タイトル.04「熱いハートでイン・ザ・ヘル(その1)」
ようやく見つけ出す。シルフィの仲間を不当な手段で労働させる悪徳企業。
あのような労働。普通に考えれば虐待ともなって法で裁かれてもおかしくはない……しかし、彼等はルールギリギリの方法使って、うまく穴をかいくぐり彼らを無賃で働かせているという。
どこもかしこも、ズル賢い企業というものは妙なところで頭が良いモノだ。
カルラが言うに、そういう卑怯者たちはヒーローという職業(?)柄何度も目にしてきたし見飽きたらしい。そういった奴らの相手も慣れているようだ。
しかし、ここまでのモノはそう見ないという。最早、命を使い捨ての消耗品程度に使うくらいのこの光景は。それはカルラが元いた世界との環境の違いなのかどうか。
カルラとシルフィはいよいよ敵の本拠地へと足を踏み入れる。救出大作戦、その第一フェーズのスタートだ-----
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敵の本拠地は何処にでもあるような中小企業の小さな物件だった。
入り口では社員と思わしき男が二名陣取って話をしている。正面入り口はそんな見張り紛いの目も合って突破は困難であった。
「はーい、おまちどうさま~」
オートロックかつ防弾ガラスを施された窓。あちこちに設置された監視カメラ。
別の場所からコッソリ潜入しようにも包囲網が完璧だ。この企業、ある程度パイプがあるのもあって発言力もあるらしい。迂闊な方法は取れない。
故に、正面から堂々と潜入できる作戦を、カルラは考えていた。
「ん、何だお前?」
「頼まれた品の配達に参りました~」
入り口の社員二人が突然の来客に首をかしげている。
(……突入の方法は任せてくれって言ってたけど)
その様子を物陰からシルフィが眺めている。
一体どのような作戦を思いついたというのだろうか。あんな見るからに怪しい奴が堂々と正面から入っても怒られない方法だなんて。
「どーもー! 通りすがりの新人ピザ配達でーす!」
変装も何もない。普段の格好のまま、新品のピザを二つ片手。
現地の配達員に負けないくらいの営業スマイル! 彼はピザの配達員を装って、この正面入り口を突破しようと考えたのだ!
(誤魔化せるかァアアアアッ!!)
シルフィは思った。あまりにも無理がある、と。
そんな単純な方法で通してくれるものかと叫びたくもなる。彼を頼ったのは間違いだったかと後悔の念すら浮かべるようになった。
「ピザ? 誰が頼んだんだ?」
「さぁ? 昼休みって言うにはちょっと早い気がするし」
第一そんな方法、本当にピザ配達員かどうか職務質問された地点でアウトである。
「というかお前、本当にピザ屋か?」
そら来た。いきなりピンチだ。
ここで証拠を提示できなかったアウトだ。持ってるのはピザだけで、それ以外に証拠となる者は一切用意していない。どうするものかとシルフィは固唾をのむ。
「えぇ、ピザ屋ですよ。入社してまだ40秒ですけど」
カルラは笑顔のまま淡々と話し、近くの車のボンネットの上にピザを置く。箱の中からアツアツのピザを取り出し、それをウェイターみたいにお洒落にそれぞれ片手で一品ずつ持ち上げる。シーフードとトロトロトマトのピザ。
「おい、なんで商品を目の前で開けてんだよ。まだ金払ってないのに」
「なんでって、そりゃあ……」
疑問のあまり首を傾げる社員二人にカルラは笑顔で受け応える。
「お前達にピザをアツアツの内に召し上がってほしいから」
瞬間。営業スマイルは本性の悪魔スマイルへと切り替わる。
「へい、おまちどう!!」
「「ぶふぉおおッ!!」」
出来立てのピザを、カルラは二人の顔面目掛けて思い切り叩きつけた。B級バラエティでお笑い芸人が顔にクリームパイをぶつけられるような感覚で。
「ぎゃぁあああ!?」「あぢぃいいいいーーーっ!?」
出来立てともあってチーズの熱さが凶器。飛び散ったチーズは首元や服の中に入ったりと大惨事。濃厚が売りのチーズはそう易々と体から離れる事はない。
「おーーーらッ!!」
直後、視界を塞がれた社員二人の腹部にストレートを一発ずつ。
悲鳴を上げる間もなく……二人は気を失い倒れた。
「そのピザは入場料だ。ターンと食べてくれ……」
くるりと振り向き、シルフィの隠れている裏路地へと視線を向ける。
「どう? 見事な演技だったでしょう? 主演男優賞間違いなし!」
「大根を通り越した何かでしたよッ!!」」
知性も何も関係ない力押し。挙句潜入ですらない。
「……見られてますよね。もしかしなくても」
この一部始終。監視カメラが捕らえていないわけは当然なく。
一斉にこの光景をとらえている監視カメラの山を、シルフィは青ざめた表情で眺める以外なかった。
「んじゃ、突っ込みますよぉ~!」
「あぁもううーーーっ! 頼る相手絶対間違えたァアーーーッ!!」
最早後戻りも許されなくなったシルフィは、企業へ村正片手に突っ込んでいったカルラの背中を追いかけるしかなかった。
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「はい、もう一丁!」
企業に突撃してみたら……機関銃やナイフ、その辺に落ちていたであろうパイプを片手に侵入者を迎撃しようとする社員一同が一斉にお出迎え。
チンピラの集会ですらもっと真摯な対応をするというのに。突然の襲撃者相手に容赦なしの大歓迎がカルラを待っていた。これが異世界での歓迎の仕方か。
「あーだ、こーだと、聞く耳真っ平御免!」
ところがカルラはそんな襲撃お構いなし。素人丸出しの攻撃を次々と掻い潜り、一発また一発と社員達の顔面をブン殴り、気を失わせていく。
「さぁ、握手したい人は順に並びなさい! 二次会ないのでよろしく!」
『戦車に戦闘機、戦艦やら巨大兵器やらとの戦闘を考慮して作られた兵器のコアとしての意見だが……こんな、ならず者集団のカチコミ程度なら、私を使用する必要はないのでは?』
村正のシステムと思われるガイド音声からの素朴なクエスチョン。
「いいやお前は絶対に必要になる。ここは異世界だ! 切り札はギリギリまでとっておくぜ!」
『私を随一のワンポイントとして見てる事に免じて、その見せ場まで黙っておくことにしよう。出番が来たら呼ぶのだ』
コンピューターからの声はぶつりと切れて聞こえなくなった。
やはり、AIにしては人間のように達者な喋りをする。この声の正体、一体何なのかと余計に疑問が深まるばかり。
「ところで被害者ヒロインさん? ここのボスってどこにいらっしゃいます?」
「言い方ァッ! はい、コッチです!」
だが、そんな謎は後にすればいい。解明する機会があるのなら。今は仲間を助けるために一秒でも早く悪徳企業のボスを叩きのめしに行く!
「ここ、だったと思います……ですので慎重に、」
「たのもォッ! 通りすがりの新人ピザ配達でーす!!」
「話をきけぇえ!!」
カルラは鍵の賭けられていた扉を、例の兵器・村正で叩き斬るという強引な方法で突破する。相棒の最初の見せ場がコレって、それでいいのか。
「あん……?」
デスクに腰掛けているのは大柄で褐色肌の男。
「ひっ!」
カルラは思わずビビった声を上げる。
ジャングルのようにボウボウの体毛。ゴツイ顔面とサングラス。何処からどう見ても組長のイメージそのまんまの男が現れ、カルラはビビって声を漏らした。
「……よぉ、お前か。俺のシャバで滅茶苦茶やってるっていう兄ちゃんは」
ドスの利いた声で、メチャクチャな自称ヒーローを睨みつけてきた。
どうやら敵のボスは……侵入者を迎え打つ準備をしっかりと終えていたらしい。
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