タイトル.09「アウトロゥ・ブラッディ・サースティ(後編)」
自分の身は自分で守れ。そんな世の中だが、助け合いも必要だ。
カルラとシルフィは互に背を預け、それぞれ突破口を見出そうとする。どれだけ数がいようが……ただのゴロツキに負ける程度じゃアキュラに笑われる。
「へっ! これだけの数を相手に女子供一人でどうする気だ!」
「全部引っ剥がして売りさばいてやるぜ!」
異種族を人間どころか売り物としてみる外道ぶり。男たちはナイフや金づちなどの凶器を片手に一斉に突っ込んでいく。
「おっと、女だからと甘く見ては命取り!」
荒々しく攻撃を仕掛けようとする男達にカルラがさっと警告。警告とは言っても、男達には聞こえないくらい小声で喋る嫌がらせ。
「<
少女は爪を突き出す。
「<
見えない何かが。少女の爪の先から現れ、虚空を歪ませる。瞬間、男たちの体が浮き上がる。風だ、荒れ狂う暴風が男達に牙を剥く!
「なっ、なんだぁ!?」
「うわぁああああ!?」
何が起きたのかも分からない男たちはそのまま宙をもがきながら吹っ飛んでいき、遥か先にある下水道の川へと石ころのように落ちていった。
「何処へ行ってもこんな人はいるものですね」
下品で世俗。シルフィはあまりに下衆な輩を前に両手を組んでそっぽを向く。
「天罰です。顔も見たくない」
二度と顔も見たくないという意思表示であった。無礼にも程がある挨拶をする人間となど話す口もない。
同僚として仲良くするつもりもコキ使われるつもりもない。堂々とした敵対宣言で先輩達を圧倒してやった。
「……リーダーと仲間にここまでやっておいて、タダで帰れると思ってんのか?」
「御挨拶なのでしょう? 挨拶をしたら挨拶を返す。俺はごく当たり前の事をしただけでございまして」
礼儀には礼儀、無礼には無礼。
ヒーローらしいかと言われたら分からなくなるが、こんなことされておいて黙っていられないのが彼の性分であるということは分かった。
「縛り上げてやる!」
ナイフに鈍器だけではない。中にはチェーンソウなんて厄介なモノを振り回す輩もいる。礼儀の欠片も残っていない乱暴っぷりであった。
飛び込んでくる。ガキをバラバラにしようと。
ここまでコケにされて黙っていられないのだろう。
「……<
挨拶が来た。ならしっかり挨拶を返さなければ。
カルラは自身の刀、鞘に収まっている村正へと手を伸ばす。カルラの手が村正に触れると再び赤い輝きが放たれる。
「よいしょ、っと」
「……ん??」
途端、腕がふわっと村正から離れていく。触れたのかと思いきや、刀を抜かなかった。まさか勝負を諦めたのかとゴロツキ共は思う事だろう。
「……ぐぎっ、へげぇえッ……?」
男達は一斉にその場で倒れる。
腹が重い。鈍い痛み、ドスを叩き込まれたような感覚。瞼が重くなっていく、何をされたのかもわからないまま気を失っていく。
「<
否、カルラは勝負を諦めたわけではない。むしろヤルき満々。
「ヒーローはメチャツヨなんですヨ。おわかり?」
彼がやったのは……超高速の居合切りだ。
刀を抜き、敵を斬り捨て、即座に戻す。その間、わずか0.4秒。
たった一回の斬撃でカルラはゴロツキ達を一掃してみせたのだ。
「さぁ、次は何処から、」
「鉄砲だ! 近づいて駄目なら、遠くからやっちまえ!」
まだ攻撃を仕掛けていない連中は拳銃を構え始めた。近距離戦なら勝てないと悟って遠距離攻撃へシフトしたか。
「って、ちょいちょいちょーいッ! ストップ! ストーーーップ!? 男なら素手で勝負しなさいよ!?」
まさかのチキン戦法に悲鳴を上げるカルラ。両手を突き出しやめてくれと必死のアピールである。さすがの彼も無数の鉄砲相手にはお手上げといったところか。
「……なんてっ!」
と思いきやどうだろうか。カルラは手に持っていた刀をブーメランのように思い切り投げつけたではないか。
「ぐはっ!?」
拳銃を構えていた複数は飛んできた刀の直撃で一斉に意識を失う。ちなみに触れた刀は全て峰打ち。致命傷は与えず気絶のみで抑えている。
「馬鹿め! 武器を手放したら、アイツは丸腰で、」
「よっと」
武器を手放したら丸腰。しかし、そこらの抜かりも彼にはない。
「何が、丸腰ですって?」
“地面に転がったはずの村正は、いつのまにかカルラの手元に戻っている”。
一人で勝手に動いたのだ。カルラがくいっと手を捻ると、それに合わせて村正も宙を浮いて戻ってきたのである。
「なっ!? イリュージョン!?」
「いやいや、驚くことではないでしょう」
呆れたように手を振るカルラ。
「ちゃんと武器は手元に戻るよう仕込んでいますって。コイツは俺の代名詞なんですから」
刀は目に見えないコードで繋がれている。割と長めのコードな上に頑丈なのか乱暴に引っ張っても千切れる様子はない。
「遠距離相手にもこうして刀を投げつけることで窮地を脱出して見せる秘技。<
あっという間に全滅。たった二回の行動でゴロツキなんて殲滅する。
「刀は男のロマン! 刀一つで戦場を駆け抜ける侍魂を見せてやりたいでしょう!」
残すはナイフ片手に威嚇を続けているリーダーのみになった。
「こ、コノヤロ……ッ!」
「どうっすか、先輩?」
虚勢を張るよりも前に、カルラはゴロツキのリーダーの眼前に。
「楽しんでるぅ~、よっ?」
ニヤついた表情。最高に楽しい表情で最後の挨拶。
腹に一発。手加減なしに殴り込みを入れてやった。タバコの仕返し二発目だ。
「ぐっ、ふっ……」
仲間達はやられた、残りは瀕死のリーダーがただ一人。食らった腹パンで無様に悶え苦しむ。
「ひぃいいっ……、バ、っ、ばけものだっ……!!」
傷ついた部下達の事などどうでもいい。ここで意地を張っても何をされるか分かった者じゃない。実力を思い知らされた男は尻もちをついたまま後ずさりをしていく。
逃げなくてはならない。全力でその場から退避しなくては。
「お、覚えてやが、」
「何処へ行く気だ?」
しかしその退路。何者かによって塞がれている。
「やれやれ……売店でタバコを買ってから報告に行こうかと思えば騒ぎが聞こえてさぁ。何の祭りかと思ってきてみれば」
小柄な体。動きやすいアグレッシブな衣装に身を包む少女……いや成人。
「なんだ、泣き虫ギュウゲンじゃねぇの」
報告に行っていたはずのアキュラが立ちはだかっていた。
ギュウゲン、どうやらこの男の名前らしい。名前を呼ばれた本人はアキュラを前、今まで以上に震え始めている。
「オレに勝てなかったからって、部下の方に手を出すなんてな……そいつにもモノの見事にやられるなんて恥ずかしいもんだね。ママの代わりに慰めてやろうか?」
「こ、このぉお……!」
ギュウゲンは起き上がり、挑発を仕掛けるアキュラに拳を鳴らす。
「リベンジするか……もう一度、その頭と自慢のジャケットを燃やしてやるよ」
「くそったれガァアア!!」
メリケンサックのついた腕をハンマーのように振り下ろした。
「ガキのように唸りやがって……燃えな」
燃える右腕。
目にも見えぬ素早い動きで、男の真横を通り過ぎる。
「<
拳から、炎が消えていく。
蝋燭の炎を消す様に、指先に残っていた炎に息を吹きかけた。
「うっ、ぐ……」
腹に熱い一撃。そしてボロボロだったジャケットは全焼。見るも無残な姿になって倒れてしまう。
「普通だったらビビって外には出ないもんだがな。二人揃って一時間も経たないうちに外に出るなんて、イカれてやがるぜ」
困ったちゃんを見るような目でカルラ達へアキュラは視線を送る。
「……だから見込んだんだがな」
お前達が言う程物騒なところではない。実力的な意味で。
とはいえ、酷い目に遭ったのは事実。カルラもシルフィも苦い顔だった。
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