タイトル.07「暴圧世界 アウロラ」


 アキュラの小型飛空艇は問題なく運航中。

 この艇は彼女の仕事場に向かって一直線というわけだ。


 二人をボディガードとして雇う為、一度二人の名前を組織に登録する必要がある。完了した仕事の報告がてら入社手続きというわけだ。


「へへへ……そろそろ、いいだろ?」

 飛空艇のレクリエーションルーム。食堂として使用している一室で騒がしい声が聞こえてくる。カルラの声だ。

『ご主人。まだ一分半しか経っておらんぞ』

 沸き立てのお湯の入ったポット、割り箸で蓋をされたカップラーメン。それを前にテンションを上げている。


 カップラーメン。さほど珍しい代物でもない。しょうゆ味のレギュラーなもの。

 彼がこうもテンションが上がっている理由はただ一つ。この世界に来てからは遭難的立場だった彼はスリを繰り返しては飲み屋で暴食暴飲を繰り返した。

 こんなインスタント品を食べるのは実に久々。こちらの世界にも存在していたことにテンションを上げている御様子。


「まだかまだか……ぎゃぁあ~、待てねぇ! オープンしてやるッ!」

『ご主人。まだ二分半しか経っておらんぞ』

「三十秒も変わらないだろ! 誤差だよ、誤差!」

 誘惑に負けたカルラはカップラーメンを貪り始めた。

「あぁ、最高……故郷の味ぃ……!」

 濃厚なしょうゆ味。名称不明の肉。やや硬めの麺。元いた世界以来の懐かしい味を涙ながらに堪能していた。

『故郷の味がインスタントとは社畜丸出しだな』

「実質、誰もが認める社畜だったじゃん? 世界に股にかけていたビジネスマンだったんだぞ、俺っち達」

『まぁ、ワールドワイドであったのは間違いない』

 料理漫画でよくありがちの蕩ける表情でカルラは昇天しかけていた。スマートフォンから聞こえている謎のツッコミを軽く流しながら。


「……」

 シルフィは騒がしいカルラを他所に空を眺め続けていた。


 空のワームホールは今日もある。

 宇宙にも思える不気味な異次元空間がパックリと見えていた。


「一つ質問しても、よろしいですかね?」

 異世界人を次々と放り出しているワームホール。

「……ワームホールの真下にある”アレ”は一体?」

 それとは別に視線を釘付けにするモノが存在する。



 空飛ぶ土盤。その上に巨大な城のような建造物。まるで遺跡だ。

 しかし古来の空気を匂わせる建造物にしてはあまりにも場違いな武装の数々。

 空飛ぶ遺跡の周りを囲む謎のリング。リング周りには多くの砲台。

 空飛ぶ要塞、と言えば話が早いか。カルラがいた世界ではまず見かけることがなかった非科学的建造物の説明を求めた。


「アレは【天空城アトラウス】……今は【空中要塞アトラウス】ですがね」

 最初はファンタジー感溢れる名称だった。しかし、言いなおされるとそれは物騒極まりない兵器らしきものとなる。

「バカでかいキャノンまで引っ付けて……あんな男のロマン引っ提げている理由は一体何のため?」

「あのワームホールから降ってくるのは人間だけじゃないんです」

 別の世界から訪れた者達があのワームホールから現れる。しかし、この世界に降ってくるのは何も迷い込んだ生命だけではない。

「別の世界の建造物だとか、ガレキとか。隕石にも似たようなモノもあそこから現れて落ちてくるんです」

「うわっ、なんと……この世界はガラクタ流星群も天気に含まれるのですかい」

「流星群なんて綺麗なものじゃないですよ。空から落石注意なんてフザけてるというか……アトラウスのキャノン・リングは、その害を焼き払うための兵器なんです」

 あのキャノン砲は空より降り注ぐ異物を微塵も残さず消滅させるための武装兵器。この世界を守るために用意された最終防衛兵器というわけだ。

「何か、見た感じ世界遺産感あるんですが」

「ええ、元は遺跡……いや、アレが何なのかは判明していないんです。この世界が誕生した頃から存在してて、どのような原理で飛んでいるかも分からない。ただ、私達アルケフが身に宿す魔力と同じものが、あの遺跡から溢れているんです」

 謎多き建造物。その全貌は今も明かされていない。

「アレはこの世界を生み出した神様の居城だったんじゃないかって言われてます。それを改造して今はあんな要塞に」

「バチアタリというかなんというか……誰か住んでるんです? アソコに?」

「誰もいませんよ。あの兵器は遠隔操作で動かしているみたいです……あそこは神聖なる場所として、長く人間が足を踏み入れないようにと警告されていますから」

「好き勝手改造しておいて今更って感じがするけども」

 古代遺産を兵器に使う。利用できるものは何でも利用する。

 転がっている石は飛び道具にもなるし、ガラスも刃となる。利用の仕方次第ではどのようなガラクタも景色も兵器になる。相も変わらず恐ろしい発想だ。

 

「ワームホールといい、要塞といい。太陽を塞いじゃったりしないもんですかね?」

「その時はアトラウスが光を放って世界を照らしてくれるんです」

「この世界には必要不可欠なものってワケですかい……まさしく人類最後の砦」

 カップラーメンのスープを飲み干し、この世界のルーツを聞き終える。

「ありがとうございました! 授業代は肩でも揉めばよろしいですかい?」

「セクハラで訴えるので、やめてください」

「ちぃ~っ、防御の固いっ!」

 カルラは笑いながら、カップラーメンの容器をゴミ箱に放り込んだ。


「もうすぐ着くぞ。準備しろ、お前ら」

 ちょうどいいタイミング。目的地も見えてきたようだ。

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