タイトル.04「熱いハートでイン・ザ・ヘル(その3)」


 押しつぶすつもりが逆に押し返されたモンスターゴリラ。

 途中ガラス棚がクッションにはなっていたが当然抑えきれるはずもなく。部屋中に砂ぼこりとハウスダスト、そして衝撃で飛び散った資料の紙きれの山々が撒き散らされていく。

『お見事だぞ、ご主人』

「人を馬鹿にするとバチが当たるんだぜ。ここ、授業で出るから覚えておくように」

『ご主人、それすっごいブーメラン』

 鼻を鳴らし、胸を張るカルラはとても誇らしげであった。

「ふぅ……俺はスッキリしたぜ」

『聞けよ、コラ』

 ガイドからの正論指摘も一切スルー。ヒーローは細かいことなど気にしないと言い出す始末か。ヒーローなら何でも許されるなんてマッチポンプが通用なんて思うなよと、これまたガイドの溜息が漏れていた。


(ウソ……馬鹿力だけで、吹っ飛ばした……!?)

 何かしらのカラクリを使ったかもしれない。

 だが何か異能力を使ったような仕草は一切見せなかった。この世界において異能力はその人間の存在価値を左右させる絶対な力。それに対し、この男は純粋な力のみで突破してしまったのだ。

(この人、一体何なの……!?)

 シルフィは唖然としていた。あっという間の形勢逆転の光景に。


「というわけで! このカミシロカルラの! あっ、華麗なる大勝利ぃ~!」

 口でゴングの真似事を鳴らしながら、直後歌舞伎口調でカルラは片腕をあげる。

「ふっ、まぁ俺は最強無敵のファンタジスタだし?ヒーローが負けるなんて誰も望んでいない展開だから、その期待には答えますよ! 俺の活躍に惚れたのならチャンネル登録お願いするぜ! あっ、URLはこちらまで! にゃっはっは!」

 期待に添えた活躍を見せることは出来ただろうか?

 何処にいるかも分からない誰かに対しカルラはレビューも求めた。カッコ良いと思ったのなら☆三つで感想お願いしますと口添え!……カッコ悪かったと思ったのなら『そいつはアンチ』だと都合よく片付けてもおいて。


 ながいながーい彼の自慢と宣伝は続きますが、何はともあれ一件落着、



『ご主人。気持ちよくなってるところ申し訳ないが、まだ終わっておらんぞ』

「え?」

 -----その忠告、少しばかり遅すぎた。




「おんどれガァアアアア!!」

 突進。砂ぼこりの霧の中、突如現れたゴリラモンスターの再突撃!

 いつの間にか奴は起き上がっていた! 背中を晒して油断しまくりのカルラに対し、底力に身を任せた奇襲を試みる!

「なっにーーーーんッ!?」

 あれで仕留めきれていなかった。完全に勝ったと思い込んでいたカルラは驚愕のあまり顎を外しかける。

「待て待て待て! シャウトッ!」

 間一髪! その突撃を村正片手に無理な姿勢で受け止める!

「ちょっと待てよYou、待つんだBoyッ!?」

 またも同じ展開に。しかも今度は姿勢が姿勢なだけに立ち直しが困難。

 カルラは再び押し相撲に追いやられ詰められていく。またも背中が真後ろ。プレスされてミンチになる数秒前に戻されてしまった。

「最ッ高に決まってからの、『次回もお楽しみに!』……って締めくくる流れでしょーがッ!? 何、平然と起き上がって何事もなくリベンジを!? さっきの炎のヤツもそうだったけど異世界の人間はそんなに空気が読めないかーッ!?」

 あと一秒でも報告が遅かったら、おそらく下敷きにされていた。いや、下敷きにされる程度で済むのだろうか、この馬鹿力は。


「ウガガガガガッ……!」

 返事が来ない。先の一撃で完全にブチギレたか。今のゴリラボスには理性というモノが存在しないように見えた。

「調子に乗っちゃってさァ……だが、今の俺はフェーズ3! この段階にさえ入ってしまっていれば、何度窮地に追いやられようと問題ナッシング!!」

 再び押し返し、堂々と勝利宣告!

「さっさと反撃して……って、ふぉおおおおッ!?」

 しかしその矢先、カルラは悲鳴を上げる。

 腰からは悲鳴に負けぬ。手首足首も痙攣が始まる

「あがっが……腰がッ……!!」

 さっきまでのスーパーマンみたいな佇まいは何処へ行ったのか。冷水に飛び込んだ後のお笑い芸人みたくガックガクに震えるカルラの姿がそこにある。

『バイタル異常確認。フェーズ3での過労に肉体が堪え切れておらず……はぁっ、ご主人。だからこういう時に備えて、飲んでばかりいないで運動しろとあれほど』

「いつも使ってるモードだったし、多少のブランクくらい問題ないかと思っててぇ……!!!」

『その思い込みの結果がこれだ。反省して悔いよ』

 ガイドの警告。そして再び弱音モードのカルラ。

 状況からして何となくわかる。何やらアクシデントがあったようでカルラはあっという間に再び大ピンチ。

「ツブシテヤルゼェエ……フガァアッ、フガァアアア!!」

「つぶれりゅぅう……ポテトサラダにされちゃうぅううう……!!」

 まずい。非常にまずい。

 カルラの体が事務所の壁に押し込まれていく。コンクリートの壁にヒビが入り始めている。



「どうしよう……このままじゃ……!」

 今、ゴリラボスは怒りで我を忘れて無防備な状態だ。奇襲を仕掛けるチャンスは幾らでもある。

 しかし、あれだけ屈強でビクともしない上半身だ。小石を投げるのは勿論、ナイフ程度のチャチな刃や弾丸一つ通すかもわからない強靭な筋肉である。

 生半可な反撃では一瞬たりとも動かないし、気を引くことも出来ない。

「力さえ戻ってくれば……はっ!?」

 万事休す。そう思った矢先にシルフィはボスの足元へ視線が行く。


 だ。

 この企業全部のロックを解除するマスターキー。体当たりの最中、ポケットにしまってあったソレが落ちたのかもしれない。

「もしやっ……!!」

 シルフィは隙を見てマスターキーを回収し、部屋の隅っこへ置いてあった金庫へと一目散に駆ける。


「ブッコロス……テメェハゼッタイニ、アノ、バケモノタチミタイニ、ツカイマワシテヤルゥウウッゥ!!」

 息を荒くしながら、理性もない怪物はカルラにトドメの追い打ちをかけていく。

「ぐぐぅうう……このカミシロ・カルラ! ここまでなのかァアアーーッ!?」

「グガガガァアアアーーーッ!」

 最後の発狂。最後の咆哮。ゴリラボスは更に一歩前進した。



「……『風よソムエナ』」

 カルラの限界が近づいていたその瞬間。

「『私を、お赦しくださいイメニェド ウオム エソデ』ッ!」

 謝罪、だったのか。それとも祈りだったのか。

 どうであれ、カルラが理解できない言語であったことに違いはない。

 

 しかし、その瞳。

 曇りのない表情で、ゴリラボスの横腹に手を添えるその姿。


 ----シルフィに、先までの恐怖に怯える姿はもうない。


「……ッ!!」

 その瞬間。

 ゴリラボスの肉体は……

「グオォオオオオオオオオ!?!?」

 まるで新聞紙のように。抵抗する事すら許さずブッ飛んでいったのだ。

 会社の壁と防弾ガラスの窓を何枚も突き破り、ついには事務所の外にまで。



「……返してもらいましたよ。私の力」

 事務所の外でノびたボスの姿を前。

 シルフィはを人差し指に差し込んでいる。

「この外道めが」

 直後、人差し指を引っ込め。堂々と中指を突き立てていた。

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