04 ゴーレム対ドリル
中腰の姿勢から膝を伸ばし、石の
片方だけでも塔の根元みたいな太い両足をゆっくりと動かして、向きを変える。
ゴーレムの膝がおもむろに持ちあがる。即、後ろを向いて全力ダッシュ!
俺たちはとにかく散り散りに逃げ回る。ゴーレムは明確にプレイヤーを狙ってきていた。
「思ったよりずっと早い!?」
ゴーレムの動きは鈍重に見えるが、人間サイズの俺たちとはスケールが違う。
奴が一歩ふみ出す間に、こちらは百メートル近くを全力で走らされるのだ。
「逃げ回ってばかりもいられないか。夫人、お願いします!」
背負っていたセイバー夫人を抜くと同時に斬撃エフェクトを飛ばす。
メッくんを掴もうとしていたゴーレムの右腕を、三日月型の光が肘のところで斬り落とした。
しかしそれも時間稼ぎにしかならず。
切断された部分から数秒で新しい腕が生えてきた。
今度は剣を連続して振るい、五発の斬撃と突きのビームを飛ばしてみる。
セイバー夫人によるエフェクト攻撃はやはりケタ違いの威力で、あっさりとゴーレムの手足を切断し胴体を貫いた。
が、ダメだ。
点や線で破壊してもすぐに再生してしまう。
これはまともに戦って倒すタイプの“ボス敵”じゃないな。
「逃げ回りながら攻略法を探すしかない――かっ」
バケツヘルムはうまくゴーレムの死角へ回りながら、ワールドのあちこちを走り回っている。
そしてドリルばんちょうは――いなかった。
そういえばさっきから静かだな。
まさかとは思うが、
「ドコーン――ドコーン」
疑念を抱いた俺の耳に、どこからか重低音の“鼓動”がきこえてきた。
「ギュイイイイイイイ」
続いて、くぐもった“回転音”。
音が地中からのものだと気づいたとき、石畳の地面が間欠泉のように弾けた!
「お待たせしましたァァァ! データの読み込みに少々時間がかかりましてェェェ!」
エコーがかかって更にやかましくなったドリルばんちょうの声は、地面を突き破って出現した黒鉄色の巨体から響いている。
それは黒い“巨大ロボット”型のアバターだった。
V型エンジンに似た本体から太い手足が生えた武骨なシルエット。
全身を黒鉄色の重厚な装甲で覆う中、左腕の円錐形をした戦闘用ドリルが
「これが私の“ドリル28号”でェェェェす!!! 身長30メートル、55000ポリゴンーッッッ!!!!!」
叫び声に近い大声を発し、ドリルばんちょう操るドリル28号はフロントダブルバイセップス……いや、伝統的な“スーパーロボットのポーズ”をとってから、目の前のゴーレムに前蹴りを喰らわせた。
その肩口へドリルで
ドリルばんちょうは倒れたゴーレムを悠々と見下ろし、右手の中指を立ててみせる。
「だァァァいじょうぶ、ボスは私にまァァァかせてェ! みなさんはスクリーンショットでも撮影していてくださァい!!! そしてSNSにアップロードをお願いしまァァァす! あとでエゴサーチするので!!!!!」
自己顕示欲が強い!
その分ロボットもきちんと強く、ゴーレムと互角以上の殴り合いを始めた。
「ダンジョンを抜けたらこんなボス戦があったんですねェェェェ! ひとつめの方はドリル使って最速で抜けて皆さんと合流したので気が付きませんでしたァァァーッ!」
ワールド全体に岩と鉄がぶつかる音、そしてドリルばんちょうの叫び声(エコーつき)が絶え間なく轟く。非常にうるさい。
なかなか決着がつかない騒音多重奏に「しばらく本当にミュートしとこうかな」と思い始めたとき、更に新たな地響きがきこえてきた。
「る、ルミナさん。ドリルばんちょうさん、さっき“ひとつめ”って言ってましたよね? じゃあこのワールド、もう一つ同じようなダンジョンがあるってことですよね? ってことは――!」
せっぱつまったメッくんの声に応えるかのように、向こうの壁をぶっ壊しながら石の巨人がもう一体あらわれた!
「ワールドの製作者さァァァん! ギミック無視しちゃってごめんねェェェェェ!」
「謝るんならさぁ、こっちにも謝ってくんない!?」
「さっき何ヵ所か、安全そうな場所は見つけました! ボクについてきてください!」
バケツヘルムが駆け出す。
「ルミナさん、念のため確認しておくわ。インターネットの回線速度はよろしくって?」
そんな中、夫人の声はいつも通り落ち着いていた。
いや違う。
――それで俺は、セイバー夫人の意図をなんとなく察した。
「だいたい下りで700MB/秒ってとこですかね」
「素晴らしいわ」
言って、セイバー夫人はひとりでに
青い玉が膨らむ。
あるべき
アバターの読み込みが終わると、
全高はドリル28号と肩を並べる30メートル。
武骨な黒鉄色のドリル28号に対し、こちらはスマートな白いロボットだ。
足元はピンヒール。
背骨そのままの細い腰に対し、
グレーのフレームにとりつけられた白色装甲には青く発光するエネルギーラインが流れている。
両腕の盾と肩口から伸びる大きな角は龍を思わせた。
側頭部のユニットから赤色のサーチレーザーを発振し、いくつものバスドラムと鈴の音を規則的に鳴らしたような動作音を響かせる。
俺はしばらくその姿を見上げていた。
ああ、そうだ。
俺はこのロボットに見とれていたんだ。
なんて美しい、機械仕掛けの――
「これがDr
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