<第1部 エピローグ> ~ようこそ、異なる世界の来訪者達よ~
「……そうか、わかった」
とある一室。通話が終わる。
「どうかなさいましたか?」
「街の方で一企業の爆破事故が起きたらしい。犯人は行方を掴めず、だそうだ」
「また、ですか。やれやれ、この街は問題児の多い事で」
丸渕メガネに巨大なハット。スーツ姿の男が携帯端末を取り出した。
ネットのホットラインは既にそのニュースの件で一杯だ。
監視カメラは全て破壊されているために証拠が残っていない。目撃証言のみが頼りで困っているようだ。
「ふむ、爆破されたこの企業。どうやら裏で奴隷商売や薬物・兵器開発などに手を染めていたご様子。建造物の外で発見された数台のパソコンや携帯端末から判明したようですね」
同時、あの企業が裏商売に手を染めたことも世間に広まっていた。
「企業爆破も悪人の陰謀であるかもしれない。何かまた大きな事が起きる前に片付けなければ」
「承知いたしました。では、私はこれにて」
一礼をし、丸渕メガネの男はその場を軽快なステップで去った。
「この街にも無法者が増えていくのですね……神よ、どうか罪人に贖いを」
「市長さん。命令さえしてくれれば、いつでも動くけど?」
部屋の片隅で二人の成人男女が声をかけてくる。
「おう、俺だっていつでもいけるぜ!」
三人用のソファー。それを堂々と一人で占領する大男も同様に出撃の準備の提案を持ちかけた。
「たかが一件の爆破事故だ。お前達が動く必要はない。ポリスに任せておけばいい」
「随分と呑気なものですね」
客用のソファーに腰かけているのは大男以外にもう一人。
紫色のドレスを着飾った白い長髪の女性。この街で最も高い権限を持つ男に対し、それといった配慮もない口ぶりで話しかけていた。
「まぁ、いいですけどね……私も失礼します」
ドレスの女性はさっと立ち上がると携帯で時間を確認し、退室する。
「私はここにいる皆さんと違って、とても忙しいので」
イヤミともいえるような言葉を残して。
(目撃者ゼロ。運よく企業の汚点だけが残されている。事故ではないのは確か)
市長と呼ばれた男は窓から街の風景を見下ろしている。
(この街では珍しい事ではない。下に任せればいい、か)
一つの事件が起きようが……街は何事もなく、いつも通りに賑わいながら時間が流れていく。
異世界アウロラ。中央都市ロックロートシティ。
天の座に就く者達の判断は正常か、或いは冷酷か-----
彼等の毒牙の矛先はまだ、変革の予感を見せる異世界人には届いていない。
<第一部 完結>
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