タイトル.08「モグラのアナグラ(後編)」
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「とまあ、説明の通りだ。基本的には中で過ごしてくれ。外うるさいし、渡したスケジュールの時間には整備員が入ってきたりで落ち着かないとは思うがそこは我慢してくれ。保管庫にしまってあるやつ以外のメシは好きなだけ食べていいからよ」
数分後。ガレージへと戻ってきた直後、次の出発までは艇の中で過ごす様にとアキュラに指示される。
「確かにこりゃあうるさい……ウチの近所の工事もガタガタうるさかったけど、これより酷くはなかったなぁ」
フリーランスは防音対策こそしているものの、どうしても音が中に漏れてしまう。安眠できるかどうかが気になるところ。
「アキュラさんはこの後なにを?」
「依頼主へ報告だよ。依頼通り、『胡散臭い企業の全貌を掴んだのちに崩壊させました』ってね」
「え……?」
アキュラが受けていた依頼。それはあの悪徳企業の用心棒であったはず。しかし、その企業が敵であったかのような言い方だった。
「腕のある便利屋は産業スパイもお手の物ってことですか」
「まぁ、取引の証拠掴むのに時間かかりすぎたがな」
組織の悪態を掴む。だとしたら正面から突撃するよりは時間をかけて内側から探るのが得策。このアキュラという女、ガサツな性格に見えて意外と利己的。
「あと、何処かの誰かが大暴れしてくれたおかげで後始末大変だったんだよな」
「あはは……何をおっしゃいますやら……」
カルラは誤魔化すように笑って空を見上げる。彼が介入したタイミングはよりにもよってアキュラが行動を起こそうと計画していたタイミングだったのだろう。
おかげで少しばかりスケジュールが歪んだらしい。軽い愚痴だった。
「……」
シルフィは黙り込んだままアキュラを見つめる。
「まぁ、前にも言ったが許してもらおうとは思ってねぇ。オレは金の為に働いていた。お前達の事情は特に考えずな」
便利屋だから、関係者以外の他人の都合などどうでもいい。
「……ただ、悪かったとだけ、言っておくよ」
その直後、素直な謝罪。
意外に正直者なのだろうか、このアキュラという女は。
「俺達をこんな怪しい場所に連れてきたことに関しては謝罪なしの方向で?」
「おいおい、だから何度も言ってるだろ?」
アキュラは長話へと突入する前に背を向ける。
「ここはお前達ほどの腕なら、物騒何てもんじゃないさ」
苦し紛れの言い訳にしては、真っ直ぐで後ろめたさを感じるようなトーンではない。嘘をついているわけではなさそうだ。
見た感じ。このダウンタウンは明らかに怪しさ全開で物騒だというのに。
「そういうわけだ。さっさと報告を終えて次の依頼を探してくるよ。だからココで待っておいてくれ」
アキュラは何か思い出したかのようにポケットの中に手を突っ込み、クシャクシャになった紙切れをカルラの元へと投げ込む。
「このシマの地図だ。どうしても買っておきたいものがあったら印のついてるトコに行け。ある程度は置いてあるはずだ」
報告のため、アキュラはガレージから離れていく。
「まぁ、お前等の事だから大丈夫だとは思うが……出来る限り、いや絶対に二人で行動しとけ」
物騒ではない。の一言の次にまた警告だ。
本当に大丈夫なのかどうか。二人は不安に思いながらもアキュラの背中を見送った。
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-----数分後。
「いやぁ、改めて見直してみると物騒な街。まるで流刑地だ」
外に出た。一時間も経たないうちにカルラは外に出た。
タバコだとか飲料水だとか買い足したいものがあるから外に出たわけではない。そもそも彼はこの世界で買い物をするための通貨を持っていない。
となれば何故外に出たのか。その理由は簡単だ。
「カルラさん待ってください!」
単なる散歩。
これからお世話になるであろうこの街を見回しておきたいと思っていたところだったのだ。
「一人で行動したらダメって言ってたじゃないですか!」
アキュラの言いつけを守るためにシルフィも彼を追いかけてきた。
「一緒に歩いてたら、スーパースターの俺っちとデートで熱愛報道だとか言われちゃいますよぉ~? いいんですかぁ~?」
「そうやってからかっても着いてきますからね」
「生真面目ェ~」
ジョークに対しての返しとしては実につまらない。
アルケフの族長おじいちゃんの言う通り、本当にマジメでプライド高くて頑固なのだろう。カルラにとっては苦手な性格の相手である。
「……どう見ても危ないですよね。この街」
見渡す限り怪しい人々、掃除やケアも全くされていない公道や建物。空は見たこともない真っ黒なガスのせいで悪循環の曇天が出来上がる。
カルラの言う通り、まるで流刑地。いやそれ以上に環境が悪い。こんなところをフラついて当然何も起きないはずもなく……。
シルフィの言う通り、一人で行動するのは控えるのが普通だろう。
「うちの大将が危なくないって言ってたんです。じゃあ、大丈夫でしょう」
「そうは言ってましたけど、でも」
印のつけられていた方向とは別の場所へ。
彼等にとっては未知の無法地帯。お化け屋敷にも似たスリルに震えながらシルフィはカルラに引っ付く。何も起きないでくれと祈るばかり。
「おいおい」
「そこの兄ちゃん達」
溺れるような緊張感。その不安は早くも的中するわけで。
「見ない顔じゃないか。えぇ?」
(き、きたぁあああーーーーーッ!?)
溺死は近い。
カルラとシルフィは瞬く間にガラの悪い連中達に囲まれてしまっていた。
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