地点で充分アウトローだがな」

 本当に冗談だったのか。直後に却下されたカルラの態度は何処か軽々しかった。

「何はともあれ下準備だ。一回部屋に戻って」

「おい! あれ……!」

 図書館でざわめきが起こる。

「「!?」」

 まさか取引を見られたのか。アキュラとハルベルトは一瞬周りに目を向ける。

 しかし、目線はこちらに送られているわけではない。

 別の場所、全員は外へと目を向けている。

「なんだなんだ?」

 カルラにシルフィ、アキュラとハルベルトも入り口で出来上がっていた人だかりを避けて、外の様子を確認するためにかき分け進む。


 苦戦の末、ようやく、その光景をその目で拝める。


「うわぁあああッ……ごめんなさい! ごめんなさぁあい!」

 本を地にバラまいて泣き出している子供が一人。

「……この、ガキ」

 そんなを子供を見下しているのは、

 その問題児であるであった。

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