タイトル.05「暴風少女・シルフィ(その3)」
長い長い空の旅。
「ただいま! おじいちゃん!」
永遠のように思えた月日、ようやく少女は故郷と再会を果たす。
「おおぉお……シルフィ!」
指定座標。人間にとっては未踏の地ともなるであろう山奥の地にアルケフの里はあった。族長と思われる老人はシルフィと抱擁を交わす。
ここに来るまでが結構長かった。まず隠れ里ということもあって周りは森林などで覆われていて視認はまず無理に等しい。
しかも一定の距離近づこうとすると風の加護とやらで艇があらぬ方向に飛ばされるために近づけない。諸々の理由もあって遠めの場所に艇を停める。そこからは全員揃って水筒片手の山登りというわけだ。
「おじいちゃん……ごめんね、心配かけて」
「一体何があったんじゃ……ともあれ、無事でよかったよ。シルフィ……」
長く帰ってこなかった一族。その不安もあってか再会を果たす一同の感動はより深いものに。
「くぅ~……感動の再会に涙が止まらないぃ……!!」
カルラもハンカチ片手に大号泣だった。蛇口全開の水道みたいに涙が噴き出す。
「お前は映画を見て周りを気にせずに泣き出すタイプだな。スタッフクレジットが終わるまでは外に出ないタイプだろ」
「飼い犬と飼い主の友情モノとか、ドキュメンタリーには弱いんですよぉ〜」
愛情深い映画には弱いことをカルラは涙ながらに告げる。放映中に思わず声を上げたり、隣の席の人に話しかけたりと迷惑な客タイプである。この男は。
「だから犬じゃありません! 狼ですッ!!」
犬という単語に釣られ、またもシルフィは耳を立てていた。地獄耳。
「むむ? シルフィ、この者達は?」
「そのことはおって説明します」
まず、ここしばらくの間で何があったのか。
予定よりも遅く戻ってきた理由をこれから話す事となる。
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その後、カルラとアキュラは隠れ里に組み立てられたテントで過ごす。話を終えるまではココで待っていてほしいとの事だ。
この村は見た目に反してとても涼しい場所だった。
風の加護とやらなのだろうか。ここへ来るまでの間はサウナにも似た熱帯雨林だったというのに暑さを全く感じない。思わぬ快適ぶりにリラックスする。
「お前、やっぱり
「らしいですよ?」
「なんで、疑問で返すんだよ」
こことは違う別の世界からやってきた存在。アキュラも反応を示した辺り、異世界人の存在はさほど珍しくはないというわけか。
「まだ実感が湧かないだYO。異能力や獣人、化け物に変身する人間だったりとハイファンタジー……でも、ココは俺のいた世界にそっくりなわけで別世界って感じがしなくて。あまりのカオスに頭はオーバーヒートで真っ白寸前でございますよ」
ここ、聖界アウロラはカルラのいた世界とほとんど似通っているらしい。
ビルなどの建造物があちこちで見える繁栄都市、映画や電化製品など科学品、そして程よく見える自然風景などなどなど……異能力という要素が加わりながらも地球と何も変わらない光景。故に別世界に来た感じがあまりしない。
----と、カオスやらかしてたカルラが不安を正直に吐露していた。
「他の奴らも同じような事を言ってたな。地球とやらの世界に似すぎてるってよ」
「俺以外にも地球人はいるって事か……その人たちはどんな反応でした?」
他の異世界人たちはどんな感じだったのか。興味本位で聞く。
「見慣れぬ世界に現実逃避する奴や、発狂する奴がほとんどだ」
「まぁ、自分の知らない映画のような世界に迷い込んだのなら、狂っちゃうのは常人なら当然の反応ですな」
「お前は常人じゃないみたいな言い方だな」
「最強無敵のヒーローだもーん」
はい、そうですか。と言いたくもなる返答にアキュラは眉を歪めた。
「……あのワームホールが出てきたからだ。別世界の住人を名乗る奴らが大勢現れたのは」
空を見上げると、またも見えてくるのは底の見えないワームホール。
「あのワームホールから何度か人が降ってくるんだ。見た目は俺達と同じ人間もいれば、人間とは程遠い化け物まで下りてくる。わけわからない発言をする漂流者達、そいつらはやがて、
「最初は数人だったけど、やがて数が増えていったわけですね。共存とかしたりするんですか?」
「向こうに敵意がなければ歓迎はしてるさ。だが扱いが良いかどうかは場所による。あの街みたいに奴隷にされるトコもあるし、家族のように出迎えるトコもある」
ここへ運悪く迷い込んだ人に待っているのはその後の人生を左右するくじ引きというわけだ。天国から地獄か、或いは地獄から天国。天国から天国の可能性もあるし、地獄から地獄の可能性もある。
異世界転移とやらは小説の世界で聞いたことはあった。だが予想よりもハードな世界にカルラの夢は若干壊れかけていたのは言うまでもない。
「んで、お前のいた地球って世界はどんなんだったんだ? んで、お前はどんな仕事をしてたんだよ?」
「おお、聞きたいでございますか、俺の武勇伝?」
「まだ時間ありそうだし、暇つぶしにな」
彼の言う地球とはどんな世界なのか。あまり地球という世界から来た輩とは話したことのないアキュラは興味があった。
それともう一つ。彼はどのような仕事に就いていたのかも気になる。異能力者相手にあの実力と体力、気になることは幾らでもあった。
「いいでしょう。幾らでも話しましょう。それは二十年前……俺は故郷の中央都市の病院で生まれた。そりゃぁもう、赤ん坊の頃から美男子で、看護師のお姉さん達に毎日囲まれて、」
「生い立ちはどうでもいいわ」
聞きたいのはあくまで世界と仕事の話。
「えぇ~、ここからが面白いのにぃ~?」
「美人の看護婦がどうとかでその後の展開も空っぽなのがよく分かる」
「そう言わずに聞いてくださいよぉ~。俺の伝説は全10部にプラス劇場版と目も離せないエピソードばかりで、」
「長ぇッよ! 映写機でぶん殴ってやろうかッ!!」
この男から地球とやらの話を聞くのは面倒か。
暇つぶしのはずがとんだストレスになった。暇つぶしにはなったが。
「カルラさん、アキュラさん。お待たせしました」
丁度良いタイミングでシルフィがやってきた。
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「乾杯!」
その夜。彼等に用意されたのはヒーローへの宴であった。
仲間たちを助けてくれたお礼だ。どうやら歓迎されたようである。
「カルラさんとやら、わしの孫娘を助けてくれて本当にありがとう。なんと、お礼をすればいいのやら……ささっ、一杯どうぞ」
村長は一族に伝わる酒を注ぐ。
例のくじ引きとやらは無事成功のようだ。異世界転移系小説の主人公みたくチヤホヤされる展開にカルラはご満悦である。
「いやいや、お礼は結構……って、んなことはどでもいいや! ささっ! 遠慮なく、ドンドン持ってこーいッ!!」
上機嫌でカルラは族長と仲間達からの祝福を受け取っていた。というか完全に調子に乗っているのが丸わかりである。
「心は少年ねぇ? クソガキにも程があるぜ」
アキュラは酒の注がれた木のコップに手を伸ばす。
どうやらアキュラも成人は超えているらしい。見た目の割には。
「それよりいいのか? オレなんかも混ざってさ」
「……いいんです」
シルフィも水の注がれた木のコップへ手を伸ばす。
「助けてくれたのは事実ですから。今は悪い人じゃないと信じます」
「もしかしたらまだ企業と繋がっていて、村の場所を教えちまうかもよ?」
「貴方の事をどう思うか好きにしろと言ったのは貴方自身ですよ。それに力の戻った今なら……あんな卑怯な連中にも、貴方にも負けるつもりはありません」
「ハッ、言うじゃねぇか。いいぜ、いただくよ」
酒を口に着けるアキュラ。
飲んで飲まれて大騒ぎ、人知れず行われた宴は……大都会の祭りごとにも負けない豪勢っぷりで盛り上がっていた。
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天空に満月がさし込む深夜。ワームホールは既に夕日と共に彼方へ消えた。
アルケフの一族達は騒ぎ疲れ大半が眠ってしまっている。仲間の情けない姿を横目で笑いながらも、後片付けをする老人と主婦のアルケフたち。
「極・楽・浄・土」
上機嫌過ぎるヒーローらしさゼロの情けない姿をカルラは晒していた。顔は真っ赤、へそを出して地面に転がっている。
これがアルケフにとってはヒーローと呼ばれた男の恥態である。裏表のない人間らしい姿と言えばらしいが……。
「本当、子供みたいな人ですね」
シルフィはそんな彼を見るなり、呆れながらも微笑む。
ああは見えても彼女にとってカルラはヒーローだ。感謝はしてもしきれない。仲間の窮地を救った英雄なのだから。
「……カルラ殿、ちょっとよろしいですかな」
そんな彼へ突如、声をかけてきたのは族長。
「おお、なんですかい、長老さぁ~ん?」
ご機嫌。ベロンベロンに酔いどれ晒しながらカルラは返事をした。
「おぬし、シルフィを嫁に持つ気はないかのぉ」
それは酔っていたのか、それとも本物の感謝なのか。
「「え?」」
族長の発言の後、頭空っぽだった宴の空気が一転した。
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