タイトル.14「恐慌街のクライアント」

  

 宿へのチェックインを終え、一同はクライアントとの集合場所へ向かう。

 そこは都市メージの国立図書館。

 本は数百万冊以上。古来の魔導書や伝奇小説は勿論の事、ここ最近になって発売された子供向けの絵本や大人向けのジュブナイル小説。図書館というよりは文学博物館と言っても過言ではない。


「やっべ。この世界のエロ小説レベルたっけぇ……」

「んなもん立ち読みしないでください!!」

 図書館へ到着した一同は待ち合わせの時間、クライアントがやってくるまで独自、本を集めて時間を潰すことにする。あと図書館ではお静かに。

「えっと、欲しい本はこれとこれとこれ、と……」

 シルフィにマナーを説教された後、気になる本を次々と手に取る。

「……アウロラの歴史。それと例のホールに関する考察書物か。もしかしなくても、元の世界に戻る方法の模索か?」

「ええ。少しでも情報が欲しいですからね」

 元の世界に戻る方法。それに繋がる書物がないかを探っていた。

 あの異次元ホールの正体はこの世界でも他の世界でも未だ正体を掴めていない。書物だけでは何の情報の足しにもならないだろう。


 だが、何も頭に入れないよりはマシか。

 あまりに稀有な可能性にかけて、この世界の事を調べ上げていく。一つでも多く、ヒントを仕入れようとカルラは集めた本を手に、中央の広場へ向かう。

「……ふむふむ、なるほどね」

 聖界アウロラのルーツから読み上げる。

 白亜紀、古代文明、戦争時代。地球に似たような歴史こそ刻まれているが、魔法や異能力の存在もあって、その歴史は超常的なものがほとんどだ。

 偉人に関しても超人レベルの伝奇ばかりが残されている。まるでライトノベル小説を読んでいる気分だった。

「魔法を生み出した賢者サマは国という文明を作って滅んだ。それ以外の英雄たちも歴史を残していったもんだねぇ」

 読めば読むほど面白くなっていく。そこらの少年漫画と同様の熱い伝奇にカルラの心は自然と踊っていた。

「俺も魔法が使えたりしないかねぇ。こう、大将みたいに炎をバーンと放って敵を滅却したりとかー、腕からビームを出して敵を塵にしたりとかー、口では説明できないようなトンデモパワーで敵を殲滅したりとかー」

「殲滅以外に夢はないんですか、このヒーローは」

 敵を倒すことにしか集中できない戦闘脳にシルフィは呆れるばかり。

「そういうシルフィさんは何をお読みで?」

「その賢者サマのレポートの考察書物です。アウロラ以外の世界の存在について語っているようですが当時はあり得ないと馬鹿にされて、その後に笑い話になるだろうと面白半分でそれを本にしたようですが……今頃、この賢者サマを馬鹿にした連中はさぞ青ざめてることかと思いますよ」

「ぷっはっはっは!! 逆に笑い話にされちまってるですねー! うけるーーッ!」

 半ば侮辱の形、商売道具として売り物にされたというのが早い話か。当事者はどのような気持ちだったのだろうか。

「図書館では静かでな」

 少しずつ声が大きくなりつつあったカルラをアキュラは注意する。他の客への迷惑もそうだが、変に視線を集めるのも恥ずかしいのでやめていただきたい。

「大将は何を?」

「そこで売ってあったフリーペーパーだ。便利屋っていうのは情報が多い方が動きやすい。少しでも最新の知識を詰めこんでおくのさ」

 フリーペーパー。要はコンビニなどで売っている新聞のようなものである。

「大将は勉強熱心ですねぇ! 自分も頑張らないと!」

「カルラ、後半から文書を読むたびに『行け! ぶっ飛ばせぇ!』って呟いているのは気のせいですか? 完全に漫画気分で読んでますよね?」

「少年心をくすぐる歴史が多いこの世界が悪いのです」

 自分の勉強の出来なさは棚に上げるカルラ。全く話が進みそうにない。

 こりゃあ元の世界に戻るのはどれだけ遠い未来の話になる事か。今の状況を全く深刻に思っていないカルラの能天気ぶりにシルフィは頭を痛めていた。

「さて、次の本はと」

 読んだ本を隣の席へ。いつの間にか複数冊の本が積み重ねられていた。

「カルラ、本を重、」

「そこの客人。本を重ね過ぎだ」

 シルフィが注意するよりも先に……別の客がカルラに注意を入れる。

「万が一にでも倒れたらどうする。この本は貴公のものではない。納品物に傷をつけるつもりか」

 騎士だった。規律を重んじる一人の騎士に説教される。

「おっと、申し訳ありません……って、アレ?」

 騎士相手、さすがに口答えはしないほうがいいか。素直に謝った方がいいなと目を合わせた後、カルラは何かに気づく。

「おじさん、どこかで……」

「むっ、貴公らは確か」

 そうだ、この騎士とは初対面ではない。

 ついさっき、この男とは出会っている。


「約束の時間。んで、指定された席に現れた」

 腕時計を確認し、アキュラが呟く。

「とんだ、めぐりあわせだな」

「……そうか、貴公らが」

 妙に話が進んでいく。

 カルラもシルフィも、その席についていた人物を前、話を理解している。その騎士が誰で、何の用事でそこにいるのかを。


「ひとまず、名前を聞こうか」

 依頼人の名前を確認する。

「ハルベルト。メージで自警団をしている」

「……アンタで間違いないな」

 その男の名前は紛れもなく”クライアント”の名前。

「フリーランスの面々で、間違いないのだな?」

 カルラ達を庇うために粗暴なセレブへ一言申してくれた、あの騎士であった。

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