05 The “Central”

 セイバー夫人が導くままに、目の前に立つ白い機械騎士ロボット“セントラル”へと右手を伸ばす。

 視界に“equip”の文字がポップアップ。コントローラのトリガーを引く。


 ――次の瞬間、俺の視界は地上30メートルのから石畳のフィールドを見下ろしていた。

 視界の両端から足元へ向けて赤色のサーチレーザーが伸びていたので、すぐに合点がいく。


「これ、“セントラル”の視点か」


 それ以外にも、HMDゴーグルを通して見る風景には見慣れない照準マーカーや弾丸のアイコンなどが重ねられている。

 どれもThe Universeユニバース基本設定デフォルトには存在しないUIインターフェースだ。


「普段のわたくしは剣、“セントラル”は鎧よ。とうぜん誰かが装着してくれないと動くことができない。理解できて?」

「はい。凄いですねこれ……夫人の自作、ですよね?」

「当然よ。モデル、UIの素材から装着equipシステムまで全てね」

「さすが――」


 話をさえぎりゴーレムが殴り掛かってくる。


 夫人との会話に集中していた俺は反応が遅れ、ダメージを覚悟した。が、即座に視界の下――セントラルの胸に赤く輝く一対の大きな眼のような部分から立て続けに光弾ビームが発射され、ゴーレムを怯ませた。


「これが三連装ビームカノンよ。あとは両肩にマイクロミサイル。こういったわたくしが操作するから、ルミナさんは騎体を動かす方に集中できるわ」


 複座型の戦闘ロボットってことか。これは、だ!


「やばい、テンション上がってきた」

「ウフフフ、わたくしもよ」


 夫人の操作コントロールにより、左腕と一体化したバックラーの裏から手の甲へ向かって“グリップ”が伸びる。

 今度は俺が右手をそのグリップへ伸ばし、コントローラのトリガーを引く。

 コントローラが少し振動して、自分アバターが何かをつかんだ事を示す。

 それを合図に右腕を“鞘をはらう”ように動かす。


 “セントラル”が手にした剣の柄から幅広の刀身が伸びる。柳葉刀りゅうようとうだ。いや、ここはあえて青龍刀せいりゅうとうと呼んでおこうか。


 ビーム攻撃から立ち直ったゴーレムがふたたび突進してくる。


 “セントラル”おれは右手の青龍刀を正面から打ち込む。


 たった一撃で、巨大なゴーレムの胴体がバラバラに粉砕された。


 石の五体が崩れ落ちる。俺は構えをとり、戦闘態勢ポーズを維持。


 ――案の定、胴体を再生させたゴーレムが鈍重な動作で立ち上がる。


「一気にバラバラにすれば良い、ってワケでもなさそうですね」

「ワールドの製作者さんが攻略法ギミックを用意していらっしゃるのね。きっとだわ、ルミナさん」


 夫人は“セントラル”の頭部レーザーを操作して、ワールドのある位置を指し示す。

 天井が崩れて朽ちた石造りの建造物。大きな“祠”に見えるそこへ、メッくんが向かっている。


 よく見れば、バケツヘルムメッくんは緑色のでっかい球を両手に抱えて運んでいた。

 彼が祠の中央にある祭壇に緑の球をセットすると、再生したばかりのゴーレムが一度ビクッと痙攣して頭と右ひざから石の破片がはがれ落ちた。

 はがれ跡に青白い光の粒子パーティクルを噴き出す紋章が出現。頭と右ひざだけでなく、背中からも同じパーティクルが噴き出していた。


「素晴らしいわ。ファインプレーね、メーデーさん」

「“弱点”は3つ。一気にいきましょう、夫人ッ!」



 胸部ビームカノンを斉射すると同時に肩のミサイルを山なりの軌道でゴーレムの背後へ回り込ませる。


 膝にビームを受けたゴーレムが体をくの字にまげるダメージ姿勢モーションをとる。

 その背中へミサイルが降り注ぎ、衝撃で直立の姿勢に戻される。


 俺は右手を上段に構えたまま左コントローラのパッドを押し込み前進。

 一気に踏み込んだ“セントラル”が、まっすぐになったゴーレムの脳天から股下までを唐竹割りに両断した!




 *



「ご、ごめんなさいっ! 後から出てきたルミナさんたちのロボットの方を見てました……」


 「ゴーレムをドリルで粉砕した自分の活躍を見ていたか」とグイグイ詰め寄っていたドリルばんちょうは、メッくんの意を決した告白に言葉をうしなった。

 ようやく静かになって結構なことだ。



「そういえば訊きそびれてたけど、ドリルばんちょうは誰のフレンドなの?」


 俺はこのワールドが“入室権限:フレンド限定”に設定されていたのを思い出した。

 少し沈黙の間があってから、またメッくんが気まずそうに口を開き。


「あの、ボクみたいです。さっきの“お空の浮遊島”で居合わせた人たちがみんな一度にフレンド申請してきたので……」


 片っ端から承認したってことか。


「その選択はイエスですよォ! フレンドが多ければ多いほど、こうして来られる場所が増えますからねェ!!」


 10秒ほどで復活したドリルばんちょうの言葉に、俺ふくめ他のフレンドたちも「うんうん」とうなずく。

 まあ、今日みたく「いつフレンド登録したか分からない人が混じってる」なんてこともたまによくあるけどな。


 しかしドリルばんちょうみたいなヤツなら一発で印象に残る気もするが。

 メッくん昨日どんな面子メンツと遊んでたんだ?


 などと考えていると、視界にアイコンがポップアップする。



 ――ドリルばんちょうからのフレンド申請だった。




「フレンド登録ありがとうねェェェェェェェ! みなさん、今後ともよろしくお願いしまァァァァァァァァす!!!」



 「だってお前、拒否ると面倒くさそうだし」などとは思ってても誰も言わないでいてあげる――ここはとてもやさしい世界だった。

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