=EPISODE.02=『DANGER BOILER』

<第2部 プロローグ> ~とある者の記憶~


「おい……俺たち、どのくらい歩いた?」

「時計も壊れたし、本部とも連絡も取れない……クソッタレ! 俺達の悪運もここまでってワケか!?」

「諦めるなっ! とにかく走れ、進め! 何かが、誰か見つかるはずだ……!」

 兵士達は熱気で蒸れた戦場を駆け抜ける。

 何処を見渡しても廃墟と化した建造物、廃棄処分された戦車や戦闘機、そして四股を捥がれた人型兵器の残骸。

「俺達はどこまで! この地獄を走り続ければいいんだ……!?」

 足元は他の兵士達。軍服を纏う男達の死体でカーペットが出来上がっていた。

 まるで泥だまりのように。進むたびに赤い雫が飛び散る。鼻もイカれる腐臭が漂う。視界に入るすべての風景に、生命の跡形は一つ残らず消えている。

「体が、頭がっ……駄目だ、何も考えられなくなってきた……!」

「肩を貸してやる……ッ! ほらっ、こっちにこい!」

 一人は弾切れのマシンガンを手に失った片目を抑える。

 もう一人は衣服を裂いてむき出しになった傷を晒しながらも懸命に続く。

 最後の一人は弾丸を残したマシンガンを片手、麻痺した片足をひきずっている。


 進んでいく。

 どこまで進めばいいかは分からない。


「……待て! 誰かいるぞ!」

 地獄絵図の中。

 剣を持った男が一人、戦場の真ん中にたたずんでいるのが見えた。

「生き残りかっ! 助かった!?」

「おい! お前も生き残りなのか!? 本国と連絡をとれているのなら、俺達を!」

「聞こえているのか!」

 兵士達が、一人の尖兵へ必死に助けを求める。

 ずっと空を見上げていた。濁った青空に対し何かを呟き続けていた。

「……なぁ?」

 反応が戻ってこない。

 一人だけ。何かに気づいた兵士だけが、震えながらマシンガンを剣士に向ける。

「こいつって……もしかしなくても……!!」

「……っ!!」

「まさかっ!?」

 兵士達は我に返ったように、それぞれの武器を構える。


「お、お前は-----」


 それが、男達が見た最後の光景だった。


 かろうじて、懸命に痛みに耐えた。

 しかし、その果ての景色を見た男達の意識はものの一瞬で黒に染まった。

 目の前の世界が黒から赤へ。体の奥底から噴き出す雫は漆黒にも近い彩り。次第に手足と首の感覚すらも、消えてなくなった。


「……俺に会ったのが運の尽きだったか」

 兵士の一人は体を真っ二つに引き裂かれ。

「それとも、兵士として現れたのが悪かったか」

 一人の軍人は首を脳天から貫かれ。

「いいや、どれも違うのさ」

 一人の軍人は、心臓を”拳”で鷲掴みにされた。

 剥き出しになっていた傷口に突っ込まれた拳。人間のそれとは思えない握力で肉の壁を貫き、臓器を果実のように握りつぶす。


「弱く生まれた、お前達が悪いのさ」


 返り血を浴びる剣士は愉快気に笑う。

 夕暮れを背に立ち荒む男の姿は……まさしくであった。



 

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