タイトル.06「異世界冒険レッツラゴーッ!」


 翌日、雨雲一つない晴天。

 小型飛空艇フリーランスは何の問題もなく飛行中。


「おーっ!? この世界にもあるのなァ! 全自動円盤掃除機ッ!!」

 艇の中には空の旅をサポートする自立AIが幾つも存在する。

「ロボットもこんなに一杯。やべぇよ、男のロマンてんこ盛りかこの艇」

 艇の操縦に制御など全般を担当する人型パイロットAI。

 それ以外にはカルラの周りをネズミのように駆けまわっているお掃除ロボットや、必要なものを指定された場所から持ってきてくれる飛行型AI。

「やべぇ天国……乗って良かったかも、この話……っ!」

 生活をサポートするロボット軍団。SF映画の世界に入ったような感覚にカルラは目を輝かせている。ヒーローものが好きだという彼なのだから尚更だろう。


「……」

 そんな中、一人静かに窓から外を眺めるシルフィ。

 フリーランスに乗り込むのは艇の持ち主であるアキュラと複数のAI。


 そして、だ。


「故郷が恋しくなったか?」

 艇の操縦は全てAIに任せている。

 よほどのゲリラ悪天候や、空の暴走族の奇襲でも来ない限りは人の手による方向転換は必要とならない。手ぶらであるアキュラが暇つぶしにシルフィに問う。

「いえ、そういうわけでは」

「ワームホール、か」

「……ええ」

 これからの旅。それはカルラの為でもある。

 この世界と異世界を繋ぐ謎の穴……空に度々現れるあのゲートの謎。

 それは今も、この世界は掴めていないのだ----


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 -----数時間前、アルケフの里での事だ。

 再びシルフィは旅立つこととなる。恩人であるカルラ、そして二人を用心棒として雇う事となったアキュラと共に


「また行ってしまうのだな、シルフィ」

「うん、下の世界の事をもっと知っておく必要があるから……一週間に一回は伝書鳩を送るね。長旅になると思うから、心配させないように」

 隠れ里に住んでいるにもかかわらず外の世界に出る理由。

 世界で今起きている環境の事を知っておく必要があるからだ。どこかで起きているかもしれない戦争の状況、自然を肥やしとして始まる新たな都市開発、全世界の政治の動きの監視などなど……知る必要があることは盛りだくさんだ。


 ずっと隠居生活というわけにもいかないのだ。この里を、アルケフという一族を続かせるためにも。外の人間との交流は切ることは出来ない。

 シルフィは今一度、その責務を得て、旅に出る事を一族に伝えた。


「ワシは心配じゃよ。また街での事があろうものなら」

「今度は油断しません。それに……今回は腕のある用心棒さんがついてきてくれますから。自称ですけど」

 間違ってもヒーローとは言わない。乙女心を平気で傷つける奴をヒーローとなんて呼んであげるものかという意地の現れであった。

 族長の言う通り負けず嫌いなのかプライドが高いのか、いつまでも引っ張る一面が子供らしい。


「お任せを。コブラが噛み付いてこようがコンドルが飛んでこようが! ライオンやハイエナだって斬り捨て! 最後にはドラゴンが相手になったって、お嬢様を守ってみせますよっ!!」

「いや、ドラゴンはさすがに無理だろ」

 どうやらこの世界にドラゴンは存在するらしい。流石は近代文化+ファンタジーの超異次元異世界。ドラゴンはどの世界でも強敵らしい。

「やってみなければ分からないでしょ〜。人生はトライの連続。当たって砕けろの精神ですッ!!」

「砕けてんじゃねぇか!」

 軽くカルラは背中を小突かれた。

「負けませんよ。どんな奴が来ようと、俺は最強無敵なんですから」

 ああは言ったが負けるつもりは更々ない。それだけは断言するつもりだそうだ。

「軽口の奴はあっさりくたばるか、存外生き残るかのどちらかだな。後者であることを願っておいてやるよ」

 アキュラはカルラのよく分からない自信を笑っていた。

 世の中、口が軽い男は余程の世間知らずか幸運の持ち主かのどちらかだ。ここまで生き残ってるとなれば幸運にも実力にも恵まれてるに違いない。賭けるべきだろう。


「それじゃあ、行ってきます」

 シルフィは十五でありながらも指で数え切れない数と時間を旅してきた。最高のサポートとなるのは間違いない。頼りがいは存分にある。

「気を付けるのじゃぞ……カルラ殿、娘をどうか」

「おまかせくださいなっ。こちらこそ、娘さんにお世話になりますっ!」

 ビシっと敬礼。族長からの願いを聞き届けた。

 村に別れを告げ、彼等は新たなる旅に向けてフリーランスへと戻って行った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 アキュラが提示した報酬。それは彼女の仲間となる事。


 便利屋は数名で活躍する輩が多い。

 アキュラは一人で活動し続けてきたようだが……ロックロートシティでの想像以上の仕事の規模の大きさや難易度を前、一人での行動に限界を感じ始めていたようだ。

 新たなクルーを欲していた時に見どころの良い二人が現れた。立場など雇いやすいという面もあって丁度が良かった為にスカウトしたという事だ。


 シルフィはアルケフの中でも相当な実力者。

 カルラの実力も申し分ない。それ以上言う事はないだろう。


「俺達の体がどうとか言うもんだから萎れるまでコキ使われると思いきや随分と好待遇ですなぁ? 一周回って怪しくなりましたぞ。良いことづくしのみ記載されたブラック企業の求人みたいで」

「見知らぬ奴に親切にされるのは不気味だってことは分かるぜ。そこのアルケフも疑ってるみたいだしな」

 見知らぬ人に親切にされて痛い目にあった。

 ロックロートシティの悪徳企業に捕まったアルケフたち。その油断を指摘されたシルフィは顔色を変えてしまう。忘れたつもりはないと睨みつけていた。

「安心しろ。アソコよりはホワイトだと言っておくぜ」

「承知しましたっ。ですが、もし貴方が何か企んででもいたら、」

「そん時は沈めるなり好きにしな。大した証拠もないのに暴れるのだけは勘弁な」

 忠告だけ残し、アキュラは操舵室へと戻っていった。


 彼女は何を思って二人を雇ったのか。

 本当に腕利きとして雇ったか。或いは何か裏があって二人を乗せたか。

 どうであれ、それに関しては少しずつ探っていけばいいか。


「……カルラさん!」

 ふと、シルフィがお掃除AIを追いかけるカルラへ声をかける。

「助けてくれた恩は絶対に返します! 異世界人ディフェレンターを元の世界へ返す方法は今も分かっていませんが……必ず見つけ出してみせます!」

 胸に手を当て、自身の誓いを語る少女の姿。何処までも真面目で健気。


「……本当。生真面目ですねぇ。でもそういうところは素敵ですぞ」

 説教がましいところ。反抗的なところは苦手だが。

 彼女のそういう一面は、心の底から好きになれると断言できる。

「こちらこそ世話になります。シルフィさん!」

 指を鳴らし、愉快に彼女の名を呼んだ。これから旅をサポートしてくれる相棒として。よろしくお願いしますと挨拶代わりに。


「シルフィでいいですよ。呼び捨てで」

「じゃあ俺の事も呼び捨てでお呼びなさい」

「それは考えておきます。敬語は癖なので、どうしても抜けないんです」

「ホンット、生真面目~ッ!!」


 聖界アウロラに迷い込んだ異世界人カルラ。

 破天荒な自称ヒーロー……自分勝手な冒険譚は、ここから始まった。

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