タイトル.02「英雄気取りのヤローが来た!(後編)」
消えた炎の中、カルラは現れた。
(耐えやがったのか……!?)
アキュラの目つきも驚愕のものへと変わった。
店を考慮したとはいえ大火力。外皮どころか内の骨身と臓器を微塵残らず消し飛ばすほどの大爆発だったはずだ。
「もし防御がもう少し遅かったら……いや、やめとこう! 敗北したヒーローの姿は想像するもんじゃありません!夢が壊れてしまいます!ここ、テストに出ますよ」
だが、カルラは原型を留めている。
多少の黒焦げを顔面と学ランに残しているだけだ。それ以外に目立った傷は見受けられない。
「しっかし容赦ないねぇ……見た目が見た目だから油断した」
マッド・ファイア。日本語にして”狂った炎”。
その異名にピッタリの大火力だった。カルラは自身に襲い掛かった炎の味を賞賛している。
「俺っちはコッチの世界ではデビュー戦になる…… 主人公の活躍のためにも、かませ犬くらい受け持ってくれる優しさを見せてもいいんじゃない?」
同時、再度宣戦布告もする。
その刺激的な炎を受け止めた、ビームサーベルらしき武器を構えながら。
「……悪いが、身勝手な主役の都合で生きちゃいねぇんだよ」
床に痰を吐き出し、アキュラはさっと身構える。
「こっちもタダの酔っ払いだと侮ったよ。ちょっとはやるようだ」
カルラの手に握られている謎のサーベル。
サーベルの刃は真っ赤な光を帯びている。触れただけでも焼け爛れそうだ。
(ただの棒切れじゃねェな……)
アキュラは自身の能力を受け止めた剣に集中していた。
(さてと。オレを遠回しにチビだとコケにしたアイツをどうブン殴ってやるか)
次の一手を、探し出そうとしていた。
『エクトプラズマ、全肉体への投与確認。筋力増強、思考能力向上、共に推定数値への到達を確認。カルラ・カミシロ、戦闘態勢・
-----瞬間、聞き覚えのない少女の声。
「了解、フェーズ1」
『
淡々とした低いトーン、大人っぽくも幼さを感じられる可憐な声。
(声ッ!?)
突然聞こえた声にアキュラはあちこちを見渡した。
(何処だ? 何処から……?)
酒場のマスター、他の便利屋達と飲んだくれ? いいや、違う。
声は明らかに女性の声。だが、この場にいる女性はアキュラ以外にはシルフィしかいない。しかし、シルフィは唖然としているために声一つ上げていない。
思い返してみると声は電子で作られたような、やや特殊な声だった気がする。
『……ご主人』
また、声が聞こえた。
『いきなりの大出力は制御装置に負担がかかるぞ。こっちの世界に来て数日、メンテナンスの手段は未だに発見できないこの状況。オーバーヒートを起こしたら洒落にならないのが分からんのか?』
(また、声が……!?)
アキュラ、二度目の驚愕である。
聞こえた声が先と比べて印象がまるで違う。最初はコンピューターロボットチックに感情もなく淡々とした声であったが、次第にその声、おいたが過ぎた主人を小耳に挟ませる程度で説教する従者らしき声へ切り替わる。
(まさか、声はあそこから、か……?)
耳を澄ませる。声はカルラの方向から聞こえている。
(何かしらのシステムの音声ガイドってやつか? マニュアル通りの対応を仕込まれたAIにしては感情的すぎるというか……)
カルラが腰にブラ下げている謎の電子装置。ビームサーベル・村正にエネルギーを送り込んでいると思われるあのマシンから聞こえる声だ。
「緊急事態だし、許しておくんなまし」
『ご主人の緊急事態は今日で800と67回目。どんだけ窮地に立たされておるのだ』
「ピンチなシーンでこそヒーローは輝くってもんでしょう」
『そんなピンチに数百回付き合わされる世話係の気持ちも考えよ』
小耳に挟む程度から執拗に。カルラは面倒気に言い返すを繰り返している。
「そんなこと言って、数百回も付き合ってくれるなんて~……ヨカゼちゃんはツンデレだねぇ~。このこのォ~」
『かくいう私も、ピンチなご主人を颯爽と助けて愉悦に浸るのが楽しみなのだ。無様な真似を見せて、私の顔に泥を塗るのではないぞー? ご主人?』
気のせいか。罵倒のスパイラルから空気が良くなってきたような。
「アッハッハ! 最高だぜ、ヨカゼ! どれくらい最高かと言うと……とにかく、最の高だなァッ!」
「『アッハッハッハッハッ!!』」
喧嘩が終わったのか二人仲良くジョークまじりに笑い出した。
いや、正確には一人と一機と言うのが正解なのだが。
『敵は何人だ?』
「一人。間違いなく強敵ですぜぇ……チーズドリアにされるところだった」
村正。カルラはそう呼ばれた剣を構える。
『なるほど……となれば敵は、ついに異世界人が相手というわけか!』
「ああ、そうだ! だから、遠慮はいらねぇ! 最初からエネルギーけちらず行きましょうぜ、旦那ァ!! 今からが新世代ヒーローの活躍の見せどころォ!!」
主人の指示に従うよう、剣に纏われた謎のエネルギーがより色濃くなってく。
「フェーズ2だ! 久々の戦闘なもんで、ブランクの心配で動けるか否か……まずは少しずつエンジンを温めていく」
『了解だ。ご主人』
剣がさらに輝きを増す。
マグマ、あるいは蛍光色のつけられた水のような粘り気。熱気を纏うソレは刃から一滴たりとも垂れおちることなくへばりつく。
『エクトプラズマ装填! フェーズ2、移行ッ!!』
コンピューターからも何かしらの駆動音が聞こえる。
何かしらが回転する音。モーターか、或いはローラーなのか。
それはまるでバイクのエンジン音のようなものだ。その音が高くこだまするたび、カルラのテンションはより上がっていく。
「よっしゃぁ~ッ!! 行くぜ行くぜ行くぜぇ!!」
ビームサーベル・村正を手に、カルラはアキュラへと迫る。
「おっぱめようかァッー!」
「さっきから一人でギャーギャー吠えんなッ!!」
アキュラは即座に右手を炎上。カルラの一打を受け止める。
グローブには特殊の金型が埋め込まれている。そして纏うのはビームサーベルに負けぬ熱量の炎。刃とグローブ、互いの熱のこもった一撃がぶつかり合う。
「それじゃぁ、よーく御覧じろ! 大ヒーロー、カミシロ・カルラの大活劇ィ!!」
「調子づくんじゃねぇぞ! 」
炎を纏った両手を駆使し、カルラの剣劇を幾度となく回避する。一方でアキュラも数度、反撃をカルラに突っ込んでいく。
「今日も主役もこのカルラがいただきだァー!!」
「この、アマチュアがぁあッ!!」
勝負は互角。二対の炎が酒場で火花を散らす。
(どこもかしこもフザけた野郎だ、コイツッ!)
刹那。アキュラは舌打ちをした。
(剣捌きは騎士や侍を冒涜するレベルで滅茶苦茶だが一発一発が重ぇ……次の攻撃への間の隙も一切ねぇッ! 油断したら一発でもってかれる!!)
剣と拳。静かなヒートアップを続ける最中、アキュラは苦言する。
(こんなに面倒な付け焼刃は初めてだ! 純粋なパワーだけでゴリ押す中でしっかりと敵の思考も読みきってる分、タチが悪いっ!! 何より、アイツはさっきので間違いなくヤケドをしたはずだ。 どうしてあんな腫れた腕を振り回して何ともねぇ……!?)
無我夢中で攻撃を続けるカルラへ視線を向ける。この心中の苦言が漏れないよう威嚇を続けながら。
(どうして、それだけの熱量を地肌で受けて何も感じねぇ!?)
アキュラが纏う炎は肌身が溶けるほどの熱量だ。アキュラが身に着けるグローブはそんな炎の熱量に耐え、制御するためのものだ。
一方でカルラは火傷対策のグローブなど何もつけていない。熱を直に感じているはずなのに表情一つピクりとも変えやしないし、勢いも落ちやしない!
(何もかもがフザけてやがる! この野郎ッ……!)
「それじゃ、エンジンも温まったところで……必殺技ターイム!」
カルラが身構える。その瞬間、村正の刃の表面が腫れあがっていく。
エネルギーがあの刃一点に集中しているのか……熱量も先の数倍以上に跳ね上がっていく!!
(……チィッ! アイツはッ、まずいッ!!)
体が自然と危機を察した。アキュラは慌てて回避行動に入った。
「
たった一振り。アキュラに向けて放たれた縦振りの一撃。
-----その一撃は
-----酒場の五分の二を吹っ飛ばしてしまった。
再び、閑古鳥が鳴く。
静けさが訪れる。
「「「「「……」」」」」
勝負はついた。木片まみれになった一景色を前、シルフィ達は唖然とする。
「……ふっ、決まったな。見ろ、この世界に突如現れた謎のヒーローの活躍を前に一同驚愕&騒然。ヒロインはそのカッコよさに一目惚れ。異世界ハーレムへの第一歩を踏み出したぜ、俺っち」
『ああ。ただ、その余計な一言と適当に考えた技名を叫ばなければ多少は絵になるのだがな』
あまりに破格な一撃。破天荒な攻撃。
その他大勢一同は……全員まとめて、黙り込む事しか出来なかった。
(はんっ……こんだけ色々な意味でフザけてると思った奴は初めてだッ)
木片まみれの景色から一歩離れた場所で、アキュラは歯ぎしりを鳴らす。
-----奴は一体何なのか?
(……性格はバチクソにムカつくが、楽しませてはくれるじゃねぇか。メチャクチャで刺激的で、久々に興奮したよ)
苛立ちを覚える一方の中で……アキュラは多少、可笑しく笑っていた。
「おい! ポリ公が一斉にこっちに来やがるぞ!」
便利屋の一人が声を荒げる。
「チッ……暴れ過ぎたか」
これだけの騒ぎ。爆発を起こしたとなれば、自然と注目は集まる。
治安維持の悪い地域ともいえど、悪さを働くネズミがそこにいるならば……秩序の為にと鉄枷をかけに来るのが都市のポリスメンだ。
「お前に言うのは反吐が出るほど癪だが置いとくぜ……『次に預けてやるよ!』 」
拳を引っ込め、店から逃げ出す様にアキュラは窓ガラスへと飛び込んだ。
「……どれだけ腕を立たせても、やっぱ一人じゃ無理があるか。不便だなッ」
アキュラは去り際に舌打ちをした。
それは楽しみが奪われた事へ対してのモノだったのか。それともカルラに対してB級映画バリの捨てセリフを吐いたことへの屈辱だったのかは分からない。
もの惜しげにアキュラは酒場から姿を消した。脱兎のごとく一瞬で雲隠れした。
「え? ポリス? 異世界のポリスってこと?」
終わった戦闘。固まっていたカルラは状況を理解する。
「ねぇ、ひょっとして、ピンチじゃない?」
『マズいと思うぞ。異能力に異種族、その他諸々のトンデモ要素が飛び交っているこの異世界。そんな世界で活躍している警察が面倒じゃないわけがない』
淡々と、剣のシステムと思わしき声も現状況のまずさを淡々と伝える。
「ノォオオオッ!? オーマイガッ!? 最近空腹続きの生活ではあるけれど、刑務所で飯なんてお断りだぞォーッ!?」
軍隊の行進の如くその場で足踏みを高速で始める。カルラは自身が食べ散らかしたテーブルの上にこの世界の単価と思われる紙幣を数枚叩きつける。
「ちょっと! そこで座ったままの被害者ヒロインさん?!」
アキュラの攻撃によって開いてしまったお店の風穴、そこから脱出を試みるカルラはシルフィへ手を伸ばし、叫ぶ。
「とっとと逃げますよォ! チクショウが、なんでこんな面倒な事に!?」
『百パーセントご主人のせいじゃろ』
-----珍妙不可思議。胡散臭い。実に怪しい男である。
「ほら! 早く、早くッ!」
伸ばされる腕。
本来であればお断りと言いたいところだ。こんな怪しい男の救いの手。
「……私、は」
しかし、シルフィは理解できなかった。
「……っ!」
何故こんなクソほど面倒くさく、今後絡むことも一生考えない方がいいはずのこの男が伸ばした手を。
「あの、そのっ」
握ってしまったのだろう、と。
「ご機嫌よう諸君! お詫びにこのお店の口コミは誠心誠意を込めてやらせていただきますッ!」
カルラはシルフィの体を持ち上げると、そのまま米俵のように肩へ担ぐ。
「え?」
「えー、続きましては街中~、街中~……発進!!」
その姿勢のまま、窓ガラスをぶち破って外に出る。
「えぇええええええ!?」
規格外の行動の連続にシルフィは目が醒めたように叫びだした。
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